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取り残されました
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婚儀を見届ける所か、破談の原因になるなんて、そんな馬鹿なっ。
衝撃に頭ががんがんする。
ああ、そっか。侍女の不始末で公爵家の家宝が失われただなんて、アッシュフィールド侯爵家側だって強くは出れないのかも。
「ひとまず現状は把握できたようだね」
すっと椅子から立ち上がると、彼はあたしの傍らをすり抜けた。
「ジェラール。令嬢をお通しして」
背後でそんな声が聞こえた。
茫然としたまま肩越し振り返ると、扉の向こうから焦ったような声が答えた。
「!しかし」
「いいから。————令嬢は明日にも発たれる。別れを惜しむ時間くらい許されるよ」
開かれた扉からお嬢様が姿を見せ、あたしを見るなり駆け寄ってきた。
「ラズ!」
「お嬢様……!」
「無事?どこも傷つけられていない?」
柔らかな手に頬を包まれた。
間近に見える青い瞳が潤んで見える。
心配して下さったんだ。
思わずじーんと感じ入る。
「は、はい。大丈夫です」
「良かった……」
ほっと安堵の息をつくお嬢様の後ろ、リファリスと名乗った人が部屋から出て行くのが見えた。
扉の外にいるかもしれないけど、とりあえず席を外してくれたらしい。
お嬢様は椅子に座るようあたしを促すと、向かいの席に座った。
「宝玉の話は聞いていて?」
「……はい」
「あなたが飲み込む所を私は見ていないけれど、偽りであなたをここへ留める理由がない以上、本当の事なのでしょう。……こんな事になってしまって、ごめんなさい」
目を伏せ、すまなさそうな顔をするお嬢様に頭を振った。
「そんな。お嬢様の所為じゃありません。あたしの方こそ」
「でも……あなたは、ラズではないでしょう?」
「!」
気づいてたの!?
いや、気づかれないのが不思議だとは思ってたけど。
そんな様子これっぽっちも感じなかったのに。
じっと見つめられて、誤魔化しが通じないのがわかって、頷いた。
「……いつからお気づきだったんですか?」
「休暇から戻った時」
初めっからですか!
いや、そりゃあ、バレない方がおかしいって思ってましたけど。
「よく似ているけれど、ふとした仕草とか表情がラズとは違って見えた。ティータイムは特に。あなたはラズより美味しそうにデザートを食べるもの。きらきらした目で」
そこで少しだけお嬢様は微笑んだ。
うっ。
ラズよりがっついてたって事かな……。
それにしても、気づいてたのならどうして知らない振りをなさってたんだろ?
「あなたはラズの姉妹?」
「……はい。すみません。あたしは妹のティコといいます。い、入れ替わりはあたしがラズに提案して」
ラズへの心証を悪くしないよう、弁解するあたしの言葉をお嬢様は片手で制した。
「理由は言わなくてもいいわ。本当は、全て知っているの。ラズが傍を離れた理由も。私は……ラズに私よりも優先させる人ができた事に嫉妬をしたの。だから、少し困らせようとした。でも、意地悪が過ぎたのね。本当の事を話そうと思った時、あなたがラズとして現れた」
————えっ。
じゃあ、ラズが姿をくらます必要はなくて、あたしが身代わりとしてここへ来る必要も、なかった?
まさかの事実に打ちのめされて、茫然とするあたしの手をお嬢さまの手が包み込んだ。
「気まぐれに悪戯心で知らない振りをした私にも責任があるわ。必ず、私が取り出す方法を見つけて迎えに来るから。それまで信じて待っていて」
青い瞳が真摯にこっちを見つめてくる。
けど、お嬢様。
穏便に宝玉を取り出す方法って本当にあるんでしょうか?
お嬢様に両手を包まれて強く握りしめられながら、あたしは現実を受け入れられなくてただ呆けていた。
翌日、城から遠ざかっていく馬車が見えなくなるまで窓に張り付いて見送ったあたし。
ああ、本当に一人取り残されちゃったよぉ……。
::::
幾ら考えても、結論は一つしかでなかった。
――――逃げよう。
取り出す方法何て、そんなの身体切り開く以外にないじゃない!
