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日常はだらりと
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「あぁ、ふ……」
朝、窓から白い光が射し込む。ゆったりとのびをする少女の横の窓からは、少しずつ吹雪始める色白い桜が見える。
「七時、か……起きよ、っと」
千堂紗凪。裏路地の女『氷蓮』であり、女子高校生である。
ピーンポーン──と、突如鳴り響く機械的なインターホンの音。彼女にとっての、「日常」の始まりの合図だ。
「あ、悠月」
「紗凪遅い……行こ?」
「ん、着替える。寝坊した」
「これからー? まぁいいけどさ。上がっていい?」
「もち」
淡々とした、おっとりとした話し方。ヤクザ社会の高校生にしては珍しい、黒髪に黒目の外見。ロングヘアを腰まで伸ばしている少女は、今しがた紗凪の家に上がっていた。
名は、佐奈田 悠月。なにが入っているのか、手に大きな袋を持っている。
「……じゃあ行こっか、悠月!」
「行くっつってもクソ学校だけどね。それにいつでも自習だし」
呆れたような、嘲笑うような表情をして学校の実態を口に出す。物事全て、そして自分さえも小馬鹿にしたような、そんな嘲笑の笑みを浮かべながら。
「まぁそう言わずに。担任だって怖がってないじゃん。っていうか自習はうちらだけでしょ?」
「別に殴られたっていいけどね。殴り返せばいいでしょう?」
「こらこら……まぁいっか。そういえば昨日さ、こないだの奴がまた」
悠月は、よく語尾に「けどね」をつける。紗凪はよく音を伸ばす。それぞれ、裏で暴れる時の癖である。現代の高校生、よほどの令嬢や御曹司でなければ、夜暴れしない子供はいないのだ。
「え、また来たのそいつ? 懲りないね……まぁどうせボコしちゃったんだろうけどね」
「さすが悠月、よーく分かってんじゃーん」
「何年一緒にいると思ってんの……で、そいつ誰だったの?」
ゼリー飲料をこくんと飲み込んだ。
「なんか藍咲の三下組の若頭。多分私のこと知らなかったんじゃない?」
「『氷蓮と静那』って、最近広まったばっかだし、
知らなくても無理ないと思う」
『氷蓮』と『静那』。これは、それぞれ紗凪と悠月の通り名である。
「……氷った蓮って、なんなの? 氷は分かるけど、ハスだよ? ハス。よく分かんないセンスだよねぇ」
「知らない。髪じゃない?」
「そだね……セナは?」
「暴れる時『静かだから』らしい。もう少しひねりはないものかね? まぁ今更変えられないんだろうけどね」
「いいじゃん事実だし? 気づいてないかもだけど、悠月怖いくらい気配ない時あるからね?」
「別に……意識はしてないけど」
他の生徒は汚れたり、色褪せたりしている革靴を脱ぐ。既にロッカーには、まばらに同じような靴が置かれている。二人の靴は全くと言っていいほど汚れていない。他生徒のように、通学途中に暴れるような真似はしないからである。
「あー……二階の奥の教室が空いてるね。今年はそこにしよっかー」
「そーだね。あ、これクッション」
悠月が手に持っていた大きな袋には、天色と藍色の大きなクッションが入っていた。
「あ、八時半。そろそろ行く?」
「そーしよっか。何もないだろーけどね」
「上のとこでいいでしょ」
二人が通う学校は、私立の所謂「お金持ち学校」であり、体育館の上に『ランニングバルコニー』、要は運動部が走るところを設置するほどだった。
しかし一昔前の「お嬢様御坊ちゃま学校」でもなく、紗凪の暮らす町一番の不良校としても知られている。
「……い、一同、れ礼」
「あーあー、またビビってるよ教頭。よく殴られないよねぇー?」
「金だけはあるし、殴られたら退学にできるしね」
二人は今、ランニングバルコニーの手すりに座っている。落ちてしまったら、体育館の床に叩きつけられてしまう所だ。
だからと言って、落ちるドジな二人ではない。手はしっかりと手すりを掴んでおり、落ちるとしてもバルコニーに落ちるような座り方だ。
