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まさかの展開
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隣国サージェスへ向かう日がくるのは早かった。
道中何か起こりやしないかって心底不安だったんだけど、国境沿いで、アッシュフィールド侯爵家の人間はあたし以外全員、ディザレード公爵家の護衛と交代してポンターギュ側へと戻っていき、お嬢様とあたしを乗せた馬車は無事、サージェス入りすることができた。
ディザレード公爵様のご領地はサージェス国の北。
もっと薄暗いような、寂れた街とかを想像をしてたんだけど、途中で目にしたのはきちんと整備された街道や活気のある街。得体の知れなさ感は一切感じなかった。
なぁんだ。魔女だとか何か色々心配して損した。
いたとしても大昔の話だったんだろうね。
目的が果たせられたら、帰りに良さそうなお菓子屋さんでも覗いて行こうかな。
サージェスに来る機会なんて早々ないし。
そうと決まれば、しっかりこのご婚姻を見届けて、侍女生活とおさらばしないとね。
馬車の中でお嬢様と談笑しながら、決意を新たにしたあたし。
到着したディザレード公爵さまの邸宅を見て、度肝を抜かれた。
……でっ、でかい。
アッシュフィールド侯爵さまのお邸もとんでもない広さだったけど。
これはお城。
ツタの絡まる城壁に囲まれたその中へ、馬車は跳ね橋を渡って入城する。
うわぁ……お城なんて初めてだよ。
昔絵本で見たお城とはちょっと雰囲気違うけど。
何ていうのかな、重厚感?
お姫様の住む真っ白で優美なお城っていうより、防衛拠点を守る堅牢なお城って感じだ。
こんなお城に住んでるのは、一体どんな人なんだろ?
お嬢様はお相手の顔どころか年齢さえも知らされていない。
貴族の結婚ってそういうものなのかって、ちょっとびっくりした。
ご立派で国王陛下の覚えもめでたいそうだけど、体調を崩されてからしばらく、王宮でのお勤めを離れてご静養に入られてたんだとか。
今は体調も戻られてるらしいけど……。
……なんとなく、お年のいった気難しそうな人を想像してしまう。
侍女生活数週間のあたしだけど、優しくておっとりしたお嬢様がそんな人にお嫁入なんて微妙な気持ちになる。
そりゃあ、あたしは無事お式を終えてもらわないと困るんだけど。
時が来たら、至急故郷へ帰るようにって便りが届くことになってて、あたしと入れ替わりにドンナさんがこちらに来る手はず。
馬車から降りると、あたしは傍らに立つお嬢様を見た。
そびえたつお城を見上げるお嬢様の横顔は、静かに凪いでいて、どんなお気持ちなのかはわかない。
でも、あたしの手をぎゅっと握りしめたその手は凄く冷たかった。
口には出さなくても、やっぱり心細いんだ。
そりゃあ、そうだよね。
……年が離れてたとしても、公爵様が素敵な優しい人でありますように。
お城に到着して五日後。
ついにその日がきた。
公爵さまは領内の視察でで抜けてるとか何とかで、お嬢様の前に現れることはなく、この日、初めてご対面となる。
小聖堂の壁際で控えながら遠目にみるお嬢様は、緊張からかいつもより白い顔をしているように見えた。
ううん。緊張の所為だけじゃない。
聞き慣れない言語を紡ぐ司祭様の声が響く中、儀式は着々と進められて行くけど――――。
この場にいるはずの人がいない。
花嫁の隣にいるはずの、公爵様が。
なのに何事もなく式は進められていく。
どう考えても不自然なのに、小聖堂にいる誰もそれを変に思っていないみたいに、静かだ。
この国特有のお式の流れ?
途中で現れることになってるとか?
