境界戦記

k_i

文字の大きさ
2 / 11
第1章 雨の回廊

旅立ち

しおりを挟む
 暗い王の間で、洗礼を受けた。
 雨の回廊を通り抜けて、ミシンはケトゥ卿の守る地へ赴くことになる。境界にある七つの砦の一つだ。外縁に近い側の四砦は敵の手に落ちており、二つも連絡が途絶えている、という。境界の戦いにおける、最後の拠点となっている砦だ。
 
「冴えない顔のミシン。この者を、この年の新しい騎士とする」

 王の間には、数人の近臣が床から突き出る影の棒のように、動きもせずに立っている。暗がりの中でミシンの顔は、喜びに満ちていた。とうとう、騎士になれた。そして、
「恋人のいないミシン。精霊は、この者が童貞であると告げている。よって、ミシンに聖騎士になる資格が与えられる。成人儀まで、そうあらねばならん。また、聖騎士になった後も、己の任務を達するまではそうあらねばならん。誓えるか」

 ミシンは王の突き出す剣に誓い、その剣を誓いの証に受け取った。

「王。与えられる任務とは……」

「おまえは、境界に赴くことになる。そこでの戦いは、おまえにとって長い旅の始まりに過ぎないだろう」

 王の厳しい口調が、ミシンの耳に残った。王の表情は暗がりの中、全く見えないものだったが、退出するときにミシンの背中にまで王の鋭い視線が突き刺さっていた。退出して、抜き身した剣の鋭さも、王の視線を映し出しているようで心安くなかった。だけどこの鋭さは彼に与えられた緊張でもあった。小さな剣であったが、重さがあった。この鋭さと重さを早く自分のものにしなければ。
 
 任地が告げられた後、王は二人の騎士の名を呼ばわっていた。

「ミジーソ。ミルメコレヨン」

 影でしか見えなかったが、背中の曲がった大きな年寄りと、背の高いのっぽの男の二人が居並ぶ近臣らの最後尾から歩み出た。

「二人が、おまえの旅に付き従う」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...