「新年度から、二年に転校生が入る。お、お入り下さい」
「あははっ、校長が敬語? だっさ」
ばっさりと嘲り、鼻で笑い飛ばす紗凪。
「それぐらいの奴なんじゃない? まぁ、同じ二年でも関わらないと思うけど。」
「お、お名前を。」
「……藍咲 静月」
「藍咲 弦。パンダさん達によろしくはしたくない」
「うっわ、藍咲じゃん! しかもパンダって、ちょーウケる!」
「あははははっ!」紗凪は笑い、「校長が敬語使うのも分かるわぁ」そう納得したように、そして弾けるような笑いをまた空気に響かせる。
「ちょ、紗凪!」
「っ千堂! お前はまたさぼってるのか!」
いわゆる「バーコード」頭の教頭。
生徒たちに陰で散々に言われている事も知らず、「これはファッションだ!」と言い、さらには筋の通らない理由を勿体ぶって言う事が、いわゆる彼の特技だ。
「えー、見て分かるでしょー?」
「っ後で職員室に来いっ!!」
「やだ、あんた臭いし。反省文書くならあんたの悪口で埋める」
「っく、あははははっ! さすが紗凪。行く気になれないよね、あんな場所」
そして紗凪の毒舌にノり、同じように彼らを見下ろす悠月。そして彼女の表情は、いつも通り嘲笑の色だ。
「す、すみません、生徒が……」
「……構わない。それと俺に話しかけるな」
「静月は臭いの嫌いだしね。……静月?」
「……ねー悠月、見られてるね?」
「転校生とやらにでしょ? 知ってるよ」
「……藍咲組、か。これからは面白くなりそう……くくくっ」
「──あいつらは?」
「え!?」
「あの女二人組。何という?」
「あ、あれは……二年生の千堂と佐奈田です。教師も手を焼いていまして」
「……千堂、か」
「紗凪、ほんっとさすが! あそこであれ言っちゃう?」
「臭いのは皆思ってるでしょ? 加齢臭ハンパないよねー、あいつ。しかもそれを年に合わない香水で消そうとしてるし。余計臭いっつーの」
「ほんとそれな! 馬鹿だよねー!」
「豚に真珠っての? 笑えるわ」
二人はいつも笑う。
日常はだらりとのんびりに──だらりと血が流れたり。
朝、窓から白い光が射し込む。ゆったりとのびをする少女の横の窓からは、少しずつ吹雪始める色白い桜が見える。
「七時、か……起きよ、っと」
千堂紗凪。裏路地の女『氷蓮』であり、女子高校生である。
ピーンポーン──と、突如鳴り響く機械的なインターホンの音。彼女にとっての、「日常」の始まりの合図だ。
「あ、悠月」
「紗凪遅い……行こ?」
「ん、着替える。寝坊した」
「これからー? まぁいいけどさ。上がっていい?」
「もち」
淡々とした、おっとりとした話し方。ヤクザ社会の高校生にしては珍しい、黒髪に黒目の外見。ロングヘアを腰まで伸ばしている少女は、今しがた紗凪の家に上がっていた。
名は、佐奈田 悠月。なにが入っているのか、手に大きな袋を持っている。
「……じゃあ行こっか、悠月!」
「行くっつってもクソ学校だけどね。それにいつでも自習だし」
呆れたような、嘲笑うような表情をして学校の実態を口に出す。物事全て、そして自分さえも小馬鹿にしたような、そんな嘲笑の笑みを浮かべながら。
「まぁそう言わずに。担任だって怖がってないじゃん。っていうか自習はうちらだけでしょ?」
「別に殴られたっていいけどね。殴り返せばいいでしょう?」
「こらこら……まぁいっか。そういえば昨日さ、こないだの奴がまた」
悠月は、よく語尾に「けどね」をつける。紗凪はよく音を伸ばす。それぞれ、裏で暴れる時の癖である。現代の高校生、よほどの令嬢や御曹司でなければ、夜暴れしない子供はいないのだ。
「え、また来たのそいつ? 懲りないね……まぁどうせボコしちゃったんだろうけどね」
「さすが悠月、よーく分かってんじゃーん」
「何年一緒にいると思ってんの……で、そいつ誰だったの?」
ゼリー飲料をこくんと飲み込んだ。
「なんか藍咲の三下組の若頭。多分私のこと知らなかったんじゃない?」
「『氷蓮と静那』って、最近広まったばっかだし、
知らなくても無理ないと思う」
