君は僕の番じゃないから

椎名さえら

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エリーゼ

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幼い頃から隣に住んでいる3歳年上のアーヴィンがずっとずっと好きだった。
アーヴィンは見た目も中身も極上!!!
それはもう嫌がられるくらい側にいて、彼の番は私ではなかったが、彼も私のことを好きだと信じていたのに。

「僕たちもういい年だからさ、ちょっと距離置かないか」

彼が18歳、私が15歳のある日、そうやってアーヴィンがあっさり言った。アーヴィンは今年で学校を卒業して、頭のいい彼は上の学校に進んで、果ては学者か官僚か。彼の未来は明るい。たいして私はそこまで頭が良くないし勉強もそんなに好きではないから、彼を側で支えられたらいいなって思っていた、のに。

「僕、そろそろ本気で一度番を探してみたいんだ、だから…」
「私、本当にアーヴィンが好きなんだよ!番なんて探さなくていいじゃん!」

必死に縋ったが、彼は頑固に首を横に振った。

「いやいや、もしエリーと結婚してから番に会ったらと想像してくれる?不幸しかないよ」


番とはーーー

簡単に言うと動物的に相性が最高にあう、といわれている組み合わせである。一目会った時に分かると言われていて、番に会ってしまうとどうしてもその人と番うことしか考えられなくなると言われている。男女の関わり関係なく組み合わせがあって、番届けを出せば、同性同士のカップルでも役所に正式な夫婦として認められるくらいの市民権があるものであるからアーヴィンの言っていることは間違っていない。
番に出会って結婚できる人はしかし1割いるかどうか、とは言われているのだが。


要は。


私は、完璧にフラれたってわけ。



打ちひしがれて家に帰宅すると、アーヴィンと同い年の兄のマークが生ぬるい顔をしてこちらを見た。彼もアーヴィンと同じ上の学校に進んでいるが、何故かは知らないがいつも暇そうだ。

「どしたん?お通夜的雰囲気だけど」
「アーヴィンにフラれた」
「え、前からずっと相手にされてないじゃん」

兄の心ないが真実をついた一言が私の心を鋭くえぐった。

「今日はもう完璧にフラれたコテンパンにされたもうゴミみたいに踏みにじられた」
「え、だからいつもじゃん?」
「ううん…」

マークは分かってない。
私には分かる。
今日のはマジで最後通牒だった。

「お兄ちゃん!私もうこの家から出てく」
「は?お前15歳でどうやって家出てくわけ」
「お父さんのところに行く!アーヴィンが番を見つけて、隣でイチャイチャしだしたら私それこそ死ねるから」

測量技師である父は国中の工事現場を転々としながら、一年の殆どを単身赴任ってやつをしている。私はただただアーヴィンの近くにいたかったから今まで考えたこともなかったけど、新天地に行くのはフラれた身としては正しい判断かも知れない。

「まぁなぁ…お前がアーヴィンの番じゃないのははっきりしてるしなぁ」
「もういいよ!アーヴィンのことは忘れて私はお父さんのところに行く!」
「相変わらず前向きだな」
「アーヴィンが番と結婚して家を出たらここに戻ってくるから!」
「振りきり方がすげぇなぁ」

兄は苦笑して、私の頭をポンポンと叩いてくれた。

「分かったよ、俺がオヤジのところまで送っていってやるからな。転校の手続きも俺やってやるし」
「ありがとうお兄ちゃん」

理解ある、いい兄がいて幸せだ。

じゃそうなったらお袋に話しに行かなきゃな、と兄が母に話をしに部屋を出ていくと、それまで我慢していた私の両目からとめどなく涙があふれた。

今日だけ。
泣くのは、今日だけ。

さようなら私の初恋。






翌朝、早速出立することにしたら、家を出た時に偶然ばったりとアーヴィンに会った。家が隣なのでこんなことは日常茶飯事だ。

「あれ?どうしたのそんな荷物持って」

学校に行く以外滅多に外出しない私が大荷物を持っているのに驚いたようだ。私は強いてにこりと微笑んだ。

「お父さんのところに行くことにしたの」
「は?」
「もう、ここには帰ってこない。もうこれ以上アーヴィンの邪魔はしないから安心してね!」
「は?」

戸惑っているアーヴィンの姿を目に焼きつける。
綺麗な金髪も、素敵な緑色の目も、色素の薄い感じの肌も、全部、見納めだ。

「今までありがとう」
「え?は?僕、理解してないけど…どういうこと?」

その時兄が家から出てきて、おはようアーヴィン!と元気よく挨拶をした。

「マークこれ一体どういうことなの?」
「ん?いやエリーがオヤジのところでこれから暮らすっていうから俺が送りに行くんだ」
「親父さんってここから2時間くらい離れた街に住んでるんじゃなかったっけ?」
「そうだな、だから俺が送りに行くんだが」

アーヴィンがここまで食い下がるのは正直意外だったけど、彼は優しい人だし、まぁ突然幼馴染が出立するって言ったから驚いたかな。昨日の今日だしね。

「あのね、アーヴィン、ホントは…私も前から考えていたことではあったの。ちょうどよかったんだ」

アーヴィンが昔から番を探したい、と思っていたのは知っている。
私がどうしても彼が好きで諦めきれなくて、独り占めしていたから彼がなかなか言い出せなかったことも。私はアーヴィンがいてくれたらそれで良かったけど、彼にとってはそれでは物足りなかったのも本当は分かってた。いつかは彼の手を離さないといけないんだってことも。だって私は彼の番じゃないから。

「今までずっと邪魔していてごめんねーー番さんとお幸せに」

今度は心から微笑むことが出来た、と思う。

呆然としているように見えるアーヴィンを最後にもう一度だけ視界におさめると、私は振り返らず兄と歩き出した。


今度こそ、さようなら、私の初恋。

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