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思い寝
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一歩踏み出すたび、足元の小枝がパキパキと音を立てる。本当ならもっと静かに、音を立てないようにしないといけないのだろうが、恐怖が勝っていた僕には、そんなことを気にする余裕なんてこれっぽっちもなかった。
「はっ、はあ……っ」
息が上がる。こんなに走ったのは、いつぞやの野犬に追われた時以来か。けれど、その時よりも怖い。これなら野犬に喰われたほうがマシかもしれない。
「い……!?」
足元の蔦に足を掬われ派手に転んだ。ずくんと痛みが走り、足首に目をやる。どうやら捻ったのか、少し赤くなっていた。
「早く、早く逃げなきゃ」
気持ちは急ぐのに、身体は上手く動いてくれない。痛みと恐怖で震え、息はもう絶え絶えだ。
「いたぞ! こっちだ!」
「……っ」
木々の間から揺れる灯りが大きくなって、ギラギラと目を光らせる男たちが次々に姿を見せる。
「あ……ぁ……」
痛む足をずるずると引きずるようにして、草場の影になる場所へ潜り込む。身体を“く”の字に曲げ、背中を丸くしてなるべく小さくなり、口に両手を当てて息のひとつも漏らさないようにする。
「いねぇじゃねぇか」
「っかしいな、人影が見えた気がしたんだが」
「もっとよく探せ」
見つけないで。どこかに行って。
そうしてどれくらい経っただろう。
絶えず聞こえていた男たちの声と、草木を踏みしめる音が遠くなり、やがて聞こえなくなっていった。
「……いっ、た?」
おそるおそる、身体を起こして顔を上げる。あたりを見回せば、もうランタンの灯りも見えなくなっていた。ほっと胸を撫で下ろしてから、今日はこのまま家には帰らず、どこかで身を潜めていようと決意す――
「か、かくれんぼ、は、終わりかなぁ?」
「ひいっ」
肩に手を置かれ、身体が大袈裟に跳ねて悲鳴が出た。置かれた指先が、僕の感触を愉しむようにやわやわと動く。
振り返れば、見たことのある顔が黄色い歯を見せてにたりと笑っていた。確か、この町の町長の息子で、もうすぐ五十になるのに働きもせず家にいるのだと、おば様がたが話しているのを聞いたことがある。
「お、女の人で本番、す、する前、に、練習、すべきだって、パパ、が、言ったんだぁ」
なんの練習か知りたくもない。そもそも、それは僕相手にすべきことじゃないだろ。女性とは身体の造りが違いすぎる。
肩を回して、力任せに掴んできた手を振り払う。そのまま距離を取ろうと這おうとし、けれど足首を掴まれ軽々と持ち上げられ、逆さ吊りの状態にされてしまう。なんだこいつ、ニメートルはあるんじゃないか?
「ぼ、ぼぼぼく、ノロマだから、おいてかれちゃっ、た、けど、へへ、ツイてる、なぁ」
「こっちは最悪だよ……!」
目の前にある締まりのない腹に向かって拳を繰り出す。が、ものすごい弾力で弾かれてしまった。ならばと、人体急所のひとつである陰部に右ストレートを突き出した。
「……?」
手応えがない。
違う。腹の脂肪が陰部まで垂れ、それが衝撃を吸収したんだ。
「なんだよ、この腹! バケモノが……っ!」
こんなになるまで身体を動かさないとか、有り得ないだろ!?
