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第3章
契約
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最近エリアスは忙しい。
それは私が連れ去られた原因となる裏組織の撲滅の為に動いているからで、奴隷にされる人達を一人でも多く救いたい、と思っているからだ。
奴隷にされると、強制的に働かされる。だけどそれだけじゃないんだって。エリアスは昔、自分が奴隷だった時期があったと教えてくれた。笑いながらそう言ったエリアスは少し悲しそうな表情をする。きっと凄く辛い記憶があるんだろうな。だからあまり詳しく聞くことが出来なかった。
最近はそうやって裏組織のアジトを殲滅していく仕事ばかりだから、私が仕事についていく事が出来なくなった。エリアスと一緒に色んな所に行けるの、楽しみにしてたんだけどな。
だから私はリオと一緒に勉強する。そして、今日は郊外学習だって先生が言ってた。帝都から出て近くにある森へ行くんだって。そこで薬草や、魔草と呼ばれる様々な効能を持つ草を採取して、その後調合もするんだって。
何だか楽しそうで、行く前からスッゴく楽しみにしてたんだ!
帝都から出る、と言っても、そんなに離れた場所には行かないし、護衛に三人、屈強そうな体格の兵士がついてくれてるし、先生も魔法には長けているんだそうだ。
この事をエリアスに言ったら、「マジで大丈夫なのか?!その兵士はどのレベルなんだ?!先生はどの魔物のランクを討伐できるんだ?!」って、すっごく心配してしつこく何度も聞いてきてた。
「この辺りの魔物はそんなに強くないし、私がいれば大丈夫だよ」って言うと、それでもすぐには納得してくれなかった。本当にエリアスは心配性だ。でも、それも素直に嬉しいって感じる。
「俺が一緒だったら何の心配も要らないのに!」って言ってたけど、エリアスと一緒であってもいつも心配してるし、エリアスより強い人なんて多分いないと思うから、結局は誰と何処へ行っても心配するしかしないんだろうな。
朝から郊外学習に行くのにウキウキしていたら、何度も「何かあったらすぐに呼べよ?!」って言って、なかなか私を離してくれなかった。連れ去られた事もあって、エリアスの心配はMAXになってるんだろう。
そんなエリアスをよそに、私は足取り軽く郊外学習へと赴く。
森は嫌いじゃない。どちらかと言えば慣れ親しんだ場所、といった感じだ。だけど、また森の中で一人で生きていかなくちゃいけないってなると、それは凄く嫌だ。一人は嫌だけど、もしエリアスと一緒とかなら大丈夫。結局、どこであろうと、一緒にいる人で変わるんだろうな。
馬車で少し行った所にある森の入り口付近で先生に今後の注意を受けながら、その場に馬車を置いて、そこからは歩いて森へと入っていく。
暫く歩いて行くと先生が足を止めて、「これが薬草です」と言って草を指差す。それは、魔物達が疲れた時によく食べていた草だった。そうか、だからこの草を食べてたんだ。って、妙に納得する。
薬草は根を残すように切っておくんだそうだ。「そうするとまたそこから生えてくるから、根から掘り起こして根絶やしにしないようにね」と教わる。成る程、そうだったのか!
同じように薬草を見つけては根を残して切っていく。「薬草がよく生えている場所を知っておくことも大事ですよ」って言われて、私もその場所を覚えておくようにする。
魔草についても教えてくれた。
魔草にも色々あって、麻痺に効く、眠りを覚ます、解毒作用がある、というのが一般的で、希少な物だと、能力を一時上げる、能力を一時下げる、混乱状態にさせる、幻覚を見せる、眠らせる、等といった物もあるらしい。
「とは言え、ここら辺にある草は一般的な物ばかりだから、安心してくださいね」って先生は笑いながら言う。希少な草は、採取にも注意が必要らしく、採取方法を間違うとその効果にあてられる、といった事もあるらしい。
だから、「知らない草を見つけても、簡単に何でも採取してはいけませんよ」と、森へ入る前に注意された。
先生に言われた通りに薬草を採取していって、時たま見つける魔草も採取していく。どんな効果があるのか分かった草を摘み取るのは楽しいな。何も知らずに今まで平気で踏んで歩いてた、と思うと、凄く勿体ないって感じた。何でも知っていくって事は大切なんだな。
そうやって採取していて、お昼になったから一旦馬車を停めてる場所まで戻ると、そこには既に簡易テーブルと椅子が用意されてあって、テーブルの上には食事の用意もされてあった。 そばには給仕係の人もいて、私達が席に着くとお茶を入れてくれる。凄いな。外でもこんなふうにしてくれるんだ。食事も簡単な物じゃなくて、いつも帝城で食べる物と同じようなメニューが並んだ。
私が龍の姿の時、エリアスと一緒にサンドイッチを食べた事があったのをふと思い出した。テーブルとかじゃなくて、あの時はエリアスの膝の上で、時間が経ってパサパサしたサンドイッチを二人で食べたな。固くてパサパサだったパンでも、エリアスのそばで食べたら何でも美味しく感じたんだ。
今もこうやって外で食べれるのは楽しいし、リオと話しながら食べるのも嬉しい。やっぱり一人で、生きる為だけに食べる食事とは全然違うんだな。こうしていられる事が凄く幸せなんだと思う。
昼食が終わると、また森へと入って行く。先生に、草の種類だけじゃなくて、木の種類も教えて貰う。先生は何でも知っている。凄いな。
木に住む鳥の種類もよく知っているし、地面を這う虫の事もよく知っている。もっと知りたい。もっと色々教えて欲しい!