黙ってそんな未来を待つつもりは毛頭ない!!
問題は、どうやってここから抜け出すかだけど。
扉の前には見張りがいるし、窓から外へに出るにはこの高さだ――――命がけになる。
「……普通のロープじゃ、足りないか」
窓から下を覗き込んで、ごくんと喉を鳴らした直後、小さく笑う声がした。
「また逃げ出す算段でもしているの?」
「!」
喉から心臓が出そうになった。
振り返れば、さっきまで部屋にいなかったはずの人がいる。
「リ、リヒャリスさんっ」
「惜しい、リファリス。けど、言いづらいならリフでいいよ」
「い、いつからここに?」
「ついさっき。ノックはしたよ」
考え込んでたっていっても、この距離に近づかれるまで気づかなかったなんて。
影が薄いわけじゃないのに、気配を消すのが上手いとか?
いきなり核心ついてくるし、油断できない。
「な、何かご用ですか?」
いつでも逃げられるように身構えるけど、彼は気にした様子もなくにこりと笑う。
「状況説明の続きをしに」
は?
状況説明ってあれで終わったんじゃ?
あの説明の他に何があるっていうの?
「ぼけっとしてないで、さっさとこっちに来い」
リヒャ、じゃなくて、リフさんの向こうから、つっけんどんな物言いが飛んでくる。
黒髪の目つきが鋭い人――――この人も確か、ご使者の人だった。
威圧感が半端ない。
「一度に詰め込んでも混乱するだけだと思って、時間を空けてみたんだけど、正直、あまりのんびりと構えてられなくて」
リフさんに丸いテーブルへと促されて、警戒しながらもとりあえず椅子に腰かけた。
向かいの席に座ると、リフさんは話し始める。
「まず、今回の婚礼は政略的なものでなく、他に求められる理由があっての事だった。花嫁になるはずだった令嬢に資質が見込まれての話でね」
「……資質、ですか?」
「そう。公爵家の家宝はそれに不可欠だった。予定してた所有者とは違う人間――――つまり君が所持することになったわけだけど」
「だからといって、貴様が公爵家に迎え入れられるわけではないからな」
「……は?」
はあああ?
冗談じゃないっ。
あたし、それなりに分相応ってものを知ってるつもりだよ。
そんな可能性、砂粒ほども考えちゃあいませんっ。
「あたしの望みは、ポンターギュへ無事に帰る事だけです!」
「……ジェラール、少し控えていろ」
リフさんが窘めるように横目で見ると黒髪の人は、何か言いたげな顔をしつつも低く「はい」と答え、数歩下がった。
「————気分を悪くさせてすまない。ただ、言い方は悪いけど彼の言う通り、それによって君が公爵家に縛り付けられる事はないんだ。家宝を取り出せた後は、望み通り帰郷できる」
「そ、それなんですけど、取り出す方法っていうのは」
「現在魔道医に探ってもらってる」
魔道医?
あたしが怪訝な顔になってたのか、リフさんはああ、と呟く。
「ポンターギュにはいないだろうけど、サージェスには魔力を用いて治療を施す医者がいるんだ。呪術の解除や魔法で負った傷の治療とかね」
……ここにきて、かつて魔女がいた得体の知れない国ならではの単語が。
現在も魔法とか、あるんですか?
ホウキで空飛んだり、指先から火を出したりとか?
微妙な表情をしていると、彼は微苦笑した。
「ぴんとこないかもしれないね。だけど、君を傷つけて取り出すような真似はしないから、安心していいよ」
信じて、いいのかな?
魔法を使うお医者に取り出してもらうっていうのも、正直、不安が残るんですが。
「……あなたはそうでも、公爵さまはどうなんですか?」
大切な家宝を平民の中にいつまでも置いておけないとかって、人知れずばっさりやったりしないって言い切れる?
じぃっと見返せば、リフさんは瞬きの後、安心させるように笑んだ。
「僕は公の意向に沿って動いてる。同じ考えだと思ってくれていい。間違ってもディザレード公側の者が君を害することはない。————この名に懸けて誓う」
……ポンターギュの田舎町で育ったあたしにはよく分からないんだけど、サージェスでは名前に懸けての誓いってそんなに信用度高いのかな?
