レクイカ、線の雨が降る前に

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第1章 雨を逃れて

出立

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 民、騎士ら全員が玄関の外に集った。
 暗く重たげな空。ぽつぽつと降る雨。
 
 民を内側に、隊員の騎士らが外を囲み守るよう陣形を整え、いよいよ脱出の時を待つのみとなる。
 
 民らの内、ミートと他に二名の行商人を除いては、馬を持っていない。腰の悪い老人や子どもらの一部は、騎士が馬の後ろに乗せることになった。但し、戦闘要員も必要となるので、皆がそうは行かない。ほとんどの民は徒歩になる。いざとなれば、騎士が怪物への盾となる。
 
 レクイカは、ここから確認できる怪物を指折って数えている。
「三、四、五……六体はいる、か」
 
 休息所の周囲の木立の影に、怪物達の姿が見えている。いずれも動くことはない。じっと木にもたれたり、眠っていたり、あるものは空をぼーっと見つめている。
 子ども達は怪物に怯え、震えている。老婆は空へ、祈りを捧げている。
 
「うん……動くものはない。何とかなるかしら」
 無論、隠れて見えないものもいるだろうし、この先にも、どこに潜んでいるかはわからない。
 レクイカは、後ろに向き直り、言い放った。
「私が先頭を導きます。休息所を囲う林を抜け、街道に出るまでミカーは右翼、シトエは左翼、ファルグはしんがりを、それぞれ騎士二名が付き、民を守ってください」
 
 騎士らが頷く。民らの間に緊張が高まる。
 騎士達が、めいめいの持ち場に着いていく。
 
「ミートは、無理をせず、私の後ろに付いてきて」
 レクイカは声を落としてそう言う。
 ミートはすまないと小さく言う。何せ今は武器一つない。
 はあーっと、小柄な騎士が溜め息する。
「ミート、さんですか。まあ仕方ありません。今回は私が守ってあげますよ。右翼側に寄ってください。それからほら」
 小柄な騎士は懐の短刀を出してミートにぶんっと投げた。
「お、おい何する危なっ……」
「馬鹿。ちゃんと鞘に仕舞ってありますって」
 ミートは取り落としそうになりながらもぱしっと受け取る。
「っと。なんだ、投げナイフで刺されるのかと思ったよ」
「刺すのなら無言で後ろから刺してあげますから安心してください」
「えっと……」
「さあ早く、レクイカ様から離れて。行きますよ」
 
 レクイカは、あははと苦笑して、軽く手を振る。
「その子は優秀な騎士だから、安心してねミート」
「ああ……」
「さあ早く離れて離れて。その短刀は優れものですが、私には弓がありますから貸しといてあげます。怪物に掴まったらそれで自決するといいです。屈辱を味わうよりは、いいでしょう」
「……すまない。えっとそれで、ではきみが、ミカー?」
「ま、それは冗談として、レクイカ様の邪魔になっては困りますから、何かあったら自分の身は自分で守ってください、ってことです。ああ、それから名前は覚えてもらわなくていいです。ここを逃れたらどうせさっさと別れるのですから」
 
 ミートは、ミカーと呼ばれた騎士の傍らに馬を寄せ横目で見やる。
 レクイカの部下だし、おそらく自分よりも二つか三つ下だろう。背はレクイカより頭一つ小さい。この、小娘め……と思わないでもなかったがミートは、そうだな。どのみち、ここを逃れればおさらばさ。と思い直す。
「……いや、あれ、だけど。ってことは、せっかく再会できたレクイカとも……」
「何をぶつぶつ言ってるのですか。早く、手綱をとりなさい」
 
 先頭のレクイカが、先陣を切る。
「さあ、行きますよ! はあっ」
 
 騎士達に促され、民らがぞろぞろとその後へ続く。
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