草を見つけて採取しながら、鳥の声にも耳を傾ける。すると、鳥は『あっちだよ』と私に何かを教えてくれる。何だろう?って思って、飛び立つ鳥の後を追いかけて行く。少し行った所で、鳥は枝にとまり『ここだよ』と告げてくる。
なにかいるの?って思いながら、辺りをキョロキョロしていると、何もない所から抉じ開けるようにして空間を広げて、そこから何かが出て来た。
それは紫の髪をした、高潔な雰囲気を持つ精霊と思われる存在だった。
「こんにちは。」
「え?!あ、こ、こんにちは!」
「ふふ……可愛い子ね。貴女には感じるものがあるわ。私と契約する?」
「え?けいやく?」
「左手の腕輪……これは契約の腕輪……」
「え?違うよ?これは能力制御の腕輪で……」
「そうかもね。でも、青い石があるでしょう?これがあると、精霊と契約出来るのよ?」
「えっ!そんなの、知らないっ!」
「その能力に見合った者でないといけないけれどね。」
そう言って微笑んでから、紫の髪の精霊は私の左手首にある腕輪にそっと触れる。それからニッコリ微笑んだ。
「契約は成されたわ。」
「えっ?!もう?!」
「適正があったのよ。私は空間を操る精霊ディナ。必要とあれば何時でも呼びなさい。呼ばなくとも、もうその力は使える筈だけどね。」
「空間……ディナ……」
「貴女のお名前は?」
「あ!そうだ!私はリュカ!」
「リュカね。貴女の中に、ある人物を感じたわ。もうこの世にはいないけれど、貴女に似た人と近しい人だったようね。」
「えっと、それは……」
「ふふ……久しぶりに懐かしい気持ちになれたわ。ではね。」
ニッコリ微笑んでからディナは、また何もない所を抉じ開けて、そこへ入って行くようにして姿を消した。
今起きた事に頭がついて行かなくて、暫くその場で呆然としていると、遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。ハッと気づいて、すぐに声のする方へ走っていく。
私の姿が見えなくなって焦って皆で探していたらしくて、一人で森の奥へ行った私は先生に大目玉をくらったのだった。
それは私が連れ去られた原因となる裏組織の撲滅の為に動いているからで、奴隷にされる人達を一人でも多く救いたい、と思っているからだ。
奴隷にされると、強制的に働かされる。だけどそれだけじゃないんだって。エリアスは昔、自分が奴隷だった時期があったと教えてくれた。笑いながらそう言ったエリアスは少し悲しそうな表情をする。きっと凄く辛い記憶があるんだろうな。だからあまり詳しく聞くことが出来なかった。
最近はそうやって裏組織のアジトを殲滅していく仕事ばかりだから、私が仕事についていく事が出来なくなった。エリアスと一緒に色んな所に行けるの、楽しみにしてたんだけどな。
だから私はリオと一緒に勉強する。そして、今日は郊外学習だって先生が言ってた。帝都から出て近くにある森へ行くんだって。そこで薬草や、魔草と呼ばれる様々な効能を持つ草を採取して、その後調合もするんだって。
何だか楽しそうで、行く前からスッゴく楽しみにしてたんだ!
帝都から出る、と言っても、そんなに離れた場所には行かないし、護衛に三人、屈強そうな体格の兵士がついてくれてるし、先生も魔法には長けているんだそうだ。
この事をエリアスに言ったら、「マジで大丈夫なのか?!その兵士はどのレベルなんだ?!先生はどの魔物のランクを討伐できるんだ?!」って、すっごく心配してしつこく何度も聞いてきてた。
「この辺りの魔物はそんなに強くないし、私がいれば大丈夫だよ」って言うと、それでもすぐには納得してくれなかった。本当にエリアスは心配性だ。でも、それも素直に嬉しいって感じる。
「俺が一緒だったら何の心配も要らないのに!」って言ってたけど、エリアスと一緒であってもいつも心配してるし、エリアスより強い人なんて多分いないと思うから、結局は誰と何処へ行っても心配するしかしないんだろうな。
朝から郊外学習に行くのにウキウキしていたら、何度も「何かあったらすぐに呼べよ?!」って言って、なかなか私を離してくれなかった。連れ去られた事もあって、エリアスの心配はMAXになってるんだろう。
そんなエリアスをよそに、私は足取り軽く郊外学習へと赴く。
森は嫌いじゃない。どちらかと言えば慣れ親しんだ場所、といった感じだ。だけど、また森の中で一人で生きていかなくちゃいけないってなると、それは凄く嫌だ。一人は嫌だけど、もしエリアスと一緒とかなら大丈夫。結局、どこであろうと、一緒にいる人で変わるんだろうな。
馬車で少し行った所にある森の入り口付近で先生に今後の注意を受けながら、その場に馬車を置いて、そこからは歩いて森へと入っていく。
暫く歩いて行くと先生が足を止めて、「これが薬草です」と言って草を指差す。それは、魔物達が疲れた時によく食べていた草だった。そうか、だからこの草を食べてたんだ。って、妙に納得する。
薬草は根を残すように切っておくんだそうだ。「そうするとまたそこから生えてくるから、根から掘り起こして根絶やしにしないようにね」と教わる。成る程、そうだったのか!