『氷蓮』と『静那』。これは、それぞれ紗凪と悠月の通り名である。
「……氷った蓮って、なんなの? 氷は分かるけど、ハスだよ? ハス。よく分かんないセンスだよねぇ」
「知らない。髪じゃない?」
「そだね……セナは?」
「暴れる時『静かだから』らしい。もう少しひねりはないものかね? まぁ今更変えられないんだろうけどね」
「いいじゃん事実だし? 気づいてないかもだけど、悠月怖いくらい気配ない時あるからね?」
「別に……意識はしてないけど」
他の生徒は汚れたり、色褪せたりしている革靴を脱ぐ。既にロッカーには、まばらに同じような靴が置かれている。二人の靴は全くと言っていいほど汚れていない。他生徒のように、通学途中に暴れるような真似はしないからである。
「あー……二階の奥の教室が空いてるね。今年はそこにしよっかー」
「そーだね。あ、これクッション」
悠月が手に持っていた大きな袋には、天色と藍色の大きなクッションが入っていた。
「あ、八時半。そろそろ行く?」
「そーしよっか。何もないだろーけどね」
「上のとこでいいでしょ」
二人が通う学校は、私立の所謂「お金持ち学校」であり、体育館の上に『ランニングバルコニー』、要は運動部が走るところを設置するほどだった。
しかし一昔前の「お嬢様御坊ちゃま学校」でもなく、紗凪の暮らす町一番の不良校としても知られている。
「……い、一同、れ礼」
「あーあー、またビビってるよ教頭。よく殴られないよねぇー?」
「金だけはあるし、殴られたら退学にできるしね」
二人は今、ランニングバルコニーの手すりに座っている。落ちてしまったら、体育館の床に叩きつけられてしまう所だ。
だからと言って、落ちるドジな二人ではない。手はしっかりと手すりを掴んでおり、落ちるとしてもバルコニーに落ちるような座り方だ。
「新年度から、二年に転校生が入る。お、お入り下さい」
「あははっ、校長が敬語? だっさ」
ばっさりと嘲り、鼻で笑い飛ばす紗凪。
「それぐらいの奴なんじゃない? まぁ、同じ二年でも関わらないと思うけど。」
「お、お名前を。」
「……藍咲 静月」
「藍咲 弦。パンダさん達によろしくはしたくない」
「うっわ、藍咲じゃん! しかもパンダって、ちょーウケる!」
「あははははっ!」紗凪は笑い、「校長が敬語使うのも分かるわぁ」そう納得したように、そして弾けるような笑いをまた空気に響かせる。
「ちょ、紗凪!」
「っ千堂! お前はまたさぼってるのか!」
いわゆる「バーコード」頭の教頭。
生徒たちに陰で散々に言われている事も知らず、「これはファッションだ!」と言い、さらには筋の通らない理由を勿体ぶって言う事が、いわゆる彼の特技だ。
「えー、見て分かるでしょー?」
「っ後で職員室に来いっ!!」
「やだ、あんた臭いし。反省文書くならあんたの悪口で埋める」
「っく、あははははっ! さすが紗凪。行く気になれないよね、あんな場所」
そして紗凪の毒舌にノり、同じように彼らを見下ろす悠月。そして彼女の表情は、いつも通り嘲笑の色だ。
「す、すみません、生徒が……」
「……構わない。それと俺に話しかけるな」
「静月は臭いの嫌いだしね。……静月?」
「……ねー悠月、見られてるね?」
「転校生とやらにでしょ? 知ってるよ」
「……藍咲組、か。これからは面白くなりそう……くくくっ」
「──あいつらは?」
「え!?」
「あの女二人組。何という?」
「あ、あれは……二年生の千堂と佐奈田です。教師も手を焼いていまして」
「……千堂、か」
「紗凪、ほんっとさすが! あそこであれ言っちゃう?」
「臭いのは皆思ってるでしょ? 加齢臭ハンパないよねー、あいつ。しかもそれを年に合わない香水で消そうとしてるし。余計臭いっつーの」
「ほんとそれな! 馬鹿だよねー!」
「豚に真珠っての? 笑えるわ」
二人はいつも笑う。
日常はだらりとのんびりに──だらりと血が流れたり。
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