「でへ、へ。えぇと、まずはぁ、ペロペロする、んだ、よね」
「やめ……っ」
足首を掴んでいた手が腰へと移動し、そのまま両手でがしりと力任せに掴まれる。足の間に男の顔部分が来る形になり、股に鼻を押し付けると、男は堪能するように息を何度か繰り返した。布越しとはいえ気分が悪い。
「はな、せ……! 離せったら!」
僕も両手で男の身体を押してはみるが、うんともすんともいわない。運動が出来なさそうな身体をしているのに、どうしてこういう輩は力だけは強いんだ。
「んふっ、いい匂い、だぁ。もっと、もっ、と、ほじいなぁ」
男は僕を片手で支えると、もう片手でズボンを下着ごとずらした。外気に触れたせいか身体が一瞬ぶるりと震える。完全に脱げるような格好ではないため、下半身露出はさけられたが、だからといって容認出来るわけがない。
「やめろ! 嫌だ!」
「わぁ、綺麗、な、色だぁ。ペロペロしてあげる、ね」
「ひっ」
ぬめりのあるナニかが窄みを這う。いや、何をされてるかはわかるのだけど、その現実を直視したくなかった。
「や、だ……、やめっ、んあぁっ」
ぐちゅぐちゅと、舌先が無遠慮にナカを掻き回す。それは最初、本当に気持ち悪くて仕方がなかったはずなのに、ザフィに教えられたその場所を掠めた途端、僕の身体は嘘のようにびくりと反応を示してしまった。
「嘘……、うそ、うそ、うそうそうそうそ……!」
信じられなかった。住民の誰に触られても、あんなに反応することのなかった身体が、嘘のように快楽を拾い上げて、腹の奥に確かな証を残そうとしている。
「いやだ、やめて、ああ……っ」
ザフィとの思い出が上書きされていく。こんな汚らしい奴に、大事な記憶が、消されていく。僕にはそれが、何よりも耐え難い。
じゅるじゅるとわざとらしい音を立てながら、僕の恥ずかしい部分を吸い上げ、ナカを舌先で荒らし、窄みと陰部の合間の何もないはずのそこを舐め上げる。そのたびに、僕の気持ちとは裏腹に勃ち上がった熱からは先走りが溢れ、それは重力に逆らえず僕の顔目掛けて滴り落ちる。
嫌なのに。なんで僕は、僕の身体は、こんなにも悦んでいるんだろう。
「おいじい、おいしいなぁ。次、は、なんだっけ。そうだ、穴に入れるって、パパ、が言ってたん、だぁ」
「も……、お願い、します……、やめて……」
これ以上深いところを暴かれれば、僕は完全に自分を失くしてしまいそうで、それだけは絶対に避けたくて、逆らう言葉ではなく懇願を口にする。
「穴、穴、あなぁ」
男は僕の身体を、まるで人形を扱うように、乱暴に上下の向きを変えた。男は片手で僕を支えたまま、もう片手でズボンをずらし、そそり勃つ赤黒いモノを取り出した。さっきまで垂れる脂肪に隠れていたというのに、それが嘘かと思えるくらい太くて長い。
「ひ、ゃ……、それは、いや、だっ」
身体が下に落ちないように、僕は男の首に手を回し必死に自分の体重を支える。傍から見れば甘い恋人同士だろう。実際はそんな甘いものじゃない。首筋から漂う体臭は酷く酸っぱく、擦り付けた鼻先に油がついて気持ち悪い。
「あれ? あれ、れ? はいらな、い?」
「……っ」
男は僕の身体を降ろそうとする。
僕はそれに必死で耐える。
こんな攻防が続くかと思ったのに、男の頭目掛けて飛んできた何かによって男の力が一瞬緩んだ。僕は背中から地面に落ちて、何が起こったのかと男を見上げる。
「と、り?」
銀翼の、ニ羽の鳥。いや、銀に見えたのは月明かりのせいで、実際はニ羽とも真っ白な羽の、烏と鳩だった。
そのニ羽が、僕を守るように、男を啄んでいる。
「な、んだぁ! 邪魔だ、なぁ!」
この状況に理解が追いつかないが、これだけはわかる。
ニ羽は僕のためにどこからか飛んできて、そして僕を逃がそうとしている。なら、と震える身体を叱咤し、ズボンを引き上げると、僕は男に背を向け――
「この、くそがああアアアっ」
