マトリョーシカ少女

天海 時雨

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廃ビルは何故か

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「……これ、ほんとに廃ビル? 弦大丈夫?」

 弦の言ったとやらに着き、紗凪が放った第一声。なんとも紗凪らしいが辛辣だ。

「わりぃ、分かんなかった……てへっ?」

 渾身のボケのつもりであろうが、紗凪は────。

「……チッ」
「すいません……」
「ほら行くよ。に」
「うぅ……」

 弦の言った廃ビルとやらは、立派なビルだったのだ。

「……でも人がいないな。なんでだ?」

 入り口を通ろうが受付には誰もおらず、静寂と化している。

「なんか気味が悪いな。どこから探す?」
「全員一緒の方がいいよ。どこにいるか分かんないけど、複数いてヤの付く職業のベテランだったら困るし」
「いや俺らもヤが付くけどね……まぁいいや、そうしよう。じゃあ階段を上りつつ探すかぁー」

 異様に足音の響く階段を登る。キュッキュッと摩擦音が上へ登って行くような感覚だ。

「──異様に響くな。これだと誰かが来たと思われるぞ?」
「いいんじゃない、別に。ほら二階だよ!」

 急に開けた空間にはまたしても誰一人おらず、何もない空間に紗凪たちだけが迷い込んだような有様だ。

「……いないね。一番最上階に先に行きたいかも」
「なぜだ?」

 疑わしげに目を細めた紗凪がぼそりと呟いた一言に、鋭く疑問を返す静月。その鋭さは、紗凪にカラコンをしているのかと聞いたときに勝るとも劣らなかった。

「……予感だよ。静月達行かないなら私行くね、じゃ!」

 たたたっ、と持ち前の身軽さを使い、あっという間に二人の前からいなくなる紗凪。その目には、確信が浮かんでいた。

「あ、ちょ──」
「っ紗凪!」

 戸惑う弦よりも早く、紗凪の後を追った静月。

「っあぁったくもうっ!! 俺は置いてけぼりかっつーのっ!」

 そんな二人に、内心口を尖らせている弦。
 三人とも強者のオーラを纏っていることに、当人たちは気づかない。

「……くくく。ネズミが忍び込んだか?」
「…………」
「行ってこい。お前ならできるだろ?」
「……嫌だ」
「今更逆らうのか? 無駄だ。今更陽の下には戻れない──それはお前も知っているだろう?」
「っ……!」
「行け。……従わないのか?」
「──わ、かった……っ」

 ぷくり、ビー玉が膨らむ。
 まっかな、ビー玉のカケラ。
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