小聖堂の入口をちらちら見るけど、それらしき気配はないし。
悲鳴が上がったのはそんな時だ。
華奢な身体が揺らぐのを見た瞬間、考えるより先に壁際から飛び出した。
それから後の事は酷くゆっくりと感じられた。
喉の奥に焼け付くような感覚がするまでは。
熱い。
息苦しくて、空気を求めて喘いだ。
喉だけじゃない。
全身が火に包まれてる。
皮膚の表面が焼け焦げて、骨にまで達するのを感じて叫んだ瞬間、ひやりとした何かが右手に触れた気がした。
触れられた先から火が消えて、痛みが引いていく。
長く続いた苦しみから解放されて、あたしは意識を手放した。
暫くして、暗闇の中で人の話し声が聞こえた。
『……いかがいたしましょう?』
『こうなってしまっては、選択の余地がないな。彼女にはここで……もらう』
途切れ途切れに聞こえる会話。
『しかし……務まるのでしょうか?このような……で』
『役立ってもらわなければ困る』
一体誰なんだろ、この人たち。
まだ重い瞼を何とか開こうとしてると、そこで会話は途切れた。
硬質な足音が近くなって、誰かが間近に立つ気配がする。
『目を覚ますにはまだ早い』
頭の内に染み込むように声が響いた。
意識がぶれて、急速に闇の中に沈み込んでいく。
::::
唐突に、はっと目が覚めた。
はっきりと見開いた目に映るのは、天蓋。
広い囲いの縁取りには淡いグリーンの垂れ幕が見える。
……ここ、何処?
横たわっていた場所から身を起こそうとして、触れた手触りの良さに手元を見れば、上質な寝具の中にいるらしい。
むくりと起き上がり、周囲を見渡した。
落ち着いた室内装飾だ。
華美過ぎないけど、置かれている花瓶や壁に飾られた絵画とか、洗練された趣味の良さみたいな感じを受ける。
間違ってもポンターギュのフォンにある自室ではないし、最近少しだけ見慣れてきたラズの侍女部屋でもない。
お嬢様の寝室……ううん。お嬢様の部屋はもっと、こう――――ふわふわした雰囲気のお部屋だったはず。
なら、ここは一体……?
寝台から降りると、奥に見える扉の方へ歩いてみる。
「一目も会わせないつもりですの?」
あれ?
これって、お嬢様のお声じゃない?
扉を開けようとしたけど、びくともしない。
「公からお聞き及びのはずでは?————既にあなたの管理下から離れているのです」
対するは、硬い口調の男の人だ。
何の話だろう?
扉に張り付いて耳を澄ませる。
「ですが、このまま何も言わず置いて行くなんて」
「お気持ちはお察ししますが、これよりは我らの領域です。今となっては、あなたが立ち入れる問題ではございません。お引き取りを」
丁寧な口調だけど、お嬢様の言い分を一切取り合うつもりがないのがわかる。
「ただ一言でいいの。せめて、別れだけでも」
「アリーシャ嬢。あなたの行動によっては生まれる軋轢があるとご承知置きください」
お嬢様は誰かに別れを言いにここへ……。
……ん?
誰に?
「気分はどう?」
「ちょっと気だるいけど、平気……!?」
背後からした声に答え返して、ぎょっとした。
あたしの他に誰かいる?
扉に張り付いた状態で振り返ると、窓際の椅子に座ってこっちを見る人がいた。
淡い金髪の男の人。
あたしより四つか五つくらい年上に見える。
整った顔立ちだけど、不思議と冷たさを感じないその人には見覚えがある。
何処で見たっけ……。
まじまじ見ていると、彼は微苦笑した。
「ポンターギュ以来だね。ちゃんと話すのは二度目だ」
すぐにはぴんとこなかったけど、早咲き菫の色をした目に目をとめて、あっと口の中で声を上げた。
「ご使者の人っ」
「あたり」
にこりと笑顔が返ってくる。
何でいるの?
いや、公爵家に勤めてる人だからいても変じゃないけど、この部屋にいるのは解せない。
「僕はリファリス・ローウェン。よろしく」
「あ、ティコ・クルル・シー……」
はっ。
口滑った。
「ラ、ラズです」
不審に思われた?
けど、その人は特に表情を変えることなく、会話を続ける。
「状況説明を仰せつかってね。まずは挨拶しておこうと思って」
今の絶対突っ込まれると思ったんだけど。
というか、状況説明?
「気を失う直前の事は覚えてる?」
「……はい」
!この人がいる理由って、そういうこと!
思い当たると、即座に頭を下げた。
「も、申し訳ありません!お嬢様のご様子が変に見えて、とっさに飛び出してたんです。決してお式を台無しにするつもりじゃなくてっ」
「転んだ拍子に何かを飲み込んだ」
厳しいお咎めを申し渡されるかと必死で弁解するあたしの声に被さるその声。
きらきら光る玉を思い出す。
確かに、飲み込んじゃいましたが。
頷くと、彼は微苦笑した。
「それ、公爵家の家宝だから」
一瞬にしてそれは思考を断ち切った。
ぽかんとして、目の前の整った顔を見返す。
「婚礼の際、儀式の為に使用されるそれが、今は君の中にある」
「!?」
う、嘘ぉぉぉっ!!
