マトリョーシカ少女

天海 時雨

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番外編 息子

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「……あ、藍咲君」
「……磯谷いそたにさんか。何か用?」
「ううん……昨日休んでたから、ノートいるかな、と思ったけど──大丈夫みたいだなって」

 ──昨日は、頭痛がひどく休んでしまった。

「……いや、大して書いてなかった。見せてもらってもいい?」
「ん? うん、いいよ」
「ありがと……あーぁ、やっぱりこっちの方がいい」

 ──ほら、こうやって微笑わらえば。
 ──君だって、僕に恋をするんでしょう?

「ん、ありがとう。ケータイで送ろうか? 写真」「……ううん、やっぱいいや」

 ──僕の名前は、弓月ゆづき。学校で一番モテるはずだけど──この、磯谷 ひなだけは、いつまで経ってもオトせない。

「……帰る?」
「うん、そのつもり」
「一緒でもいい?」
「いいよ」

 クラス内でも影は薄く、男子にもあまり人気はない。それでも、美少女──そのギャップが面白くて、声をかけたのが始まりだった。

「藍咲君、また告白されてたね」
「即行振ったけど」
「……あんなに可愛い子だったのに、どうして? あの子私と同じ書道部だけど、学年で一番可愛いって言われてるんだよ」

 ──そういう君も、影では人気があるんだよ? その言葉は飲み込んだ。

「……言ってなかったっけ。好きな子いるから」
「えっ!? ホント!? えー誰だろ……山崎さん?」
「性格ブス」
「いい子なのに……川又さんは?」
「まず可愛くない」

 ずっと問答してたら、分かるだろうか。

「もー……誰? でも、藍咲君ってなんか……ヤンデレそうな顔っていうか」
「ヤンデレ……? しかも顔で判断するのかよ……いやまぁ、束縛はするかもだけどさ。そこまでじゃないかな」
「じゃあどれくらい?」
「……あんまり男子とは話して欲しくないかなぁと。あ、KINEでもね」
「あ、やっぱりヤンデレじゃん。でもそれくらいなら耐えられそう」
「いや、みんな耐えられるんじゃない?」
「そうでもないと思うよ? ちょっと強めぐらいかもね」

 ──ヤンデレ、か。彼女を作ったことがないと言ったら嘘になるが、飽きて──捨てたように、なってしまった。あまりの後味の悪さに、それ以来あまり女子とは話していない……それでも、この磯谷さんは話しかけてくるのだが。

「ふうん……まあ、いいか」
「えー、誰だろ。え、誰、誰?」
「言っちゃったら面白くないじゃん」

 ──ゆっくり、じっとり慣らしてあげる。
 ──これが、『ヤンデレ』というものか……それは、この子に教えてもらうことにしよう。
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