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第3章
温かい手
しおりを挟むエリアスと一緒にベリナリス国へ行って、魔物を抑え込むように力を使った。何度も「無理はしなくていい」って言われて、心配そうに私を見るエリアス。そんなに心配しなくていいのにな。
こうやって二人で森を歩くのは、私が龍の姿の時以来だ。エリアスは今も私に優しいけど、龍の私にも優しかった。だから危害を加えない魔物がいたら、きっと優しく接してくれると思う。そんなふうに、魔物と人間が共存とか出来たらいいな。難しいかな……でもそう出来たらいいのにな。
午前中だけだったけど、エリアスと一緒に森を歩いたりするのはやっぱり楽しい。勉強も好きだけど、森を歩いたり街へ行ったりするのも好き。外はやっぱりいいな。自然を感じられるって気持ち良い。
昼食はニレの木の元へ行って、エリアスと一緒に食べた。この場所はエリアスと初めて会った場所で、ニレの木から溢れている魔力も心地良い。私はこの場所が気に入ってるんだ。
こうやって二人で外で食べるのも久しぶり。またこうしたい。
帝城へ帰って、午後からはリオと一緒に勉強した。今日は歴史とか、この国の法律とかも教えて貰う。それから、歴代の皇族の事も教えて貰った。その中に、何故かアシュリーがいる。不思議そうな顔をしていたら、そんな私を見てリオも私を見て不思議そうにする。
勉強が終わってリオと居間でお茶を飲んでいる時も、腑に落ちない顔をしていたらしい私に、リオが問いかけてくる。
「リュカ、なんか気になる事でもある?」
「んー……気になる事はある……けど……」
「何が気になるの?」
「それは……エリアスに聞いてみる。」
「そう?あ、じゃあさ、そのピンクの石を握って話してみたら?」
「え?これ?」
「うん。僕、それちょっと憧れてたんだ。お父様もそれを持ってて、何度かお話しされてそうなのを見た事があってさ。良いなぁって思ってたんだ。」
「そうなんだ。でも……仕事の邪魔じゃないかな?」
「もう陽も暮れるし、きっと大丈夫だよ。忙しいと握らないだろうし、エリアスさんがリュカを邪魔とか思うわけないよ。」
「そうかな……じゃあやってみる!」
石を握りしめて、エリアスの事を考えてみる。少しして、エリアスの声が頭に響く!すごい!本当にエリアスと話が出来るんだ!
けど、途中でエリアスの声が聞こえなくなった。なんでだろう?どうしたのかな?何かあったのかな?
そうしていたら、目の前の空間が歪みだした。これはエリアスが帰ってくる時になるやつだ!けれど、歪みを抜けてきたエリアスは下に倒れ込んだままの状態だった。
「え……?なに……エリアス?……エリアスっ!!」
エリアスの口から、胸から、血がいっぱい流れ出してる!なんで?!なんでこんな事になってるの?!
「いやぁぁっ!!エリアスっ!!しっかりしてっ!!」
「エリアスさん!なんでこんなっ!」
すぐに回復魔法をエリアスに放つ!けど、私の回復魔法はそんなに効かない……!リオが必死で何かを言ってるけれどその声が遠くに聞こえる感じがして、何を言ってるのか分からない状態で……
私は何度も回復魔法を施すけれど、エリアスの出血はなかなか止まらない……
いやだ!いやだエリアスっ!
何度も何度もそうやって回復させていると、段々目の前がクラクラしてきて立てなくなって……魔力切れだ……倒れそうになったのを誰かに受け止められたような気がするけど、それでもエリアスに回復を……!
それから私は意識を失ったみたいだった。
気づいた時はベッドの中だった。でもいつもの部屋じゃない。そばにエリアスもいない。なんでだろう……って考えて思い出す。そうだ!エリアスは?!
まだ頭がクラクラするけど、急いで飛び起きてエリアスを探しに部屋を出る。そこにはゾランとミーシャがいた。
「ミーシャ!ゾラン!エリアスは?!」
「リュカちゃん……っ!」
「どこ?!エリアスはどこにいるの?!」
「……おいで。こっちだよ。」
ゾランが私の手を取って、別の部屋へ連れていく。そこにエリアスがベッドに寝かされていた。すぐにそばまで駆け寄っていく!