喉を押さえるけど、異物感は既にない。
「なっ、何で、かほ、家宝がっ!?」
「どうやら、アリーシャ嬢が手にした宝玉を取り落としてしまったらしい」
取り落とした?
けど、あれは上から降ってきたはずで。
「君が目を覚ますまでの間、色々手を尽くしてはみたけれど、取り出せなくて」
色々?
な、何を?
「その結果、君にはここに留まってもらう事になった」
「……へ?」
「門外不出の宝玉を持ち出されては困る。それが、ディザレード公のご判断だよ」
「!?そ、そんなっ」
「これはアリーシャ嬢にも伝えられている。ポンターギュへ連れ帰る事はできないと」
続けざまにとんでもない事を言い渡されて頭がついていかない。
けど、今のは引っかかった。
「お嬢様は、こちらにお輿入れして」
「残念だけど、その話は白紙に戻された。既にアッシュフィールド侯爵家には連絡がいってる」
「破談ってこと!?」
唖然として敬語を忘れた。
王様からのお声がかりだって、自分に言い聞かせてここまで来たお嬢様を追い返そうって言うの?
「どうしてそんなっ」
「宝玉を得られないままのご令嬢をここへ留めておくわけにはいかないんだ。君の中から取り出す方法を見つけるのは、時間がかかる。正式に婚姻を結ぶには宝玉が不可欠だから。いつになるかわからない婚儀を令嬢に待たせるわけにはいかないだろう?」
「でも、王様を通してのお話だったのに、そんな簡単に破談なんて」
「令嬢の名誉に傷がつかないよう手は尽くされる。ポンターギュ王室への説明もね。————サージェス側にとっても、今回の件は想定外なんだ。まさか、花嫁の侍女が飲み込んでしまうなんて」
うっ……。
それは、もしかしなくても、破談の原因はあたしってことですか!?
道中何か起こりやしないかって心底不安だったんだけど、国境沿いで、アッシュフィールド侯爵家の人間はあたし以外全員、ディザレード公爵家の護衛と交代してポンターギュ側へと戻っていき、お嬢様とあたしを乗せた馬車は無事、サージェス入りすることができた。
ディザレード公爵様のご領地はサージェス国の北。
もっと薄暗いような、寂れた街とかを想像をしてたんだけど、途中で目にしたのはきちんと整備された街道や活気のある街。得体の知れなさ感は一切感じなかった。
なぁんだ。魔女だとか何か色々心配して損した。
いたとしても大昔の話だったんだろうね。
目的が果たせられたら、帰りに良さそうなお菓子屋さんでも覗いて行こうかな。
サージェスに来る機会なんて早々ないし。
そうと決まれば、しっかりこのご婚姻を見届けて、侍女生活とおさらばしないとね。
馬車の中でお嬢様と談笑しながら、決意を新たにしたあたし。
到着したディザレード公爵さまの邸宅を見て、度肝を抜かれた。
……でっ、でかい。
アッシュフィールド侯爵さまのお邸もとんでもない広さだったけど。
これはお城。
ツタの絡まる城壁に囲まれたその中へ、馬車は跳ね橋を渡って入城する。
うわぁ……お城なんて初めてだよ。
昔絵本で見たお城とはちょっと雰囲気違うけど。
何ていうのかな、重厚感?
お姫様の住む真っ白で優美なお城っていうより、防衛拠点を守る堅牢なお城って感じだ。
こんなお城に住んでるのは、一体どんな人なんだろ?
