乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜

勿夏七

文字の大きさ
150 / 196
23章

149.奪還

しおりを挟む
「リン」
「はい?」

 なぜかアデルに突然ハグされた。その途端、魔力が身体中を駆け回る感覚がする。暖かくて気持ちがいい。
 ちょっとうっとりしていると、イナトが私の腕を取り後ろに隠す。

「何がしたい?」
「魔力補充をしていただけだ。お前らのように下心はない」

 腕を組み少しだけ不服そうにするアデルだったが、私を見て優しく笑った。すごく優しい微笑みだ。初めて見たかもしれない。

「魔力量も増え、身体を巡る量も安定しているようだな。誰かさんと違って」

 そう言ってイナトに視線を向けた。私も思わずイナトを見たが、あまり知られたくなかったようで目を逸らされてしまった。
 一度魔力暴走でも起こしたことがあるようだ。この様子だと話してくれそうもない。
 残念だけど、いつか話してくれると嬉しいな――
 

 その後、アデルは研究対象ができたからか、邪魔するなと部屋に閉じこもってしまった。私は血や唾液の提供を免れて安心だ。
 
 ジュ村のワープポイントへと向かう途中、クロノダから手紙が届いた。
 イナトがそれをすぐに読み、私を見た。
 
「次はクロノダに会いましょう。救世主様のために打っていた剣ができたそうですよ」
「じゃあ箱に入ろうか。アデルさんもドアつけてもらったら箱で解決したのにね」
「やめた方がいいと思いますよ。定期的に採取されるかと」
「それは、嫌だな……」
 
 箱へと入りすぐにクロノダを見つける。クロノダが持っていると私用に作ってくれた剣がとても短く小さいものに見えてしまう。

「ほらよ、魔王討伐に間に合ったか?」
「タイミングばっちりですよ! これから魔王城に行くんです」
「ほお、そりゃいい。本当は俺も一緒に行ってやりたいんだがな。それは難しそうだ」
「気にしないでください。お仕事頑張ってくださいね」

 おう。と頭を豪快に撫でられ髪がボサボサ。仕事があるからとそのまま戻っていってしまったクロノダを見送った。
 髪を整えようと私が手を伸ばす前に、なぜかルーパルドがボサボサの髪を整えてくれた。
 
「救世主さまの髪は柔らかいですね~」

 振り返るとルーパルドは名残惜しそうにしていた。世界を救済したら帰る。というのが引っかかっているのだろうか。多分、自意識過剰ではないだろう。


 ◇


 手に入れた国宝や剣を持って、エンドラスト国へと戻る。
 エンドラスト国の民達が、いつの間にやら魔族を大半倒したそうな。
 そのおかげか、街で治療に専念している人、怪我をした人、どちらもどこか余裕そうな表情を見せていた。
 
 軽く挨拶をしながら街中をぐるりと回る。誰も悲観的にはなっていない様子。
 そこでコーヒーを飲んでいたコウギョクを見つけ、私は声をかけた。

「お疲れ様です。手伝うことってありますか?」
「救世主様! おかえりなさい。暇なくらいですし、ゆっくりしてもらってて良いですよ。魔王は救世主様にしか倒せないですし」

 笑顔でそう言うコウギョク。なんだかとてもスッキリした表情に見える。

「魔族は簡単に倒せちゃうし、土地もどんどん返ってくるし……もう救世主様様ですよ」
「喜んでもらえて良かったです」
「魔王倒したら、うちで暮らしませんか? 龍人との子は風邪ほとんど引きませんし丈夫ですよ~」

 ニコニコと笑顔で言うコウギョク。
 私の勘違いでなければ、遠回しに嫁に来いと発言されている気がする。適当に聞き流すことにしよう。
 笑顔で「そうなんですね~」とだけ返し、コウギョクを置いて歩き出す。

 コウギョクやその他龍人の告白もどきをスルーしながら、魔族がいなくなった広大な土地を歩く。
 死体や血もなく、まるで最初から何もなかったかのような景色だ。
 魔族がいた土地のワープポイントを解放していく。
 エンドラスト国の人々のおかげで、魔族はすべて追い出し、ワープポイントの解放も終えていた。

「膿をすべて処理できたな。あとは魔王城の場所か」

 コンゴウは大剣を地面に突き刺し息を吐いた。そんな細い体でそんな大きな武器を持つのか。
 まあ、ゲームならあり得ない話ではないのだけれど。

「まさか誰も魔王城について知らないなんてな……」

 困った表情を見せたコンゴウ。魔族を倒す際、一々魔王城がどこにあるのか聞いてくれていたらしい。だが、誰1人として知らないと言い、収穫はなかったのだとか。

「あとは幹部クラスのやつらを探すしかないんだな?」

 俄然やる気が出ているロク。モッカが幹部クラスの話をしていたことを思い出す。
 コンゴウに聞いたところ、モッカやビラドゥのような見た目の魔族は見ていないと言っていた。きっと幹部クラスの魔族はエンドラスト国にいないのだろう。
 
 どのように魔王城を探すか。私達が悩んでいると、突如、天空に魔王城が現れた。
 それはとても大きくて、どの国の王城よりも大きく見える。

「なるほど。見つからないわけだ」

 イナトは紙にメモしている。後学のためだろう。
 
 魔王城はゆっくりと下降。木々をへし折りながら陸にゆっくりと降り立った。
 私達はすぐに降りていった方向へと駆け足で行き、魔王城の前へ。

「まさかこんなに早く魔王城が引き摺り出されちまうとは」

 魔王城の前まで辿り着くと同時に、ビラドゥが出てきた。
 隣にはモッカがいて、モッカは辺りを見渡しながらニヤニヤと笑っている。

「魔族全員、エンドラスト国から追い出されてウケる」

 だが、笑みはすぐに引っ込め、2人は大きな門を開いて同時に言う。
 
「魔王城にようこそ。救世主一行」

 突然ゲームっぽい演出だな……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

処理中です...