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3 裏切りと時の流れ
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「王弟・・・#焔祁__えんき__#です」
桜桃は双眸を見張る。
父方の末弟の名に衝撃を受ける。
七人兄弟の三男であった父は、二人の兄を流行病で亡くし、
存命するのは、すぐ下の四男、長女、次女、五男である。
桜桃にとって叔父である焔祁の印象は、怖い人、だった。
もう一人の叔父と違い、あからさまに見下す言葉はなかったけれど、鋭く切れ上がった双眸にはいつも侮蔑の色がありありと見て取れた。
まだ青年の域を脱し切れていない強面の叔父の姿を思い出す。
(あの人が、父様たちを・・・)
王位を巡って親族間の争いが存在するのは、決して珍しいことではない。地球でも、こちらでもそれは変わらない。
けれど、血の繋がった実の兄を殺めることができるなど到底理解できなかった。
桜桃であれば紫苑や紗羅を手にかけるようなものーーーそんな人間が存在し、大切な人たちを失うことになったのだ。
あまりのことに血の気をなくし茫然と視線を落とす。
「煉生候は、病床で、衣於さま、璃句さまは離宮にて幽閉の身であるとのことです」
叔父、叔母たちもすでの焔祁に掌握されているのか。
憤りと突き付けられた現実の重さに、心臓が圧迫される。
「・・・空木兄、どうしてこんなことに?天撰八家がいたはずでしょ?」
【天撰八家】---それは十倭国の守護を司る、八大家の名称である。
建国時、始祖たる玉響姫を守り仕えた一族たちはやがて十倭でも名のある貴家となり、代々その守護を任じられている。
朱鷺はそのうちの一つ、瑞雲の南雲一族だ。彼は十年前、南雲家当主の意向により桜桃と共に地球へ降りたのだ。
彼らは特別な力を有し、その守護は鉄壁とされている。
「天撰八家は、分裂した」
朱鷺が抑揚のない声でそう言った。
分裂?
すぐには理解できない。
「王様を支持する者と、そうでない者に。八家の中で離反・・・裏切った奴がいた」
裏切り。
王弟と共に守護家の人間が、父を裏切った。
全幅の信頼を受けていた天撰八家が、国王に反旗を翻したと、他ならない朱鷺が告げる。
「・・・どの一族が・・・残ってる?」
その問いには沈黙が返る。
「朱鷺は・・・南雲家は」
「俺は元からお前の守護役だ。んなこと改まって聞くな」
即答する朱鷺は、でもな、と続ける。
「一族の助力は、期待できない」
「どういうこと?」
「南雲は、もう俺しかいないから」
息を呑んで見返すと、少し眉を下げ、彼は小さく笑んだ。
南雲の血族は少なくないはずだ。
それが、いない・・・?
「内乱の始まりは、おそらく、天撰八家の騒動がきっかけです。少なくとも、南雲・紫崎・葉風の三家の話を聞く限りは、そうとしか考えられない」
空木は内乱直前、天撰八家であるその三家に起こった騒動を話した。
境界を越え、何者かの襲撃があったのだという。
本来であれば彼らが遅れを取るなど考えられないのだが、確かにそれは起こった。
守護の為、宮殿に居た者以外は一人残らずこの騒動に巻き込まれたという。
紫崎家も、葉風家も生き残った者は少ないらしい。
何を、どう考えたらいいのか分からない・・・。
この場にいるのが、紫苑だったのなら最悪の現実にもっと対処できたろう。
頭の整理が追い付かない。
「いま、桜桃さまをお守りできるのはここにいる面々と、暁闇(ぎょうあん)の紫崎殿、日方(ひかた)の」
引き戸ががたりと音をたてた。
桜桃を隠すように、皆が一斉に身構える。
「十倭が主は鏡姫」
まだ幼い少女の声。
怪訝に思う中で、空木が戸口へと進み出た。
「忠なる臣ーーー我は鏡」
「映す姿見、我は日方」
少女の返答に空木は戸を解放した。
「おかえり!うっちゃん」
飛び込んできたのは金鳳花色の髪をした10歳ほどの少女。
桜桃を庇っていた美蔡や詩乃の肩から力が抜けるのがわかる。
小犬の様に空木に纏わりついた彼女は、周囲を見回すと、
「紫崎さまの言いつけで迎えに来たよ」
「なんだ。迎えはお前か、樹理(きり)」
話しかけた朱鷺に少女は目を大きく見開く。
「その顔・・・朱鷺?うわっ、いたの?」
「なんだ、その空木との違いは」
「うっちゃんは戦力、朱鷺はそうでもないし」
「言うじゃん・・・」
半眼になった朱鷺が両拳で少女のこめかみを捉えた。
「がっ!ぐりぐり禁止!!」
「空木殿、この子は・・・?」
美蔡の問いに本人が反応した。
朱鷺の拳から逃れ、
「葉風樹理です」
元気よく名乗ったその名は、天撰八家の一つ、日方の葉風家。
桜桃はその名に記憶を呼び起こした。
「まさか・・・きりちゃん・・・?」
落ちた呟きに、樹理は桜桃へと近づき、えへへと記憶通りの笑顔で笑う。
「お久しぶりです、三の姫さま」
年始の宴が行われる数日しか会えなかったけれど、桜桃と物語を読んだり、人形遊びをしていた少女。
けれど、どう見ても彼女は10代初めにしか見えない。小学生くらいの女の子のまま。こちらを離れる前に見た姿よりは成長しているけれど・・・。
「十倭と地球では時間の流れが違うのです」