お嬢様はお相手の顔どころか年齢さえも知らされていない。
貴族の結婚ってそういうものなのかって、ちょっとびっくりした。
ご立派で国王陛下の覚えもめでたいそうだけど、体調を崩されてからしばらく、王宮でのお勤めを離れてご静養に入られてたんだとか。
今は体調も戻られてるらしいけど……。
……なんとなく、お年のいった気難しそうな人を想像してしまう。
侍女生活数週間のあたしだけど、優しくておっとりしたお嬢様がそんな人にお嫁入なんて微妙な気持ちになる。
そりゃあ、あたしは無事お式を終えてもらわないと困るんだけど。
時が来たら、至急故郷へ帰るようにって便りが届くことになってて、あたしと入れ替わりにドンナさんがこちらに来る手はず。
馬車から降りると、あたしは傍らに立つお嬢様を見た。
そびえたつお城を見上げるお嬢様の横顔は、静かに凪いでいて、どんなお気持ちなのかはわかない。
でも、あたしの手をぎゅっと握りしめたその手は凄く冷たかった。
口には出さなくても、やっぱり心細いんだ。
そりゃあ、そうだよね。
……年が離れてたとしても、公爵様が素敵な優しい人でありますように。
お城に到着して五日後。
ついにその日がきた。
公爵さまは領内の視察でで抜けてるとか何とかで、お嬢様の前に現れることはなく、この日、初めてご対面となる。
小聖堂の壁際で控えながら遠目にみるお嬢様は、緊張からかいつもより白い顔をしているように見えた。
ううん。緊張の所為だけじゃない。
聞き慣れない言語を紡ぐ司祭様の声が響く中、儀式は着々と進められて行くけど――――。
この場にいるはずの人がいない。
花嫁の隣にいるはずの、公爵様が。
なのに何事もなく式は進められていく。
どう考えても不自然なのに、小聖堂にいる誰もそれを変に思っていないみたいに、静かだ。
この国特有のお式の流れ?
途中で現れることになってるとか?
小聖堂の入口をちらちら見るけど、それらしき気配はないし。
悲鳴が上がったのはそんな時だ。
華奢な身体が揺らぐのを見た瞬間、考えるより先に壁際から飛び出した。
それから後の事は酷くゆっくりと感じられた。
喉の奥に焼け付くような感覚がするまでは。
熱い。
息苦しくて、空気を求めて喘いだ。
喉だけじゃない。
全身が火に包まれてる。
皮膚の表面が焼け焦げて、骨にまで達するのを感じて叫んだ瞬間、ひやりとした何かが右手に触れた気がした。
触れられた先から火が消えて、痛みが引いていく。
長く続いた苦しみから解放されて、あたしは意識を手放した。
暫くして、暗闇の中で人の話し声が聞こえた。
『……いかがいたしましょう?』
『こうなってしまっては、選択の余地がないな。彼女にはここで……もらう』
途切れ途切れに聞こえる会話。
『しかし……務まるのでしょうか?このような……で』
『役立ってもらわなければ困る』
一体誰なんだろ、この人たち。
まだ重い瞼を何とか開こうとしてると、そこで会話は途切れた。
硬質な足音が近くなって、誰かが間近に立つ気配がする。
『目を覚ますにはまだ早い』
頭の内に染み込むように声が響いた。
意識がぶれて、急速に闇の中に沈み込んでいく。
::::
唐突に、はっと目が覚めた。
はっきりと見開いた目に映るのは、天蓋。
広い囲いの縁取りには淡いグリーンの垂れ幕が見える。
……ここ、何処?
横たわっていた場所から身を起こそうとして、触れた手触りの良さに手元を見れば、上質な寝具の中にいるらしい。
むくりと起き上がり、周囲を見渡した。
落ち着いた室内装飾だ。
華美過ぎないけど、置かれている花瓶や壁に飾られた絵画とか、洗練された趣味の良さみたいな感じを受ける。
間違ってもポンターギュのフォンにある自室ではないし、最近少しだけ見慣れてきたラズの侍女部屋でもない。
お嬢様の寝室……ううん。お嬢様の部屋はもっと、こう――――ふわふわした雰囲気のお部屋だったはず。
なら、ここは一体……?
寝台から降りると、奥に見える扉の方へ歩いてみる。
「一目も会わせないつもりですの?」
あれ?
これって、お嬢様のお声じゃない?
扉を開けようとしたけど、びくともしない。
「公からお聞き及びのはずでは?————既にあなたの管理下から離れているのです」
対するは、硬い口調の男の人だ。
何の話だろう?
