乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜

勿夏七

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21章

129.勇者

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 ルーパルドとロクの体調も回復し、ワープポイントの解放を進めることになった。
 足を雪に取られながら前へと進んでいると、白と黒の毛並みを持つ熊が歩いている。

「……パンダ?」

 私がそう口にすると、パンダは振り返る。パンダと自認しているパンダということか?
 パンダはのっそりとこちらに方向転換し私の前で止まる。そして立ち上がった――。

「あれ? 人だったんだ」
「可愛いパンダじゃなくて悪かったねぇ」

 パンダらしき毛皮を被って歩いていただけで、中は顎髭を蓄えている50代くらいの男性だった。
 オールバックで白髪混じりの赤茶髪。左目は斬られた跡がある。白く濁っていることから失明しているのかもしれない。
 まあ、とりあえずイケオジと呼ばれる部類ではある。どことなくルーパルドと似た雰囲気があるが、他人の空似だろう。
 イケメンたちを見ていて改めて思うことがある。このゲーム、攻略範囲が広いな、と。

 毛皮を肩にかけて男性は笑顔で頷いた。

「パンダっぽく見えたなら重畳。実際はただのシロクマなんだけどね」

 男性は寒さを凌ぐために襲ってきた熊の皮を剥ぎ、なんとなくで所々に黒色を差したそうだ。なぜ四足歩行で歩いていたのかと言うと、熊に襲われず済むからだとか。
 なお、男性は少し前までゲムデースの洞窟にいたらしい。しかもそこは魔物討伐を頼まれたあの勇者が最後に訪れた洞窟だ。
 私はせっかくなので質問をする。

「もしかしてそこにいた魔物って倒しました?」
「おお、倒したよ。手応えなさすぎて驚いちゃったよ」

 軽く笑いながら男性は体を伸ばし首や肩を鳴らした。
 洞窟にいた魔物は大きく凶暴。だが、男性は剣一振りで切断したと言う。
 
 男性は鎧を着ておらず、硬めの生地の服を着ているだけ。傷は1つもなく土汚れくらいしかない。
 さきほど熊を倒したようだが、怪我もない。熊の強さは知らないが、それなりに出来る人であることは確かだろう。

「俺の名前はオジー。一応勇者を名乗らせてもらってるただのおじさんだよ」
「は? え? 500年も経ってるんですけど? 勝手に俺のご先祖様騙るのやめてもらっても?」
「おや、君が俺の子孫なのか」

 500年前の勇者の名前もオジーと言うらしい。ルーパルドは大混乱。それとは対にオジーは落ち着いた様子でルーパルドを眺めている。
 オジーは「疑われるのは当たり前だよな」と豪快に笑いながら、腰に差していた剣をルーパルドの前に出した。
 だが、まずその剣に反応を示したのはロク。興味津々に突き出された剣を眺めている。しかし割って入ることはしない。
 ルーパルドは一瞬怯んだが、剣を受け取りじっくりと眺め、目を瞑った。はぁとため息を吐きオジーに剣を返してから口を開く。

「……本物なんて見たこともないけど、これまで見てきた模造品なんかよりも断然質が良いし、何より使い込み方が手慣れた人のそれ」
「疑いは晴れたかな。洞窟を彷徨っていたら500年経ってたらしくてね。こうして新しい時代を見ることができたわけだ」

 どのような仕組みかはわからないが、オジーのいた洞窟は時間の流れが遅く老いずにいたそうだ。
 そうしてやっとの思いで出てきたかと思えば500年後の世界。誰も自分の顔など覚えておらず、勇者の剣も模造品だろうと興味を持つものは少ない。
 最初こそ寂しく思っていたそうだが、次第に快適だし旅に出ようとうろうろとしていたそうだ。

「それで、君が今の救世主なんだね。魔族が血眼になって探すのも納得だ」

 私の顔を見てオジーは懐かしい人を見るように目を細めた。
 すでに魔族とも出会っているらしいオジー。まさか勇者とは思わず勇者と似た見た目をしたおじさんと思われたようだ。
 見たことのある魔族に挨拶をしても無視されてしまったとオジーは傷付いた様子もなく笑っている。
 
「もしかして魔王の想い人を知っているんですか?」
「うん。彼女は魔王のことを最後まで好きになれなかったけどね」
「ん? 恋人って聞きましたがイヤイヤ付き合ってたとかですか?」
「付き合ってないよ~。魔王が付き纏ってはいたね」

 捏造されてるんだね。とちょっと面白そうに笑うオジー。
 魔王は妄想癖でもあるのだろうか。ただ思い込みたいだけかもしれないが。

「それにしてもまた世界征服を企んでるなんて、あいつも暇だね」
「勇者の力で止められませんかね?」
「昔なら勇者の剣の輝きで救世主の手助けはできたんだけどね。今は輝きもないし多分無理」

 そもそも、魔王討伐には救世主の加護を受けた者しか魔王城に入れないらしい。また、すでに一度加護を受けている者は対象外となるため、オジーは対象外だろうと。

「加護ってどうやって付与するんですかね?」
「そこまでは覚えてないなぁ。もしかしたらまだなのかもしれないし、まだ考えなくても良いんじゃない?」

 じゃ、俺はこれで。とまた毛皮を被って四足歩行で歩き出そうとした。だが、ルーパルドがそれを止めた。

「ちょっと待ってください。本物の勇者の剣を見せたい相手がいるんですけど、会ってくれませんか?」
「いいよ。どこにいるんだい?」
「この箱ですぐに会えますよ」

 私が白い箱を取り出すと、オジーは目を瞬かせ唸る。
 
「……んん?」
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