うーん……あたしには、いまいち説得力に欠けるっていうか。
少し考えて、おもむろに聞いてみる。
「あなたの好物って何です?」
「……ラタの芽、かな」
不思議そうな顔をしつつも答えてくれた。
ラタの木の新芽ね。
早春に収穫できる山菜の王様。
うん、うん。衣をつけて揚げると最高に美味しいよね。
あれはあたしも好き。
「それじゃあ、天地の神様に誓って下さい。今の言葉が嘘偽りなら、一生ラタの芽は食べないって!」
好物を一生食べられないなんて辛すぎるに決まってる。
あたしだったら打ちひしがれて立ち直れない。
天地の神様への誓いは最上級の約束なんだよ、フォンでは。
破れば必ず報いを受ける。
サージェスでもきっとこれは有効だよ。
じっと返事を待つけど、沈黙された。
ん?
ジェラールって人の渋い顔は基本定型なんだろうけど。
リフさんが緩みかけた口元をさっと引き結んだような……?
「……それで君は安心できるの?」
「好物を断つ苦しみは耐えがたいです。かなり信用できます」
大きく頷くとリフさんは口元を押さえて「そう」と横を向いた。
数秒そのままだった彼は、改めてこっちに向き直ると神妙に頷く。
「嘘偽りなく天地の神に誓う。背けば、ラタの芽は生涯口にしない」
誓いましたね?
確かに聞きましたよ!
望む答えが貰えてとりあえず満足する。
「これで僕の言葉を少しは信用して貰えた?」
「はい」
「それじゃあ、その上で君に頼みたいことがある」
ん?
頼み事?
「宝玉を取り出すまでの間、君に協力してもらいたいことがあるんだ」
「協力、ですか?」
しがない田舎娘に何をしろと?
「特殊な務め、なんだけど」
意味深に聞こえるそれが、想像の範疇を大きく超えてるなんてこと、この時のあたしにわかるはずもなかった。
衝撃に頭ががんがんする。
ああ、そっか。侍女の不始末で公爵家の家宝が失われただなんて、アッシュフィールド侯爵家側だって強くは出れないのかも。
「ひとまず現状は把握できたようだね」
すっと椅子から立ち上がると、彼はあたしの傍らをすり抜けた。
「ジェラール。令嬢をお通しして」
背後でそんな声が聞こえた。
茫然としたまま肩越し振り返ると、扉の向こうから焦ったような声が答えた。
「!しかし」
「いいから。————令嬢は明日にも発たれる。別れを惜しむ時間くらい許されるよ」
開かれた扉からお嬢様が姿を見せ、あたしを見るなり駆け寄ってきた。
「ラズ!」
「お嬢様……!」
「無事?どこも傷つけられていない?」
柔らかな手に頬を包まれた。
間近に見える青い瞳が潤んで見える。
心配して下さったんだ。
思わずじーんと感じ入る。
「は、はい。大丈夫です」
「良かった……」
ほっと安堵の息をつくお嬢様の後ろ、リファリスと名乗った人が部屋から出て行くのが見えた。
扉の外にいるかもしれないけど、とりあえず席を外してくれたらしい。
お嬢様は椅子に座るようあたしを促すと、向かいの席に座った。
「宝玉の話は聞いていて?」
「……はい」
「あなたが飲み込む所を私は見ていないけれど、偽りであなたをここへ留める理由がない以上、本当の事なのでしょう。……こんな事になってしまって、ごめんなさい」
目を伏せ、すまなさそうな顔をするお嬢様に頭を振った。
「そんな。お嬢様の所為じゃありません。あたしの方こそ」
「でも……あなたは、ラズではないでしょう?」
「!」
気づいてたの!?
いや、気づかれないのが不思議だとは思ってたけど。
そんな様子これっぽっちも感じなかったのに。
じっと見つめられて、誤魔化しが通じないのがわかって、頷いた。
「……いつからお気づきだったんですか?」
「休暇から戻った時」
初めっからですか!
