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幼馴染(?) 紗凪side
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「……というわけで、悠月とは仲良くなった」
「なるほど……それであのナイフを」
「そっ。いらないって言ったんだけど、使ってみたら便利でね」
「はー……」
「あ、同情はしないでね。惨めだから」
「するほど優男でもねぇよ。今更だろ」
「そ。ならいいや、じゃーあたし帰る──」
ついっと紗凪のパーカーの袖を引っ張る静月。
「え、何?」
「……お前、覚えてねぇのな。俺は思い出したぞ」
「は? 何を?」
「お前昔、この屋敷にいたろ」
「え、いたけど」
何言ってんのこいつという目で見られてる。え、私なんか忘れたっけ? それさえも覚えてないわ。
「……ツキ君と、ゲン。覚えてないか?」
「……ああ! やっぱあれ静月? 誰かの組員の子供だったのかなと思ってたよ」
「……やっぱり忘れられてたか」
「存在自体は覚えてたけど」
「……まぁいい。とりあえず今日は泊まるんだろ?」
「ん。じゃあおやすみ」
「おやすみ」
同情されてないこと、惨めに思われてないこと。それを知れただけでも良かったのかな。
ドアに寄りかかって少し考える。にしても、あのツキ君だとは──思わなかった。
「……ツキ君、か」
記憶はおぼろげだが、仲が良かったことは覚えている。そして彼は────、
「初恋、だっけ?」
そう、初恋。両親が死んでからは、思い出すこともなかったけれど。ただ、あの日──葬式の日だけは、私は彼の前に立っても俯くだけだった。
「……お母さんは、覚えてるかな」
覚えてるに決まってるでしょ、と目の前で笑ってくれたら、私はこんな悩まないのかな。──お母さんに会って話せてたら、こんな歪んでなかったのかな。
「…………」
ペタペタと歩き出して、寝室に向かおうとした時────。
「……やっぱりか」
唐突に開いたドアに反応できず、そのまま静月の部屋に倒れこんでしまった。痛い。
「いっ、た……急に開けな──」
開けないでよ。そう言おうとしたのに、なぜかまた部屋に引きずり込まれた。これまた痛い。
「ちょ、静月。痛いって」
「泣いてんのはそのせいじゃないよな」
「は?」
「気付かなかったか?」
え、と思って頬を袖で拭うと確かに水が滲む。──なんで泣いてるんだろう、私。
「……思い出させたか? 悪かったな」
思い出し泣きなんて、最近は悠月の前でもしてなかったのに──いや、最近はしてなかった。
嫌な夢を見ることはあるけど、ただ気持ち悪くなって吐いて終わるだけ。そのあとは大概寝れなくて、毛布にくるまりながら夜が更けるのを待つ。そんな習慣は中学生の時から出来上がっている。
「え、なんで……」
「泣くになんでも何もないだろう。とりあえず我慢するな」
そうは言われても、人前で泣いてるのに我慢するなというのは私には無理だ。人並みに恥ずい。
なので袖で目を拭こうとするけど──阻まれる。
「……あの、拭きたいんだけど」
「悪いが、母親の命令でな」
「……どんな家族なんだよ」
「居心地はいいぞ」
「…………」
拭けないままかなりの圧で抱き締められる。あーあ、静月の服汚れるし。
「いや、もう多少血で汚れてるからいい」
「え……」
「声に出てた」
「あ、そう。さすが若頭」
──静月はパジャマで繁華街に行くのかと思ったら、少し笑えてきた。
「……ん、もういいよ。止まったから」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。じゃーね」
止める声は聞こえなかったけれど、止める間もないようにドアを閉めた。
「なるほど……それであのナイフを」
「そっ。いらないって言ったんだけど、使ってみたら便利でね」
「はー……」
「あ、同情はしないでね。惨めだから」
「するほど優男でもねぇよ。今更だろ」
「そ。ならいいや、じゃーあたし帰る──」
ついっと紗凪のパーカーの袖を引っ張る静月。
「え、何?」
「……お前、覚えてねぇのな。俺は思い出したぞ」
「は? 何を?」
「お前昔、この屋敷にいたろ」
「え、いたけど」
何言ってんのこいつという目で見られてる。え、私なんか忘れたっけ? それさえも覚えてないわ。
「……ツキ君と、ゲン。覚えてないか?」
「……ああ! やっぱあれ静月? 誰かの組員の子供だったのかなと思ってたよ」
「……やっぱり忘れられてたか」
「存在自体は覚えてたけど」
「……まぁいい。とりあえず今日は泊まるんだろ?」
「ん。じゃあおやすみ」
「おやすみ」
同情されてないこと、惨めに思われてないこと。それを知れただけでも良かったのかな。
ドアに寄りかかって少し考える。にしても、あのツキ君だとは──思わなかった。
「……ツキ君、か」
記憶はおぼろげだが、仲が良かったことは覚えている。そして彼は────、
「初恋、だっけ?」
そう、初恋。両親が死んでからは、思い出すこともなかったけれど。ただ、あの日──葬式の日だけは、私は彼の前に立っても俯くだけだった。
「……お母さんは、覚えてるかな」
覚えてるに決まってるでしょ、と目の前で笑ってくれたら、私はこんな悩まないのかな。──お母さんに会って話せてたら、こんな歪んでなかったのかな。
「…………」
ペタペタと歩き出して、寝室に向かおうとした時────。
「……やっぱりか」
唐突に開いたドアに反応できず、そのまま静月の部屋に倒れこんでしまった。痛い。
「いっ、た……急に開けな──」
開けないでよ。そう言おうとしたのに、なぜかまた部屋に引きずり込まれた。これまた痛い。
「ちょ、静月。痛いって」
「泣いてんのはそのせいじゃないよな」
「は?」
「気付かなかったか?」
え、と思って頬を袖で拭うと確かに水が滲む。──なんで泣いてるんだろう、私。
「……思い出させたか? 悪かったな」
思い出し泣きなんて、最近は悠月の前でもしてなかったのに──いや、最近はしてなかった。
嫌な夢を見ることはあるけど、ただ気持ち悪くなって吐いて終わるだけ。そのあとは大概寝れなくて、毛布にくるまりながら夜が更けるのを待つ。そんな習慣は中学生の時から出来上がっている。
「え、なんで……」
「泣くになんでも何もないだろう。とりあえず我慢するな」
そうは言われても、人前で泣いてるのに我慢するなというのは私には無理だ。人並みに恥ずい。
なので袖で目を拭こうとするけど──阻まれる。
「……あの、拭きたいんだけど」
「悪いが、母親の命令でな」
「……どんな家族なんだよ」
「居心地はいいぞ」
「…………」
拭けないままかなりの圧で抱き締められる。あーあ、静月の服汚れるし。
「いや、もう多少血で汚れてるからいい」
「え……」
「声に出てた」
「あ、そう。さすが若頭」
──静月はパジャマで繁華街に行くのかと思ったら、少し笑えてきた。
「……ん、もういいよ。止まったから」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。じゃーね」
止める声は聞こえなかったけれど、止める間もないようにドアを閉めた。
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