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番外編 紗凪の両親のお話
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「裕翔ー!」
「……相変わらず、元気だな」
「元気が一番でしょー! それはそうと、里奈、どこいったか分かる?」
とある高校、二人しかいない教室。少し肌寒くも思える──今は冬だ──のだが、葵は長袖のブラウスしか着ていない。
「いや、知らない」
「ふーん……まぁいいや」
「帰るぞ」
短くぶっきらぼうに行った、こちらはブレザーを着ている男子。長身で葵と頭一つ分ほどの差がある。
「……葵、上着着ろ」
「寒くないから大丈夫だよ……あ、サッカー部まだやってるー」
「運動部なんだよ。帰宅部の俺らとは違ってな」
「でも帰宅部なら帰宅部で学校残れるね」
「さっさと帰宅するのがつとめだろ」
「はは、うまいこと言う」
太陽は沈みかけ、薄暗い景色を眺めながら歩く葵。少し先を歩いている裕翔に置いて行かれないよう必死ではあるが、やはり景色を見たいらしい。
「……あ、月ー」
「……早いな。もう出てるのか」
「満月かな?」
「ちょっと欠けてないか」
「あ、ほんとだ」
白い息を吐きながら空を眺める葵の横顔を、裕翔はこっそりと見つめた。
「──言うわけがないか」
「え?」
「いや、なんでもない」
幼馴染の関係は近くて遠く、友達以上恋人未満という一定の壁があって近づけない。
──関係が、壊れそうで怖いんだ。
──だから、言わない。
「……葵、ほんと月が好きだな」
「ん、まぁね。行こっか」
「ああ」
また歩き出し、また少し先を歩く裕翔。
彼は、背後の苦しげな視線に気づいていない。
「……ばか」
誰にも聞こえないほどに小さく呟く──もうそれも、葵には日常のようになってしまって。
それでも、言葉の手紙の宛先は書けない。書いても、破り捨ててしまうのだ。
「…………」
沈黙が、続く。嫌味なほどに壮麗な夕日が、溢れ落ちそうだ。黄金色に染まる雲はほとんど動かず、自分の下にいる二人を見守っているように見える。
「……裕翔さ、そろそろ彼女作りなよ。もう高一だよ?」
「葵も彼氏いないだろ。……気になる奴、作ってみれば」
「私はいいよ。……モテないし、ブスだし。それに……」
「……何だよ」
「──ううん。なんでもない」
「……そうか」
──他の人のところに行って欲しくない、なんて。言えるわけが、ない。
「……なんか、思われてそう」
「何が」
「……私と裕翔が、カレカノだって」
「…………」
「馬鹿みたいだよね。……そんなわけ無いのに」
──そんな夢みたいなこと、叶うわけがないのに。その言葉だけ、葵は言えなかった。
「……あることに、してもいいんじゃないのか」
「……えっ?」
夕焼けのグラデーションが、二人の頬を染めた。
「…………」
そばにいないと、聞こえない一言。
お互いを夕日色に染める言葉が、いつまでも言えることを二人は願った。
「……相変わらず、元気だな」
「元気が一番でしょー! それはそうと、里奈、どこいったか分かる?」
とある高校、二人しかいない教室。少し肌寒くも思える──今は冬だ──のだが、葵は長袖のブラウスしか着ていない。
「いや、知らない」
「ふーん……まぁいいや」
「帰るぞ」
短くぶっきらぼうに行った、こちらはブレザーを着ている男子。長身で葵と頭一つ分ほどの差がある。
「……葵、上着着ろ」
「寒くないから大丈夫だよ……あ、サッカー部まだやってるー」
「運動部なんだよ。帰宅部の俺らとは違ってな」
「でも帰宅部なら帰宅部で学校残れるね」
「さっさと帰宅するのがつとめだろ」
「はは、うまいこと言う」
太陽は沈みかけ、薄暗い景色を眺めながら歩く葵。少し先を歩いている裕翔に置いて行かれないよう必死ではあるが、やはり景色を見たいらしい。
「……あ、月ー」
「……早いな。もう出てるのか」
「満月かな?」
「ちょっと欠けてないか」
「あ、ほんとだ」
白い息を吐きながら空を眺める葵の横顔を、裕翔はこっそりと見つめた。
「──言うわけがないか」
「え?」
「いや、なんでもない」
幼馴染の関係は近くて遠く、友達以上恋人未満という一定の壁があって近づけない。
──関係が、壊れそうで怖いんだ。
──だから、言わない。
「……葵、ほんと月が好きだな」
「ん、まぁね。行こっか」
「ああ」
また歩き出し、また少し先を歩く裕翔。
彼は、背後の苦しげな視線に気づいていない。
「……ばか」
誰にも聞こえないほどに小さく呟く──もうそれも、葵には日常のようになってしまって。
それでも、言葉の手紙の宛先は書けない。書いても、破り捨ててしまうのだ。
「…………」
沈黙が、続く。嫌味なほどに壮麗な夕日が、溢れ落ちそうだ。黄金色に染まる雲はほとんど動かず、自分の下にいる二人を見守っているように見える。
「……裕翔さ、そろそろ彼女作りなよ。もう高一だよ?」
「葵も彼氏いないだろ。……気になる奴、作ってみれば」
「私はいいよ。……モテないし、ブスだし。それに……」
「……何だよ」
「──ううん。なんでもない」
「……そうか」
──他の人のところに行って欲しくない、なんて。言えるわけが、ない。
「……なんか、思われてそう」
「何が」
「……私と裕翔が、カレカノだって」
「…………」
「馬鹿みたいだよね。……そんなわけ無いのに」
──そんな夢みたいなこと、叶うわけがないのに。その言葉だけ、葵は言えなかった。
「……あることに、してもいいんじゃないのか」
「……えっ?」
夕焼けのグラデーションが、二人の頬を染めた。
「…………」
そばにいないと、聞こえない一言。
お互いを夕日色に染める言葉が、いつまでも言えることを二人は願った。
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