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本編
17. 宝石の種類
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売るものは売れた。あとは鶏小屋用の鉄線を買って、小麦とかの食糧を予約しに行くだけ。重いものを沢山持って森を抜けるのは危ないから、数日置きに取りに来る約束をするのだ。
「もー、いつまでショック受けてんの。早く歩いてよ」
「……俺はそんなに老けて見えるのか?」
「そりゃ私と比べれば。実際かなりのジジイでしょ」
「……まだせいぜい三百年くらいだ」
「え、ジジイじゃん」
「若い方なんだ、これでも……」
魔族すごっ。
言いかけた口を噤んで心の中だけで感嘆した。この人の賑わいでは他人の会話など誰も聞いていないだろうが、それでも直接単語を出すのは避けた方がいいだろう。
考えたことはなかったが、男は人間でいうと三十代に見えるから、大雑把に計算すれば人間の十倍の遅さで歳を取るということだろうか。となると……。
「誤差だな」
「?」
「私があんたの見た目に追いつくのってどれくらいだろうって考えたけど、どうせその頃になってもあんたは大して変わらないんだろうなと」
大体あと二十年くらいだろうけど、そんなもん魔族にとっては誤差だろう。
「ま、そう考えたらいつか見た目の年齢なんて逆転するんだし、気にすることもないでしょ」
「……ああ。……そうだな」
「だからほら、さっさと歩いて。やっぱその顔見慣れないし早くそれつけて見せて」
指差した男の胸ポケットには、さっきの銀の組紐が入っている。男は視線を落とし、何故か疲れたように微笑んだ。
「……重いなら持とうか?」
空き瓶の袋、中身がないとはいえガラス製だ。手を差し出すと男は首を横に振った。
「お前に持たせるほど非力じゃない」
まあ本人が言うならいいだろうと視線を前に戻した――が、あるものを視界の端に見つけてぐわっと目を見開いた。
「どうした?」
「けっ、ケーキ……!」
通りに面した壁に大きなガラスがはめ込まれていて、その内側の棚に鎮座する真っ白い存在。私はアレを知ってる。オブジェか何かと見間違うほど美しいアレは、ケーキというものだ。
「うっ……売ってる!?」
そこは喫茶店だった。心持ち綺麗な服を着た人が集まっていて、開かれた扉の中にお茶とケーキを楽しみながら談笑しているのが見える。外にも人は並んでいる。
「なんだ、売っているものなのか。買いに来れば良かったな」
「いやっ、冬前には見なかったよ!? ただの焼き菓子とパンのお店だったのに」
こんな風になっていたなんて衝撃である。近づいていけば甘い匂いが漂っていて思わず変な声が出た。ケーキ以外にも似たような形をした黄色いものや黒いものもある。果物は乗っていたり乗っていなかったり。こっちは何だろう。
「チーズケーキにガトーショコラ……随分と種類があるな」
「チーズケーキ? えっ? ケーキ?」
「ここに並んでいるのは全部ケーキだぞ」
「そうなの!? えっ、白いのは!?」
「ショートケーキという種類だ」
「そうなの!?」
あんな美味しいものに種類があったなんて!