雄叫びを上げた男が鳩を叩き落とした。地面に衝突した衝撃でか、鳩はひくひくと小さく身体を震わせた後、ぴたりと動かなくなってしまう。それを見た烏が、鳩を守るように覆い被さった。
「ママ、に、頼んで、唐揚げにしてもらう、んだなぁ!」
男がニ羽を捕まえるために手を伸ばす。
「だ、駄目だ!」
僕も大概馬鹿だなぁ。
鳥なんて無視して逃げればよかったのに。
でも、あの銀に見えた翼が、まるでザフィみたいだったから、彼を穢されるみたいで、耐えられなかった。ニ羽を守るように被されば、男の手が僕の襟首を掴み上げてきた。
「ううっ」
苦しさでくぐもった声が漏れて、視界が涙で滲む。そのまま空いていた片手で、折角履いた服をまた剥かれ、今度こそ僕は、下半身に何も纏わない形になってしまう。
「早、く……、にげ」
酸素が頭に行き渡らず、視界も思考も霞んでいく。男が何か言っているが、それももう聞こえてこない。それでも微かに残る知性を集めてニ羽を探せば、その姿はもう、どこにもいなかった。
「はっ、はあ……っ」
息が上がる。こんなに走ったのは、いつぞやの野犬に追われた時以来か。けれど、その時よりも怖い。これなら野犬に喰われたほうがマシかもしれない。
「い……!?」
足元の蔦に足を掬われ派手に転んだ。ずくんと痛みが走り、足首に目をやる。どうやら捻ったのか、少し赤くなっていた。
「早く、早く逃げなきゃ」
気持ちは急ぐのに、身体は上手く動いてくれない。痛みと恐怖で震え、息はもう絶え絶えだ。
「いたぞ! こっちだ!」
「……っ」
木々の間から揺れる灯りが大きくなって、ギラギラと目を光らせる男たちが次々に姿を見せる。
「あ……ぁ……」
痛む足をずるずると引きずるようにして、草場の影になる場所へ潜り込む。身体を“く”の字に曲げ、背中を丸くしてなるべく小さくなり、口に両手を当てて息のひとつも漏らさないようにする。
「いねぇじゃねぇか」
「っかしいな、人影が見えた気がしたんだが」
「もっとよく探せ」
見つけないで。どこかに行って。
そうしてどれくらい経っただろう。
絶えず聞こえていた男たちの声と、草木を踏みしめる音が遠くなり、やがて聞こえなくなっていった。
「……いっ、た?」
おそるおそる、身体を起こして顔を上げる。あたりを見回せば、もうランタンの灯りも見えなくなっていた。ほっと胸を撫で下ろしてから、今日はこのまま家には帰らず、どこかで身を潜めていようと決意す――
「か、かくれんぼ、は、終わりかなぁ?」
「ひいっ」
肩に手を置かれ、身体が大袈裟に跳ねて悲鳴が出た。置かれた指先が、僕の感触を愉しむようにやわやわと動く。
振り返れば、見たことのある顔が黄色い歯を見せてにたりと笑っていた。確か、この町の町長の息子で、もうすぐ五十になるのに働きもせず家にいるのだと、おば様がたが話しているのを聞いたことがある。
「お、女の人で本番、す、する前、に、練習、すべきだって、パパ、が、言ったんだぁ」
なんの練習か知りたくもない。そもそも、それは僕相手にすべきことじゃないだろ。女性とは身体の造りが違いすぎる。
肩を回して、力任せに掴んできた手を振り払う。そのまま距離を取ろうと這おうとし、けれど足首を掴まれ軽々と持ち上げられ、逆さ吊りの状態にされてしまう。なんだこいつ、ニメートルはあるんじゃないか?
「ぼ、ぼぼぼく、ノロマだから、おいてかれちゃっ、た、けど、へへ、ツイてる、なぁ」
「こっちは最悪だよ……!」
目の前にある締まりのない腹に向かって拳を繰り出す。が、ものすごい弾力で弾かれてしまった。ならばと、人体急所のひとつである陰部に右ストレートを突き出した。
「……?」
手応えがない。
違う。腹の脂肪が陰部まで垂れ、それが衝撃を吸収したんだ。
「なんだよ、この腹! バケモノが……っ!」
こんなになるまで身体を動かさないとか、有り得ないだろ!?