いや、そりゃあ、バレない方がおかしいって思ってましたけど。
「よく似ているけれど、ふとした仕草とか表情がラズとは違って見えた。ティータイムは特に。あなたはラズより美味しそうにデザートを食べるもの。きらきらした目で」
そこで少しだけお嬢様は微笑んだ。
うっ。
ラズよりがっついてたって事かな……。
それにしても、気づいてたのならどうして知らない振りをなさってたんだろ?
「あなたはラズの姉妹?」
「……はい。すみません。あたしは妹のティコといいます。い、入れ替わりはあたしがラズに提案して」
ラズへの心証を悪くしないよう、弁解するあたしの言葉をお嬢様は片手で制した。
「理由は言わなくてもいいわ。本当は、全て知っているの。ラズが傍を離れた理由も。私は……ラズに私よりも優先させる人ができた事に嫉妬をしたの。だから、少し困らせようとした。でも、意地悪が過ぎたのね。本当の事を話そうと思った時、あなたがラズとして現れた」
————えっ。
じゃあ、ラズが姿をくらます必要はなくて、あたしが身代わりとしてここへ来る必要も、なかった?
まさかの事実に打ちのめされて、茫然とするあたしの手をお嬢さまの手が包み込んだ。
「気まぐれに悪戯心で知らない振りをした私にも責任があるわ。必ず、私が取り出す方法を見つけて迎えに来るから。それまで信じて待っていて」
青い瞳が真摯にこっちを見つめてくる。
けど、お嬢様。
穏便に宝玉を取り出す方法って本当にあるんでしょうか?
お嬢様に両手を包まれて強く握りしめられながら、あたしは現実を受け入れられなくてただ呆けていた。
翌日、城から遠ざかっていく馬車が見えなくなるまで窓に張り付いて見送ったあたし。
ああ、本当に一人取り残されちゃったよぉ……。
::::
幾ら考えても、結論は一つしかでなかった。
――――逃げよう。
取り出す方法何て、そんなの身体切り開く以外にないじゃない!
黙ってそんな未来を待つつもりは毛頭ない!!
問題は、どうやってここから抜け出すかだけど。
扉の前には見張りがいるし、窓から外へに出るにはこの高さだ――――命がけになる。
「……普通のロープじゃ、足りないか」
窓から下を覗き込んで、ごくんと喉を鳴らした直後、小さく笑う声がした。
「また逃げ出す算段でもしているの?」
「!」
喉から心臓が出そうになった。
振り返れば、さっきまで部屋にいなかったはずの人がいる。
「リ、リヒャリスさんっ」
「惜しい、リファリス。けど、言いづらいならリフでいいよ」
「い、いつからここに?」
「ついさっき。ノックはしたよ」
考え込んでたっていっても、この距離に近づかれるまで気づかなかったなんて。
影が薄いわけじゃないのに、気配を消すのが上手いとか?
いきなり核心ついてくるし、油断できない。
「な、何かご用ですか?」
いつでも逃げられるように身構えるけど、彼は気にした様子もなくにこりと笑う。
「状況説明の続きをしに」
は?
状況説明ってあれで終わったんじゃ?
あの説明の他に何があるっていうの?
「ぼけっとしてないで、さっさとこっちに来い」
リヒャ、じゃなくて、リフさんの向こうから、つっけんどんな物言いが飛んでくる。
黒髪の目つきが鋭い人――――この人も確か、ご使者の人だった。
威圧感が半端ない。
「一度に詰め込んでも混乱するだけだと思って、時間を空けてみたんだけど、正直、あまりのんびりと構えてられなくて」
リフさんに丸いテーブルへと促されて、警戒しながらもとりあえず椅子に腰かけた。
向かいの席に座ると、リフさんは話し始める。
「まず、今回の婚礼は政略的なものでなく、他に求められる理由があっての事だった。花嫁になるはずだった令嬢に資質が見込まれての話でね」
「……資質、ですか?」
「そう。公爵家の家宝はそれに不可欠だった。予定してた所有者とは違う人間――――つまり君が所持することになったわけだけど」
「だからといって、貴様が公爵家に迎え入れられるわけではないからな」
「……は?」
はあああ?