空木の声に振り返れば、彼は続けて言った。
「桜桃さまが十倭を離れてからは5年。内乱は3年前の出来事なのです」
桜桃は双眸を見張る。
父方の末弟の名に衝撃を受ける。
七人兄弟の三男であった父は、二人の兄を流行病で亡くし、
存命するのは、すぐ下の四男、長女、次女、五男である。
桜桃にとって叔父である焔祁の印象は、怖い人、だった。
もう一人の叔父と違い、あからさまに見下す言葉はなかったけれど、鋭く切れ上がった双眸にはいつも侮蔑の色がありありと見て取れた。
まだ青年の域を脱し切れていない強面の叔父の姿を思い出す。
(あの人が、父様たちを・・・)
王位を巡って親族間の争いが存在するのは、決して珍しいことではない。地球でも、こちらでもそれは変わらない。
けれど、血の繋がった実の兄を殺めることができるなど到底理解できなかった。
桜桃であれば紫苑や紗羅を手にかけるようなものーーーそんな人間が存在し、大切な人たちを失うことになったのだ。
あまりのことに血の気をなくし茫然と視線を落とす。
「煉生候は、病床で、衣於さま、璃句さまは離宮にて幽閉の身であるとのことです」
叔父、叔母たちもすでの焔祁に掌握されているのか。
憤りと突き付けられた現実の重さに、心臓が圧迫される。
「・・・空木兄、どうしてこんなことに?天撰八家がいたはずでしょ?」
【天撰八家】---それは十倭国の守護を司る、八大家の名称である。
建国時、始祖たる玉響姫を守り仕えた一族たちはやがて十倭でも名のある貴家となり、代々その守護を任じられている。
朱鷺はそのうちの一つ、瑞雲の南雲一族だ。彼は十年前、南雲家当主の意向により桜桃と共に地球へ降りたのだ。
彼らは特別な力を有し、その守護は鉄壁とされている。
「天撰八家は、分裂した」
朱鷺が抑揚のない声でそう言った。
分裂?
すぐには理解できない。
「王様を支持する者と、そうでない者に。八家の中で離反・・・裏切った奴がいた」
裏切り。
王弟と共に守護家の人間が、父を裏切った。
全幅の信頼を受けていた天撰八家が、国王に反旗を翻したと、他ならない朱鷺が告げる。
「・・・どの一族が・・・残ってる?」
その問いには沈黙が返る。
「朱鷺は・・・南雲家は」
「俺は元からお前の守護役だ。んなこと改まって聞くな」
即答する朱鷺は、でもな、と続ける。
「一族の助力は、期待できない」
「どういうこと?」
「南雲は、もう俺しかいないから」
息を呑んで見返すと、少し眉を下げ、彼は小さく笑んだ。
南雲の血族は少なくないはずだ。
それが、いない・・・?
「内乱の始まりは、おそらく、天撰八家の騒動がきっかけです。少なくとも、南雲・紫崎・葉風の三家の話を聞く限りは、そうとしか考えられない」
空木は内乱直前、天撰八家であるその三家に起こった騒動を話した。
境界を越え、何者かの襲撃があったのだという。
本来であれば彼らが遅れを取るなど考えられないのだが、確かにそれは起こった。
守護の為、宮殿に居た者以外は一人残らずこの騒動に巻き込まれたという。
紫崎家も、葉風家も生き残った者は少ないらしい。
何を、どう考えたらいいのか分からない・・・。
この場にいるのが、紫苑だったのなら最悪の現実にもっと対処できたろう。
頭の整理が追い付かない。
「いま、桜桃さまをお守りできるのはここにいる面々と、暁闇(ぎょうあん)の紫崎殿、日方(ひかた)の」
引き戸ががたりと音をたてた。
桜桃を隠すように、皆が一斉に身構える。
「十倭が主は鏡姫」
まだ幼い少女の声。
怪訝に思う中で、空木が戸口へと進み出た。
「忠なる臣ーーー我は鏡」
「映す姿見、我は日方」
少女の返答に空木は戸を解放した。
「おかえり!うっちゃん」
飛び込んできたのは金鳳花色の髪をした10歳ほどの少女。
桜桃を庇っていた美蔡や詩乃の肩から力が抜けるのがわかる。
小犬の様に空木に纏わりついた彼女は、周囲を見回すと、
「紫崎さまの言いつけで迎えに来たよ」
「なんだ。迎えはお前か、樹理(きり)」
話しかけた朱鷺に少女は目を大きく見開く。
「その顔・・・朱鷺?うわっ、いたの?」
「なんだ、その空木との違いは」
「うっちゃんは戦力、朱鷺はそうでもないし」
「言うじゃん・・・」
半眼になった朱鷺が両拳で少女のこめかみを捉えた。
「がっ!ぐりぐり禁止!!」
「空木殿、この子は・・・?」
美蔡の問いに本人が反応した。
朱鷺の拳から逃れ、
「葉風樹理です」
元気よく名乗ったその名は、天撰八家の一つ、日方の葉風家。
桜桃はその名に記憶を呼び起こした。
「まさか・・・きりちゃん・・・?」
落ちた呟きに、樹理は桜桃へと近づき、えへへと記憶通りの笑顔で笑う。
「お久しぶりです、三の姫さま」
年始の宴が行われる数日しか会えなかったけれど、桜桃と物語を読んだり、人形遊びをしていた少女。
けれど、どう見ても彼女は10代初めにしか見えない。小学生くらいの女の子のまま。こちらを離れる前に見た姿よりは成長しているけれど・・・。
「十倭と地球では時間の流れが違うのです」
空木の声に振り返れば、彼は続けて言った。
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