「でへ、へ。えぇと、まずはぁ、ペロペロする、んだ、よね」
「やめ……っ」
足首を掴んでいた手が腰へと移動し、そのまま両手でがしりと力任せに掴まれる。足の間に男の顔部分が来る形になり、股に鼻を押し付けると、男は堪能するように息を何度か繰り返した。布越しとはいえ気分が悪い。
「はな、せ……! 離せったら!」
僕も両手で男の身体を押してはみるが、うんともすんともいわない。運動が出来なさそうな身体をしているのに、どうしてこういう輩は力だけは強いんだ。
「んふっ、いい匂い、だぁ。もっと、もっ、と、ほじいなぁ」
男は僕を片手で支えると、もう片手でズボンを下着ごとずらした。外気に触れたせいか身体が一瞬ぶるりと震える。完全に脱げるような格好ではないため、下半身露出はさけられたが、だからといって容認出来るわけがない。
「やめろ! 嫌だ!」
「わぁ、綺麗、な、色だぁ。ペロペロしてあげる、ね」
「ひっ」
ぬめりのあるナニかが窄みを這う。いや、何をされてるかはわかるのだけど、その現実を直視したくなかった。
「や、だ……、やめっ、んあぁっ」
ぐちゅぐちゅと、舌先が無遠慮にナカを掻き回す。それは最初、本当に気持ち悪くて仕方がなかったはずなのに、ザフィに教えられたその場所を掠めた途端、僕の身体は嘘のようにびくりと反応を示してしまった。
「嘘……、うそ、うそ、うそうそうそうそ……!」
信じられなかった。住民の誰に触られても、あんなに反応することのなかった身体が、嘘のように快楽を拾い上げて、腹の奥に確かな証を残そうとしている。
「いやだ、やめて、ああ……っ」
ザフィとの思い出が上書きされていく。こんな汚らしい奴に、大事な記憶が、消されていく。僕にはそれが、何よりも耐え難い。
じゅるじゅるとわざとらしい音を立てながら、僕の恥ずかしい部分を吸い上げ、ナカを舌先で荒らし、窄みと陰部の合間の何もないはずのそこを舐め上げる。そのたびに、僕の気持ちとは裏腹に勃ち上がった熱からは先走りが溢れ、それは重力に逆らえず僕の顔目掛けて滴り落ちる。
嫌なのに。なんで僕は、僕の身体は、こんなにも悦んでいるんだろう。
「おいじい、おいしいなぁ。次、は、なんだっけ。そうだ、穴に入れるって、パパ、が言ってたん、だぁ」
「も……、お願い、します……、やめて……」
これ以上深いところを暴かれれば、僕は完全に自分を失くしてしまいそうで、それだけは絶対に避けたくて、逆らう言葉ではなく懇願を口にする。
「穴、穴、あなぁ」
男は僕の身体を、まるで人形を扱うように、乱暴に上下の向きを変えた。男は片手で僕を支えたまま、もう片手でズボンをずらし、そそり勃つ赤黒いモノを取り出した。さっきまで垂れる脂肪に隠れていたというのに、それが嘘かと思えるくらい太くて長い。
「ひ、ゃ……、それは、いや、だっ」
身体が下に落ちないように、僕は男の首に手を回し必死に自分の体重を支える。傍から見れば甘い恋人同士だろう。実際はそんな甘いものじゃない。首筋から漂う体臭は酷く酸っぱく、擦り付けた鼻先に油がついて気持ち悪い。
「あれ? あれ、れ? はいらな、い?」
「……っ」
男は僕の身体を降ろそうとする。
僕はそれに必死で耐える。
こんな攻防が続くかと思ったのに、男の頭目掛けて飛んできた何かによって男の力が一瞬緩んだ。僕は背中から地面に落ちて、何が起こったのかと男を見上げる。
「と、り?」
銀翼の、ニ羽の鳥。いや、銀に見えたのは月明かりのせいで、実際はニ羽とも真っ白な羽の、烏と鳩だった。
そのニ羽が、僕を守るように、男を啄んでいる。
「な、んだぁ! 邪魔だ、なぁ!」
この状況に理解が追いつかないが、これだけはわかる。
ニ羽は僕のためにどこからか飛んできて、そして僕を逃がそうとしている。なら、と震える身体を叱咤し、ズボンを引き上げると、僕は男に背を向け――
「この、くそがああアアアっ」
雄叫びを上げた男が鳩を叩き落とした。地面に衝突した衝撃でか、鳩はひくひくと小さく身体を震わせた後、ぴたりと動かなくなってしまう。それを見た烏が、鳩を守るように覆い被さった。
「ママ、に、頼んで、唐揚げにしてもらう、んだなぁ!」
男がニ羽を捕まえるために手を伸ばす。
「だ、駄目だ!」
僕も大概馬鹿だなぁ。
鳥なんて無視して逃げればよかったのに。
でも、あの銀に見えた翼が、まるでザフィみたいだったから、彼を穢されるみたいで、耐えられなかった。ニ羽を守るように被されば、男の手が僕の襟首を掴み上げてきた。
「ううっ」
苦しさでくぐもった声が漏れて、視界が涙で滲む。そのまま空いていた片手で、折角履いた服をまた剥かれ、今度こそ僕は、下半身に何も纏わない形になってしまう。
「早、く……、にげ」
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