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悲しき騎士
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「はっ、は、ぁ……」
息を切らし、苦しげにかがみ込む三人。
その目と鼻の先には、大会議室と書かれたプレートが下がっている。
「……行く──」
弦のその言葉の先は、観音開きの扉の開く重い音に掻き消された。
「……あんた、誰?」
紗凪の目の先には、フードを被った女。
「……ミドリ。サナ?」
「……だったら?」
「……どっちでもいい。あんたの狙いは悠月?」
「あ、うん……?」
「なんでお前は紗凪を知ってるんだよ?」
冷たく問う静月。その問いを遮ったのは────。
「……ねぇ、ミドリさんとやら?」
「……なに?」
弦。 その整った顔は魅力の笑みに染められているが、ミドリを動じさせてはいない。しかし弦はそれも見越しているようで、不敵を心の底から思っているようだった。
「白いね、肌」
「……は?」
足見えてるよ、と弦は言う。
「……色素が薄いだ──」
「そこの痣、悠月もあったよ」
にやり、と弦が笑う。それは所謂、悪企みをする笑みだった。
「……だから?」
「んーん、なんでも? それよりさ、電気つけていい? ここ暗いから。いいでしょ?」
「っちょ、や──」
パチンッ、無情にも電気はついた。
「っ……!」
「ねぇ、悠月?」
弦はいつの間にかミドリに近づいていた。電気一つついていなかった暗さを逆に利用したのか、逃げられない間合いまで。
「…………」
俯いたまま、何の言葉も発しないミドリ。否、悠月なのかは誰も知らないが──彼女は震えているように見える。
「……俺、だんまり嫌いなんだよねぇ。紗凪も思ってるんだろうけど、もしあんたが殺したなら俺はあんたを殺しちゃうかも」
しかしその数瞬後、彼女は言葉を発した。
「──しい……」
「……何?」
言葉の頭が聞こえず聞き返す弦。その間にも彼女は目を押さえ、うずくまってしまう。
「──眩し、い……見え、ない」
その言葉を聞いた瞬間、紗凪が目を見開き動いた。彼女は側にあった照明のスイッチをまた消し──彼らのいない後方の一つをつけたまま──スマートフォンの光で彼女を探る。
「え、ちょっと消したら──」
消したら分かんないじゃん、と言う弦。しかし彼女のフードは既に────。
「……ゆ、つき?」
外れていた。
しかし弦の見たものは彼の知っている悠月ではなかった。
「……悠月がアルビノ──先天性白皮症なことは言ったよね? 先天性白皮症には症状もあって──」
強い光には弱いの、と紗凪は言った。だから太陽の下に何もせずには居られない────。
「……顔は同じでしょ?」
「あ、うん……ごめん」
「──げて」
「ん? どうかした?」
先程とは違った笑みを浮かべて返す弦。しかしこの安堵の時間の終焉は、もうすぐそこまで迫っている。
「……久しぶりだなぁ、紗凪?」
暗がりから現れた男。身長は高く、顔も整っているが、彼の浮かべている笑みがその印象を悪くしている。
「……お久しぶりです。このために悠月を?」
「あぁ、お前の性格は分かっているからな。──使えない娘だ。お前の近くにいると分かっていたから近づいたはいいものの、結局失敗しやがって……」
「あぁ、そのために。じゃあ、そのあなたの計画も失敗に陥るようですね?」
「……は?」
その瞬間、紗凪は鈍く光る物を手にし、その先をその男に向けていた。
「……ふっ、ガキが。お前はまた殺すのか?」
「……もう、それも感じない」
そう言って紗凪は、その口を──銃口を男に向け、引き金を引いた。
「っさ──」
男の寄りかかっている壁。その頭がある場所すれすれに銃弾は当たった。
「……私は私の日常のために、非日常になるから」
「人殺しが何を言う? まぁいい、その罪は一生だからな。そら、さっさと行け。お前のその嫌に美人な顔見ただけで十分だ」
しっしっ、と手を振り追い出すような仕草をする男。その顔には皮肉な笑みが浮かんでいる。
「お前もだミドリ。恐らくお前を使うことはもうないな、散々失敗することが分かった。早く帰れ、藍咲組の若。俺を捕まえても何にもならんぞ」
「はいそうですかって帰るわけねぇだろ。お前も来ん──」
静月の言葉を遮ったのは、紗凪。その表情は何とも言えない憂い気なものであり、しかし安堵の部分もあり────。
「帰ろう、静月。悠月のこともあるし……」
「は? 冗談だろ? この男のことも分かんねぇし──」
「こいつのことは、私が知ってる。それに動機も分かったから大丈夫。ねぇ、帰ろう?」
言葉尻の方は、懇願しているような口調でもあった。それを察したのか、静月は折れる。
