穢れを知らない魔女は穢れた神父に恋をする。

とかげになりたい僕

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恋結び

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 家、は駄目だ。あの青年が誰かは知らないけれど、僕を探している以上、家に戻るなんて自殺行為にも等しい。だからといって頼れる人も、場所も、僕にはない。
 とりあえず教会の裏手の塀をよじ登り、顔だけ出して、通りに誰もいないのを確認してから乗り越える。町にいるのも危険だし、とりあえずは町を出て――

「その後、僕はどうするんだろう……」

 足がはたと止まってしまった。
 毎日、薬を作って、誰かの相手をして、楽しいことも嬉しいことも、やりたいことだってなくて。そんな僕が、これから先、何をどうして生きていきたいんだろう。

「……え?」

 肩に乗った鳩が頭へと移動し、空に向けて、小さく短く鳴いている。それを追うように空へと視線を上げれば、あの日、この鳩と一緒にいた真っ白な烏が弧を描くように飛んでいた。

「ついて、いけってこと?」

 独り言のように零せば、鳩は頷くように短く鳴いた。一歩踏み出すと、弧を描いていた烏がある方向へと真っ直ぐに飛んでいく。

「ま、待って……!」

 人目につかないよう気を使いながら烏を追いかける。途中見失うかもしれないと不安になったけれど、烏はたまに屋根に止まりながら、僕が追いつける速さで飛んでくれていた。

 日が落ちかける町を足早に抜け、町の表側に広がる草原を駆ける。影が僕の足元から前に伸び、そして消える頃、僕は廃墟と化した町へと辿り着いた。

「隣町……?」

 そういえば、魔女のせいで住民が行方不明になったとか言っていた気がする。もちろんその“魔女”は僕ではないし、そもそも僕は魔女じゃない。それを証明するすべは、今はないけど。
 考えていても仕方がない。人がいないなら都合もいいし、ここで身を隠すのもありだと言えば、確かにありだ。
 煉瓦レンガ造りの建物の隙間からは蔓が伸び、地面からは草が好き勝手に顔を覗かせている。行方不明になったと聞いたのはいつだったか。ザフィが来た時ぐらいだから、もう一ヶ月は経つのだろうか。

「本当に一人もいない……。魔女がいるとして、本当にこんなことが可能なのかな」

 今住んでいる町よりも、少し大きな町だ。家々の造りだって、立派なものが多い。人だって大勢いたはず。それを簡単に消せるんだろうか。
 ひと際立派な建物がある。恐らくはこの町の集会所だったものだろうが、人がいなくなってしまった今では、賑やかであったはずのそこも見る影がない。扉を押せば少し軋みはしたものの、思ったよりもすんなりと開き、僕を受け入れてくれた。

「……誰だ!」
「へっ!?」

 扉を開いた直後、喉元に剣先を突きつけられた。僕はギラリと光るそれに小さく喉を鳴らしただけで、言葉はひとつも出てこない。

「貴様、もしや盗人……にしてはやけに身なりがいいようだな」
「ぁ……」

 間近で剣を見たことなんてない僕は、とりあえず害を及ぼす気がないことを伝えるために、震える両手をゆっくりと上げた。目が慣れてくると、剣を突きつけている彼が、甲冑に真っ白なマントをたなびかせているのがわかる。声を聞く限り、だいぶん年老いた騎士だと思われる。

「……ん? その鳥は」
「え? あ、あぁ、この子は……」

 頭に乗ったままの鳩がクルポと可愛らしく鳴いた。それを見た彼が「では貴方が」と呟くと、剣を仕舞い、深く頭を下げてきた。

「大変失礼しました。貴方がアサツキ殿でお間違いないですか?」
「へ? へ、あ、はい、アサツキ、ですけど」

 なんとも歯切れの悪い答え方をしてしまったが、彼は気にした様子も見せずに「よかった」と肩を撫で下ろした。話が全く見えないけれど、いきなり斬られることはなさそうだ。

「私は神殿騎士団の一人、マルグリットと申します。貴方のことはザフィアス殿からの報せで伺っております」
「ザフィ……、ザフィアスから?」
「はい。詳しい話をしますので、どうぞこちらへ」

 今ここで話を聞きたい。けれど、歩き続けて疲れているのも事実だ。早る気持ちを抑え、僕は彼、マルグリットの後に続くようにして、広間の奥へと足を踏み入れた。
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