冗談じゃないっ。
あたし、それなりに分相応ってものを知ってるつもりだよ。
そんな可能性、砂粒ほども考えちゃあいませんっ。
「あたしの望みは、ポンターギュへ無事に帰る事だけです!」
「……ジェラール、少し控えていろ」
リフさんが窘めるように横目で見ると黒髪の人は、何か言いたげな顔をしつつも低く「はい」と答え、数歩下がった。
「————気分を悪くさせてすまない。ただ、言い方は悪いけど彼の言う通り、それによって君が公爵家に縛り付けられる事はないんだ。家宝を取り出せた後は、望み通り帰郷できる」
「そ、それなんですけど、取り出す方法っていうのは」
「現在魔道医に探ってもらってる」
魔道医?
あたしが怪訝な顔になってたのか、リフさんはああ、と呟く。
「ポンターギュにはいないだろうけど、サージェスには魔力を用いて治療を施す医者がいるんだ。呪術の解除や魔法で負った傷の治療とかね」
……ここにきて、かつて魔女がいた得体の知れない国ならではの単語が。
現在も魔法とか、あるんですか?
ホウキで空飛んだり、指先から火を出したりとか?
微妙な表情をしていると、彼は微苦笑した。
「ぴんとこないかもしれないね。だけど、君を傷つけて取り出すような真似はしないから、安心していいよ」
信じて、いいのかな?
魔法を使うお医者に取り出してもらうっていうのも、正直、不安が残るんですが。
「……あなたはそうでも、公爵さまはどうなんですか?」
大切な家宝を平民の中にいつまでも置いておけないとかって、人知れずばっさりやったりしないって言い切れる?
じぃっと見返せば、リフさんは瞬きの後、安心させるように笑んだ。
「僕は公の意向に沿って動いてる。同じ考えだと思ってくれていい。間違ってもディザレード公側の者が君を害することはない。————この名に懸けて誓う」
……ポンターギュの田舎町で育ったあたしにはよく分からないんだけど、サージェスでは名前に懸けての誓いってそんなに信用度高いのかな?
うーん……あたしには、いまいち説得力に欠けるっていうか。
少し考えて、おもむろに聞いてみる。
「あなたの好物って何です?」
「……ラタの芽、かな」
不思議そうな顔をしつつも答えてくれた。
ラタの木の新芽ね。
早春に収穫できる山菜の王様。
うん、うん。衣をつけて揚げると最高に美味しいよね。
あれはあたしも好き。
「それじゃあ、天地の神様に誓って下さい。今の言葉が嘘偽りなら、一生ラタの芽は食べないって!」
好物を一生食べられないなんて辛すぎるに決まってる。
あたしだったら打ちひしがれて立ち直れない。
天地の神様への誓いは最上級の約束なんだよ、フォンでは。
破れば必ず報いを受ける。
サージェスでもきっとこれは有効だよ。
じっと返事を待つけど、沈黙された。
ん?
ジェラールって人の渋い顔は基本定型なんだろうけど。
リフさんが緩みかけた口元をさっと引き結んだような……?
「……それで君は安心できるの?」
「好物を断つ苦しみは耐えがたいです。かなり信用できます」
大きく頷くとリフさんは口元を押さえて「そう」と横を向いた。
数秒そのままだった彼は、改めてこっちに向き直ると神妙に頷く。
「嘘偽りなく天地の神に誓う。背けば、ラタの芽は生涯口にしない」
誓いましたね?
確かに聞きましたよ!
望む答えが貰えてとりあえず満足する。
「これで僕の言葉を少しは信用して貰えた?」
「はい」
「それじゃあ、その上で君に頼みたいことがある」
ん?
頼み事?
「宝玉を取り出すまでの間、君に協力してもらいたいことがあるんだ」
「協力、ですか?」
しがない田舎娘に何をしろと?
「特殊な務め、なんだけど」
意味深に聞こえるそれが、想像の範疇を大きく超えてるなんてこと、この時のあたしにわかるはずもなかった。
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