レクイカ、線の雨が降る前に

k_i

文字の大きさ
5 / 9
第1章 雨を逃れて

西へ向かう

しおりを挟む
 ミートは再び一階へ下り、反対側の通路も確認しつつ玄関口の方へ向かう。
 灯かりもなく、暗く、静かだ。
 もう人の気配はない。雨の気配が、中にまで満ちてきている。もう、ゆっくりはできない。
 
 通路から開けた玄関口へ出ると、中央の階段をぞろぞろと民達が下りてきている。
 騎士達が、民を階下へ誘導しているところだ。
 民は、三十人程はいるか。皆が無事、まずはこの場所から安全な場所(があるとすればだが……)へ逃れられるのか。線の雨を逃れて、どこへ。
 ミートに気付いたレクイカが駆け寄ってくる。
 
「あ、えっと……他にもう、人はいなかった?」
「老婆が一人いたので、注意を促したが」
「うん。その人は、大丈夫。すでに合流してる」
 
 ちょうど騎士の一人がその老婆の手を引いており、ミートが声をかけた時より表情はしっかりしているように見えた。
 
「ああ、だな。あと、それから……」
「えっ、まだいた? 他にはもう、来ていないけれど」
「いや、魔術師風の男がいたのだが」
 
 レクイカは、え、来てないよと首を横に振った。

「いや、レクイカ。それについてだな、ああ、その、どちら方面へ逃れるかについて決めている?」
「あ、ええっと……国の中央には戻れないから、それ以外の方向へ……。外で確認して怪物のなるべく少ない方へかな? えっとその、ミートは何か考えがある?」
 
 民の誘導と整列を影の騎士に任せ、レクイカは部下らの騎士を玄関脇に集めた。
 
「ここからどの方角へ逃れるかは、難しいところです。もし行く先を見誤れば最悪、民を、線の雨の中に導いてしまうことになる。それだけは、避けねばなりません。皆の知恵を借りたいのですが、どうでしょう?」
 
「これまでに聞いてきた話ですと」
 背の高い騎士がおっとりした口調で口を開く。
「この国の中心部はすでに、雨で壊滅している……ということですね」
 
 皆が少し暗い面持ちになる。
 ミートが口を開く。
「その、おれは北の方を旅して、北から国境を越えてここへ来たんだ」
 
 皆がミートを見て、「北のことは私達は聞き及んでいませんが、」とさきの背の高い騎士が聞く。
「どうなのです? 北の方は」
 
 ミートは一瞬逡巡して、
「だめだ」
 と小さくしかしはっきりと言う。
 
「そうですか。雨……?」
「そうだ。北も、線の雨に降られている」
 
 フウ。と小柄な騎士がため息を付く。レクイカも背の高い騎士と顔を見合わせ、軽く首を横に振る。もう一人の中背の騎士は、腕を組んでただ無言でいる。ミートはまだこの騎士が話すのは見たことがない。背こそ小柄な騎士よりあるものの一番若年か下位の騎士なのかもしれない。
 
「では、西か、南か……」
 レクイカは半ば独り言のように発する。
 
「さっき、レクイカに」
 ミートが再び口を開く。レクイカはミートの方を向くが、背の高い騎士は考え込むように、中背の騎士は腕組み目を閉じ、小柄な騎士は、はーっとまたため息をついている。
「えーっと、魔術師風の男がいたことを話した」
 
「はあ?」「魔術師? こんなところに? 民の中にそのような人は……」
 騎士らもそれに反応して、ミートの方を向く。
 
「一階のテラスで見た。これから脱出することを話したが、単身で外へ飛び出したんだ」
 
 小柄と背の高い騎士が顔を見合わせ、そんな馬鹿なと言い合う。
「自殺行為ではないですか」「そいつは、頭がおかしくなっていたんじゃないんですかね」
「おれもそう思ったんだが、どうも、あいつは何か知っていたようだ。雨の怪物のことをまだ調べたい、というふうなことを言っていた。で、そいつは、西の方へ駆けていったんだ」
「西……」
「西、ですか」
 
 騎士らは幾らか押し黙っていたが、レクイカが、
「わかりました。少しでも、民を助けるための確証に近づきたい。それに、時間もありません」
 と言い、
「西に何があるのかしれない。しかし、何か雨か怪物に関する秘密があるのかもしれません。西へ……西へ向かいましょう」
 
 そう決定を下した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...