乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜

勿夏七

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23章

152.魔王討伐

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 ナルから心配の手紙は続き、最後は「今からそっちに行くから動かないでね」とだけ送られてきた。
 待っていると突然空に穴が空き、そこからナルが降ってきた。
 すごい! なんてことを言うつもりでいたが、地面に着地したと同時にナルに睨まれてしまった。

「魔王が相手だからってここまで死ぬものか? 動きを見て死に戻ったらいいやなんて思ってるんだろう? 確かにこの世界にいる僕らには君の死はメリットでしかない。でも、君にとってはデメリットのはずだ」

 ナルは一気に言葉を吐き出して、大きく息を吸い込んだ。

「馬鹿なんじゃないの」

 最後の最後にストレートに怒られた。私が謝罪をするとナルは呆れた表情を私に向けた。

「魔王倒しに行くよ。もう死に戻り体験したくないんだから」
「便利って言ってなかったけ?」
「僕、そんなこと言った? もう昔の話は忘れたな。ほら、歩く」

 そうして魔王の前にまた私達は立った。

「魔王を倒すまで立ち向かうつもりか? 殊勝なことよ」
 
 まるで死に戻りを知っているかのような口調だが、魔王は私が死に戻った回数しかわからないらしい。
 だから私や仲間の動きを覚えられてしまうことはない。
 今度はナルを仲間に入れての戦いだ。きっといない時よりも戦闘体験は良くなるはずだ――


 ナルが参戦してもなかなか倒せず、死に戻りを繰り返した。
 そうして、やっとの思いで魔王の胸を宝剣で貫いた。魔王は口から血を吐き、その場に膝をつく。
 荒い息遣いをしながらも倒れず、魔王は笑っていた。
 口元を拭い、魔王は私を見た。

「救世主、お前は何回俺に殺されたか覚えているか?」
「覚えてないよ。数えきれないほど、とでも言っておこうか?」
「ふはは、そうだな。お前達は必死だったからな」

 口に溜まった血を吐き出し、ゆっくりと玉座へと座る魔王。

「マラカイト、もう少しだ。あとはお前に任せよう」

 空を仰ぎ魔王はそのまま目を閉じた。ピクリとも動かなくなった魔王に、全員緊張の糸が切れたようだった。誰も喜ぶ様子もなく、ただ息をしてその場に立っていた。
 
 これでやっと帰れるのだろうか。
 あれだけ死に戻って勝ち取ったと言うのに、なんだかあまり実感が湧かない。
 
 宝剣に付着した魔王の血を拭い、綺麗な布で包む。イナトが用意してくれた宝剣用の箱へと嵌め込む。他の国宝も片付けた。あとは国宝を返して挨拶回りをして神様を見つけて帰宅。それでこの物語も終わりだ。

「救世主様、魔王の死体はエンドラストの者に任せましょう」
「……わかった。帰ろう」

 
 ◇


 エンドラスト国の人々に歓迎されながら国宝をコンゴウに返した。

「ご苦労だった。魔物も次第に姿を消していると報告を受けている。暫しこの国で羽を休めてくれ」

 コウギョクに背中を押され、いつの間に用意していたのかパーティー会場へと押し込まれた。
 なぜか女性にモテまくる私は、イナト達と引き剥がされハーレム状態。お酒を豪快に飲む人や肉ばかり食べる人、様々な女性に囲まれてイナト達と話せるタイミングはなかった――

 
 やっとの思いで抜け出し、冷たい風に当たる。お酒を飲みすぎたのか、今は雪の降る外でも心地が良い。こんなにも盛大なパーティーに参加したと言うのに、いまだに魔王を倒した実感は湧かない。
 だが、理由はわからないままだ。

「リンさん、ここにいたんだ」
「ナル……どうしたの?」

 ナルは私の隣に来て、私を見ずに話し始めた。
 
「ここの王様に、僕は龍人だって言われた。リンさんは知ってた?」
「知らなかったよ。でも、イナトが龍人の可能性が~て話はしてたね」
「魔法の制御ができるようになったから、大人の姿にも、龍の姿にもなれるって教えてもらったよ」
「それはすごいね。大人の姿はきっとかっこいいだろうし、龍は――大きくて強そうな感じなのかな」

 龍は正直イメージができない。ゲームでも登場するものの、あまりデザインを気にしたことはないし。ただ、ナルが龍になった場合、巨大な龍というよりもスリムで美人系な気がする。
 
「リンさんはどれが好き? やっぱり大人の男が好み?」
「どの姿でもナルはナルでしょ」
「……興味ないんだね」
「そんなことは言ってな――、びっくりした」

 目の前にいた美少年は、美青年に早変わり。幼さを取り払い身長が伸びたナルがそこに立っていた。
 イナトと同等、いやそれ以上に美人かもしれない。こんなのが隣を歩いていたら、また視線が痛そうだ。まあ、エンドラスト国ならそんなことはないだろう。筋肉はそこまでないように見えるし。

「まさかイケメン姿で私を釣ろうとしてる?」
「釣れないの? そういうのが好きだからあの3人を連れてるんだと思ってたんだけど」
「もし仮にそうだとしたら、すでに帰らないって言ってると思うよ」
「それもそうか……」

 そう言った後、黙ってしまった。
 次第に酒による熱も冷め、体が冷えてきた。
 気づいたのか、ナルは背後から私を無言で抱きしめた。私を覆い隠せるほどに大きいナル。
 少し前なら考えられないサイズだったのになぁ。

「帰りたくないって言わせてみせるから」
「え?」

 ナルはそう言い残し、会場へとまた戻ってしまった。
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