「エリアスっ!大丈夫っ?!エリアス!!」
エリアスにそう言うけどぜんぜん起きない。傷が深かったのかな?だからすぐに回復しないのかな?そう思ってエリアスの顔を触る。
「冷た、い……?」
「リュカ……エリアスさんは……」
「嘘だ……嘘だっ!エリアスっ!起きてっ!起きてよっ!!」
「リュカっ!落ち着いて!リュカ!」
「ゾランっ!なんで?!エリアスっ!いやだ!いやぁーっ!」
「リュカ!頼むっ!落ち着いて!セームルグを呼んで欲しいんだっ!リュカっ!」
「ゾランっ!!」
涙が溢れてどうしようもない……どうしよう?!どうしようっ!!
エリアスはいつも温かいのに!なんでこんなに冷たくなってるの?!なんで私が起こしてるのに起きないの?!ダメだ!絶対にダメなんだから!!
乱れる呼吸をどうにかしようとして、何度も何度も大きく息を吸って吐いて、ゾランの言った事を頭の中で繰り返す。
「セームルグ!」
叫ぶと、私の体の中からセームルグが光輝いて姿を現す。エリアスを見て、セームルグは驚いた顔をした。
「リュカ……これは!」
「お願い!セームルグ!エリアスの魂を元に戻してっ!」
「分かりました。では神経を集中させて下さい。」
「はいっ!」
セームルグの言うように神経を研ぎ澄ませて集中させる。セームルグが私に重なるようにして私を媒体にして力を放つと、白い光が漂ってきた。それは人形となっていき、私の目の前にやって来た。それはすごく優しい光を放っていて、これがエリアスなんだと、姿を表してなくても感じられる。そっとその手を取って、エリアスの元へと導く。
白い人形は、エリアスに重なるようにして体の中に入っていった。そんな私の様子をゾランはじっと見つめている。私はエリアスをじっと見つめる。
そばに行って手を握る。すると私の手を握り返すようにして手がピクリと動いた……!
「エリアス?!」
「エリアスさん!」
ゾランと二人で何度もそう呼び続けるけれど、エリアスは眠ったままだった。どうして?大丈夫なんだよね?!
「セームルグっ!エリアスが起きないよ!なんでなの?!」
「魂は戻っています。いずれは目を覚ますかと。しかし、エリアスさんは心臓を傷つけられていました。それにエリアスさんの能力は大きくて、それを取り戻すのに時間が必要となります。」
「大丈夫?エリアスは本当にもう大丈夫なの?!」
「恐らくは……」
「そんな曖昧な言い方しないでっ!」
「私がリュカの意向を汲みますから。死なせませんよ。」
「お願いだから!絶対だよ?!」
「はい……!」
不安そうなゾランに、セームルグが話した事を告げる。そうしてからやっとゾランが安堵したように力を抜いて壁にドンッてぶつかるように体を凭れさせる。それから大きく、ため息をつくように息をはいた。ゾランも凄く心配していたんだな……
ここはゾランとミーシャの部屋にある客室で、そこにもうひとつあるベッドで今日は休むことにした。ゾランに言って、ベッドをピッタリくっ付けて貰う。まだ目を覚まさないエリアスのそばに横たわって、両手でエリアスの手を握る。
温かい……
エリアスの手が温かいよ……
それが嬉しくて、嬉しくて嬉しくて、涙が出て止まらない……
でも同じくらい心配で、心配で心配で……
エリアスがいなくなったらどうしようって……
私はまた一人になってしまう……
それが凄く怖くって仕方がなくて、少し戻った魔力でまた回復魔法を放つ。だけど、エリアスは眠ったままだ。
私はまだエリアスにちゃんと言えてない。
「お父さん」って呼べないままだなんて嫌だ……!
それは私が意地を張っていたからで、エリアスをそうだと認めていないとかじゃなった。
ごめんね、エリアス……
ううん……
お父さん……
応援ありがとうございます!
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