「……またどうせいつか会うんだろう。じゃあな」
ふーっと溜息をつき、いつの間にか気を失っていた悠月を抱え上げる弦に目をやる静月。そして紗凪は、視線で男と会話していた。
息を切らし、苦しげにかがみ込む三人。
その目と鼻の先には、大会議室と書かれたプレートが下がっている。
「……行く──」
弦のその言葉の先は、観音開きの扉の開く重い音に掻き消された。
「……あんた、誰?」
紗凪の目の先には、フードを被った女。
「……ミドリ。サナ?」
「……だったら?」
「……どっちでもいい。あんたの狙いは悠月?」
「あ、うん……?」
「なんでお前は紗凪を知ってるんだよ?」
冷たく問う静月。その問いを遮ったのは────。
「……ねぇ、ミドリさんとやら?」
「……なに?」
弦。 その整った顔は魅力の笑みに染められているが、ミドリを動じさせてはいない。しかし弦はそれも見越しているようで、不敵を心の底から思っているようだった。
「白いね、肌」
「……は?」
足見えてるよ、と弦は言う。
「……色素が薄いだ──」
「そこの痣、悠月もあったよ」
にやり、と弦が笑う。それは所謂、悪企みをする笑みだった。
「……だから?」
「んーん、なんでも? それよりさ、電気つけていい? ここ暗いから。いいでしょ?」
「っちょ、や──」
パチンッ、無情にも電気はついた。
「っ……!」
「ねぇ、悠月?」
弦はいつの間にかミドリに近づいていた。電気一つついていなかった暗さを逆に利用したのか、逃げられない間合いまで。
「…………」
俯いたまま、何の言葉も発しないミドリ。否、悠月なのかは誰も知らないが──彼女は震えているように見える。
「……俺、だんまり嫌いなんだよねぇ。紗凪も思ってるんだろうけど、もしあんたが殺したなら俺はあんたを殺しちゃうかも」
しかしその数瞬後、彼女は言葉を発した。
「──しい……」
「……何?」
言葉の頭が聞こえず聞き返す弦。その間にも彼女は目を押さえ、うずくまってしまう。
「──眩し、い……見え、ない」
その言葉を聞いた瞬間、紗凪が目を見開き動いた。彼女は側にあった照明のスイッチをまた消し──彼らのいない後方の一つをつけたまま──スマートフォンの光で彼女を探る。
「え、ちょっと消したら──」
消したら分かんないじゃん、と言う弦。しかし彼女のフードは既に────。
「……ゆ、つき?」
外れていた。
しかし弦の見たものは彼の知っている悠月ではなかった。
「……悠月がアルビノ──先天性白皮症なことは言ったよね? 先天性白皮症には症状もあって──」
強い光には弱いの、と紗凪は言った。だから太陽の下に何もせずには居られない────。
「……顔は同じでしょ?」
「あ、うん……ごめん」
「──げて」
「ん? どうかした?」
先程とは違った笑みを浮かべて返す弦。しかしこの安堵の時間の終焉は、もうすぐそこまで迫っている。
「……久しぶりだなぁ、紗凪?」
暗がりから現れた男。身長は高く、顔も整っているが、彼の浮かべている笑みがその印象を悪くしている。
「……お久しぶりです。このために悠月を?」
「あぁ、お前の性格は分かっているからな。──使えない娘だ。お前の近くにいると分かっていたから近づいたはいいものの、結局失敗しやがって……」
「あぁ、そのために。じゃあ、そのあなたの計画も失敗に陥るようですね?」
「……は?」
その瞬間、紗凪は鈍く光る物を手にし、その先をその男に向けていた。
「……ふっ、ガキが。お前はまた殺すのか?」
「……もう、それも感じない」
そう言って紗凪は、その口を──銃口を男に向け、引き金を引いた。
「っさ──」
男の寄りかかっている壁。その頭がある場所すれすれに銃弾は当たった。
「……私は私の日常のために、非日常になるから」
「人殺しが何を言う? まぁいい、その罪は一生だからな。そら、さっさと行け。お前のその嫌に美人な顔見ただけで十分だ」
しっしっ、と手を振り追い出すような仕草をする男。その顔には皮肉な笑みが浮かんでいる。
「お前もだミドリ。恐らくお前を使うことはもうないな、散々失敗することが分かった。早く帰れ、藍咲組の若。俺を捕まえても何にもならんぞ」
「はいそうですかって帰るわけねぇだろ。お前も来ん──」
静月の言葉を遮ったのは、紗凪。その表情は何とも言えない憂い気なものであり、しかし安堵の部分もあり────。
「帰ろう、静月。悠月のこともあるし……」
「は? 冗談だろ? この男のことも分かんねぇし──」
「こいつのことは、私が知ってる。それに動機も分かったから大丈夫。ねぇ、帰ろう?」
言葉尻の方は、懇願しているような口調でもあった。それを察したのか、静月は折れる。
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