マトリョーシカ少女

天海 時雨

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夏祭りにて

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「……お、射的発見。静月、やっていい?」
「あ、俺もやるわ」
「りんご飴、悠月に頼まれてるから買ってくる!」
「あーい、いってらーっ」

 ぱんっと音がし始めるその前に、弦は駆け出していた。

「にしてもさ、夏祭りなんか久しぶりだよ」
「俺もだなー……お、当たった」
「あんちゃん、ぬいぐるみだよっ!」
「えっ……?」
「ぶっ! あはははははははっ、ぬ、ぬいぐるみって……静月がぬいぐるみ! あはははっ!! っつ」
「そんなに笑うなって……」
「おー、ねーちゃんは知恵の輪だね。難しいよぉ」
「やった、最上級レベル! やりたいと思ってた!」
「いーや、お前にやるよ」

 投げやりにうさぎのぬいぐるみを押し付ける静月。彼がぬいぐるみを持つ光景はかなりシュールである。

「んー、ありがと! そろそろ花火だし学校行こ!」
「ねぇねぇ、意外と大きかったりんご飴」
「悠月甘党だから大丈夫!」
「んー、そーだなー」

 そう言う紗凪の手にはヨーヨーが五つ。

「お前……ヨーヨーどんだけ取ってんだよ」
「えー、いいじゃん別に。悠月もう学校だって」
「え、よく来れたな」

 アルビノ──先天性白皮症の悠月は光に弱く、太陽の下に出ることはできない。

「こらこら……まぁいいや。宿題も終わったし!」
「すっごく関係ない話題に飛んだ気がするけど気のせい?」
「うん、気のせいっ!」
「あ、そ──」
「あ、紗凪! 良かった、いたー」

 淡い水色の浴衣を揺らしながら、紗凪たちに近づいた悠月。白髪がふわりとなびいた。

「おー、浴衣着てきたの? 似合ってるじゃん!」
「奏さんが買ってたみたい。ちょうどいいのがあったから」
「んじゃー、行きますか!」

 からん、ころんと音を立てていた下駄は下駄箱に置かれ、四人は上履きに履き替える。

「……わー! ちょうどよく見えるじゃん!」

 始まった花火。色々な色の花火がひゅるひゅると音を立てて弾けていく。

「……久し振りに見た」
「そう? 花火は綺麗だから好きだよ、私は……っ」
「……紗凪?」
「ん、何?」

 誰が作った空気なのだろうか──四人は二つの教室を使っている。

「足、痛いのか?」
「あー……ちょっと久し振りに履いたからかな、靴擦れしちゃって。でもそんなじゃないよ」

 ただ、上履きの生地が固くて、ちょっと擦れると痛いだけ。苦笑しながら言う紗凪の足には、確かに赤くなっている部分がある。

「え、大丈夫か?」
「うん、そんなには痛くな──いっ」
「上履き、脱いだ方がいいぞ。床は──あぁ、多分ワックスがかけられたばっかりなんだろうけど、あんまり汚れてないし」
「うん、そうする……」

 脱ぐときでさえ、少し顔をしかめた紗凪。すると強く擦ってしまったのだろうか、片足でバランスを取っていた体がぐらりと傾いていく──倒れることは静月によって止められたものの、かなり苦しげな表情だ。

「……あ、りがと」
「大丈夫じゃないな……うわ、結構赤くなってる」
「痛い……絆創膏ばんそうこう持って来ればよかった」

 花火を見ている二人。それは、隣の部屋も同じだった。

「……わー、すごい……久し振り」
「眩しくないのか?」
「そんなにかな。そこまで明るくないし」
「ならいい」

 ヒュルルルッ、ドンッ、パラパラパラッ。

「あ、音花火!」
「あの音がするやつか?」
「んー……それを言ったら普通の花火だって音はするけどね。でもそうだよ、私あれ好きなんだ」
「え、何で?」

 子供のように無邪気な笑いを見せる悠月。薄水色の浴衣が、窓から流れ込んで来た風でふうわりと揺れた。

「……あ、あのさっ!?」
「うわっ! ……なんだよ急に……どうかしたのか」
「あ、のさ……」
「…………」
「へ……返事、なんだけど」
「え……」

 藍咲組の、ろうそくで照らされた薄暗い部屋の中のようにお互いの顔はあまり見えない──時々大きな花火が弾ける時以外は。
 
「…………」
「……でね」

 もし二人の近くに人がいても、小さすぎて聞こえなかったであろう声は──しっかりと、弦の耳に届いた。

「……うん、よろしく」
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