同じように薬草を見つけては根を残して切っていく。「薬草がよく生えている場所を知っておくことも大事ですよ」って言われて、私もその場所を覚えておくようにする。
魔草についても教えてくれた。
魔草にも色々あって、麻痺に効く、眠りを覚ます、解毒作用がある、というのが一般的で、希少な物だと、能力を一時上げる、能力を一時下げる、混乱状態にさせる、幻覚を見せる、眠らせる、等といった物もあるらしい。
「とは言え、ここら辺にある草は一般的な物ばかりだから、安心してくださいね」って先生は笑いながら言う。希少な草は、採取にも注意が必要らしく、採取方法を間違うとその効果にあてられる、といった事もあるらしい。
だから、「知らない草を見つけても、簡単に何でも採取してはいけませんよ」と、森へ入る前に注意された。
先生に言われた通りに薬草を採取していって、時たま見つける魔草も採取していく。どんな効果があるのか分かった草を摘み取るのは楽しいな。何も知らずに今まで平気で踏んで歩いてた、と思うと、凄く勿体ないって感じた。何でも知っていくって事は大切なんだな。
そうやって採取していて、お昼になったから一旦馬車を停めてる場所まで戻ると、そこには既に簡易テーブルと椅子が用意されてあって、テーブルの上には食事の用意もされてあった。 そばには給仕係の人もいて、私達が席に着くとお茶を入れてくれる。凄いな。外でもこんなふうにしてくれるんだ。食事も簡単な物じゃなくて、いつも帝城で食べる物と同じようなメニューが並んだ。
私が龍の姿の時、エリアスと一緒にサンドイッチを食べた事があったのをふと思い出した。テーブルとかじゃなくて、あの時はエリアスの膝の上で、時間が経ってパサパサしたサンドイッチを二人で食べたな。固くてパサパサだったパンでも、エリアスのそばで食べたら何でも美味しく感じたんだ。
今もこうやって外で食べれるのは楽しいし、リオと話しながら食べるのも嬉しい。やっぱり一人で、生きる為だけに食べる食事とは全然違うんだな。こうしていられる事が凄く幸せなんだと思う。
昼食が終わると、また森へと入って行く。先生に、草の種類だけじゃなくて、木の種類も教えて貰う。先生は何でも知っている。凄いな。
木に住む鳥の種類もよく知っているし、地面を這う虫の事もよく知っている。もっと知りたい。もっと色々教えて欲しい!
草を見つけて採取しながら、鳥の声にも耳を傾ける。すると、鳥は『あっちだよ』と私に何かを教えてくれる。何だろう?って思って、飛び立つ鳥の後を追いかけて行く。少し行った所で、鳥は枝にとまり『ここだよ』と告げてくる。
なにかいるの?って思いながら、辺りをキョロキョロしていると、何もない所から抉じ開けるようにして空間を広げて、そこから何かが出て来た。
それは紫の髪をした、高潔な雰囲気を持つ精霊と思われる存在だった。
「こんにちは。」
「え?!あ、こ、こんにちは!」
「ふふ……可愛い子ね。貴女には感じるものがあるわ。私と契約する?」
「え?けいやく?」
「左手の腕輪……これは契約の腕輪……」
「え?違うよ?これは能力制御の腕輪で……」
「そうかもね。でも、青い石があるでしょう?これがあると、精霊と契約出来るのよ?」
「えっ!そんなの、知らないっ!」
「その能力に見合った者でないといけないけれどね。」
そう言って微笑んでから、紫の髪の精霊は私の左手首にある腕輪にそっと触れる。それからニッコリ微笑んだ。
「契約は成されたわ。」
「えっ?!もう?!」
「適正があったのよ。私は空間を操る精霊ディナ。必要とあれば何時でも呼びなさい。呼ばなくとも、もうその力は使える筈だけどね。」
「空間……ディナ……」
「貴女のお名前は?」
「あ!そうだ!私はリュカ!」
「リュカね。貴女の中に、ある人物を感じたわ。もうこの世にはいないけれど、貴女に似た人と近しい人だったようね。」
「えっと、それは……」
「ふふ……久しぶりに懐かしい気持ちになれたわ。ではね。」
ニッコリ微笑んでからディナは、また何もない所を抉じ開けて、そこへ入って行くようにして姿を消した。
今起きた事に頭がついて行かなくて、暫くその場で呆然としていると、遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。ハッと気づいて、すぐに声のする方へ走っていく。
私の姿が見えなくなって焦って皆で探していたらしくて、一人で森の奥へ行った私は先生に大目玉をくらったのだった。
応援ありがとうございます!
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