扉に張り付いて耳を澄ませる。
「ですが、このまま何も言わず置いて行くなんて」
「お気持ちはお察ししますが、これよりは我らの領域です。今となっては、あなたが立ち入れる問題ではございません。お引き取りを」
丁寧な口調だけど、お嬢様の言い分を一切取り合うつもりがないのがわかる。
「ただ一言でいいの。せめて、別れだけでも」
「アリーシャ嬢。あなたの行動によっては生まれる軋轢があるとご承知置きください」
お嬢様は誰かに別れを言いにここへ……。
……ん?
誰に?
「気分はどう?」
「ちょっと気だるいけど、平気……!?」
背後からした声に答え返して、ぎょっとした。
あたしの他に誰かいる?
扉に張り付いた状態で振り返ると、窓際の椅子に座ってこっちを見る人がいた。
淡い金髪の男の人。
あたしより四つか五つくらい年上に見える。
整った顔立ちだけど、不思議と冷たさを感じないその人には見覚えがある。
何処で見たっけ……。
まじまじ見ていると、彼は微苦笑した。
「ポンターギュ以来だね。ちゃんと話すのは二度目だ」
すぐにはぴんとこなかったけど、早咲き菫の色をした目に目をとめて、あっと口の中で声を上げた。
「ご使者の人っ」
「あたり」
にこりと笑顔が返ってくる。
何でいるの?
いや、公爵家に勤めてる人だからいても変じゃないけど、この部屋にいるのは解せない。
「僕はリファリス・ローウェン。よろしく」
「あ、ティコ・クルル・シー……」
はっ。
口滑った。
「ラ、ラズです」
不審に思われた?
けど、その人は特に表情を変えることなく、会話を続ける。
「状況説明を仰せつかってね。まずは挨拶しておこうと思って」
今の絶対突っ込まれると思ったんだけど。
というか、状況説明?
「気を失う直前の事は覚えてる?」
「……はい」
!この人がいる理由って、そういうこと!
思い当たると、即座に頭を下げた。
「も、申し訳ありません!お嬢様のご様子が変に見えて、とっさに飛び出してたんです。決してお式を台無しにするつもりじゃなくてっ」
「転んだ拍子に何かを飲み込んだ」
厳しいお咎めを申し渡されるかと必死で弁解するあたしの声に被さるその声。
きらきら光る玉を思い出す。
確かに、飲み込んじゃいましたが。
頷くと、彼は微苦笑した。
「それ、公爵家の家宝だから」
一瞬にしてそれは思考を断ち切った。
ぽかんとして、目の前の整った顔を見返す。
「婚礼の際、儀式の為に使用されるそれが、今は君の中にある」
「!?」
う、嘘ぉぉぉっ!!
喉を押さえるけど、異物感は既にない。
「なっ、何で、かほ、家宝がっ!?」
「どうやら、アリーシャ嬢が手にした宝玉を取り落としてしまったらしい」
取り落とした?
けど、あれは上から降ってきたはずで。
「君が目を覚ますまでの間、色々手を尽くしてはみたけれど、取り出せなくて」
色々?
な、何を?
「その結果、君にはここに留まってもらう事になった」
「……へ?」
「門外不出の宝玉を持ち出されては困る。それが、ディザレード公のご判断だよ」
「!?そ、そんなっ」
「これはアリーシャ嬢にも伝えられている。ポンターギュへ連れ帰る事はできないと」
続けざまにとんでもない事を言い渡されて頭がついていかない。
けど、今のは引っかかった。
「お嬢様は、こちらにお輿入れして」
「残念だけど、その話は白紙に戻された。既にアッシュフィールド侯爵家には連絡がいってる」
「破談ってこと!?」
唖然として敬語を忘れた。
王様からのお声がかりだって、自分に言い聞かせてここまで来たお嬢様を追い返そうって言うの?
「どうしてそんなっ」
「宝玉を得られないままのご令嬢をここへ留めておくわけにはいかないんだ。君の中から取り出す方法を見つけるのは、時間がかかる。正式に婚姻を結ぶには宝玉が不可欠だから。いつになるかわからない婚儀を令嬢に待たせるわけにはいかないだろう?」
「でも、王様を通してのお話だったのに、そんな簡単に破談なんて」
「令嬢の名誉に傷がつかないよう手は尽くされる。ポンターギュ王室への説明もね。————サージェス側にとっても、今回の件は想定外なんだ。まさか、花嫁の侍女が飲み込んでしまうなんて」
うっ……。
それは、もしかしなくても、破談の原因はあたしってことですか!?
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