じーっとガラスの向こうを凝視する私に男が訊ねてくる。
「食べたいのか?」
「………いや」
見ればわかる。砂糖をあれだけ使う菓子なんだから、商売として成り立たせるにはかなり金を取るに違いない。葡萄も旬じゃないから、きっと遠くから運ばれてきたものだろう。店構えも細かな装飾があったりして小洒落ているし、客も小金を持ってそうだ。
それに……さっきから視線が突き刺さっている。森を抜けて土がこびりついたブーツに、繕った痕だらけのローブ。私の全身に纏わりつく意味に気づかないほど、鈍感ではない。
「行こ」
踵を返したところで、声がした。
「おや、入らないのか? お嬢さん」
目の前に、派手な髪の男がいて私を見ていた。黄色の強いギラギラした金髪に小さな赤い石をいくつも連ねた紐を編み込んだ、そして髪に負けないくらい綺麗な顔の男だった。
「もー、いつまでショック受けてんの。早く歩いてよ」
「……俺はそんなに老けて見えるのか?」
「そりゃ私と比べれば。実際かなりのジジイでしょ」
「……まだせいぜい三百年くらいだ」
「え、ジジイじゃん」
「若い方なんだ、これでも……」
魔族すごっ。
言いかけた口を噤んで心の中だけで感嘆した。この人の賑わいでは他人の会話など誰も聞いていないだろうが、それでも直接単語を出すのは避けた方がいいだろう。
考えたことはなかったが、男は人間でいうと三十代に見えるから、大雑把に計算すれば人間の十倍の遅さで歳を取るということだろうか。となると……。
「誤差だな」
「?」
「私があんたの見た目に追いつくのってどれくらいだろうって考えたけど、どうせその頃になってもあんたは大して変わらないんだろうなと」
大体あと二十年くらいだろうけど、そんなもん魔族にとっては誤差だろう。
「ま、そう考えたらいつか見た目の年齢なんて逆転するんだし、気にすることもないでしょ」
「……ああ。……そうだな」
「だからほら、さっさと歩いて。やっぱその顔見慣れないし早くそれつけて見せて」
指差した男の胸ポケットには、さっきの銀の組紐が入っている。男は視線を落とし、何故か疲れたように微笑んだ。
「……重いなら持とうか?」
空き瓶の袋、中身がないとはいえガラス製だ。手を差し出すと男は首を横に振った。
「お前に持たせるほど非力じゃない」
まあ本人が言うならいいだろうと視線を前に戻した――が、あるものを視界の端に見つけてぐわっと目を見開いた。
「どうした?」
「けっ、ケーキ……!」
通りに面した壁に大きなガラスがはめ込まれていて、その内側の棚に鎮座する真っ白い存在。私はアレを知ってる。オブジェか何かと見間違うほど美しいアレは、ケーキというものだ。
「うっ……売ってる!?」
そこは喫茶店だった。心持ち綺麗な服を着た人が集まっていて、開かれた扉の中にお茶とケーキを楽しみながら談笑しているのが見える。外にも人は並んでいる。
「なんだ、売っているものなのか。買いに来れば良かったな」
「いやっ、冬前には見なかったよ!? ただの焼き菓子とパンのお店だったのに」
こんな風になっていたなんて衝撃である。近づいていけば甘い匂いが漂っていて思わず変な声が出た。ケーキ以外にも似たような形をした黄色いものや黒いものもある。果物は乗っていたり乗っていなかったり。こっちは何だろう。
「チーズケーキにガトーショコラ……随分と種類があるな」
「チーズケーキ? えっ? ケーキ?」
「ここに並んでいるのは全部ケーキだぞ」
「そうなの!? えっ、白いのは!?」
「ショートケーキという種類だ」
「そうなの!?」
あんな美味しいものに種類があったなんて!
じーっとガラスの向こうを凝視する私に男が訊ねてくる。
「食べたいのか?」
「………いや」
見ればわかる。砂糖をあれだけ使う菓子なんだから、商売として成り立たせるにはかなり金を取るに違いない。葡萄も旬じゃないから、きっと遠くから運ばれてきたものだろう。店構えも細かな装飾があったりして小洒落ているし、客も小金を持ってそうだ。
それに……さっきから視線が突き刺さっている。森を抜けて土がこびりついたブーツに、繕った痕だらけのローブ。私の全身に纏わりつく意味に気づかないほど、鈍感ではない。
「行こ」
踵を返したところで、声がした。
「おや、入らないのか? お嬢さん」
目の前に、派手な髪の男がいて私を見ていた。黄色の強いギラギラした金髪に小さな赤い石をいくつも連ねた紐を編み込んだ、そして髪に負けないくらい綺麗な顔の男だった。
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