黒龍の娘

レクフル

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第3章

調整

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 リュカの能力が覚醒した。

 普通は能力が覚醒したところで、いきなり大きな魔法とかは使えねぇし、暴走するなんて事はまず無い。やっぱりリュカの能力は相当大きいんだろうな。

 俺と昼食を摂った後、リュカはまた眠気に襲われて眠ってしまった。今は能力を体に馴染ませるのを一番に考えねぇとな。

 リュカが眠っている間に、ゾランに言われていた仕事をこなす。兵舎にいる兵達の幻術を解いてから、俺はシアレパス国までやって来た。シアレパス国で捕らえたギルド長と兵隊長、それと兵達は王家の牢獄に入れられているからだ。
 ここは首都で王城があり王家がいる場所だが、ムスティス公爵領でもある。だからここが一番都合が良い。今回の事は勿論王家にも報告済みで、その裁量はムスティス公爵に委ねられている。それは捕らえられた者の中にムスティス公爵の諜報員がいたことが大きな要因となったからだ。この事を踏まえて仕込んでいたムスティス公爵は、やはり切れ者だと言わざるを得ない。

 ムスティス公爵と共に牢獄へと向かう。「こんなに多くの人数を収容したのは初めてだ」と、ムスティス公爵は困惑しつつ笑って俺に言う。
 王城の地下にある牢獄へと、案内されながら歩いていく。ここも迷路のようになっていて、案内がなければたどり着くのも難しい。薄暗くひんやりとした空気で、牢獄へと近づく度に湿気が体にまとわりつくような感じがした。


「で、皆の様子はどうなんだ?」

「あぁ、兵達はグッタリした状態でな。見るからに悲愴感が漂っておる。ギルド長と兵隊長は……まぁ見て貰えれば分かるがな。」

「証言はできない状態なのか?」
 
「常に何かに怯えておる。部屋の隅で、自分を守るように体を丸めてうずくまり、何を聞いても謝るばかりで詳しい事は何も言えない状態だ。」
 
「そうか……」

「報告は受けている。今までした事を思えば当然といえばそれまでだが、証言も出来ない程に甚振いたぶるのもどうかと思うぞ?」

「すまねぇ。今後無いように気を付ける。」

「聞けばエリアス殿のお嬢さんを傷つけられたからだそうだが、エリアス殿の力を思えば我を失う等あってはならない事と捉えて欲しいんだがな。」

「あぁ、そうだな。そのせいでリュカは……」

「ん?何かあったのか?」

「あ、いや、何でもねぇ。それで……フレースヴェルグの討伐をすぐにでも行いたいと思っている。調整は可能か?」

「そうか……分かった。この事はまた後程話そう。ここが牢獄だ。この奥にギルド長と兵隊長がいる。」


 薄暗い通路の先にはいくつもの牢屋が両脇にあって、数人の看守がそこで管理をしていた。
 手前の牢屋には兵達が何人かに分けられて入れられている。俺が前を通ると、その姿を見た途端に怯えたように叫び、皆が隅の方へと逃げるように退いた。そんなに俺が怖いかよ?お前らには何もしてねぇだろ?
 
 そうやって歩いて行くと、俺を見た兵達皆が恐れて叫び、それから頭を地面に付けるようにして伏して謝り、恐怖からか涙した。その様子を横目に俺は立ち止まる事無く、奥へと進んでいく。

 奥の牢屋には一人ずつ、ギルド長と兵隊長がいた。俺を見るなり、叫び震え、何度も何度も謝る。これじゃどうにも出来ねぇな。牢屋の隅にいるギルド長の元へ、鍵を開けてもらって入って行き、震えて土下座をしているギルド長のそばで膝を折る。


「頭、上げろ?」

「は、はい……!」

「俺の目を見ろ。」

「は、い……」


 やっと事で俺と目を合わせたギルド長から恐怖心を奪っていく。あまり奪い過ぎるとまた調子に乗るかも知んねぇから、少し残しておく事にする。そうすると震えと涙は止まり、俺と堂々と目を合わせるまで症状は回復した。その様子をムスティス公爵は驚いた顔をして見ていて、「何をしたのか?!」と聞いてくる。「少し恐怖心を取っただけだ」と言っても、「どうやってそうしたのか?!」って興味津々にまた聞いてくる。まぁ、目を見ただけで色んなモンが奪えるなんて、言っても信じて貰えそうにねぇけどな。

 兵隊長にも同じようにして恐怖心を奪っていく。これでもう大丈夫だ。普通に証言は出来るだろう。とは言え、コイツ等は嘘をつく可能性が高いから、恐怖心と一緒に悪しき感情も奪っておいた。これで今まで行った悪事を自分自身が許せなくなり、なんでも素直に証言してくれる筈だ。ひとまずこれで安心だな。

 あっという間の出来事に、ムスティス公爵は感心したように俺を見る。「流石はオルギアン帝国のSランク冒険者のリーダーだ!」って俺を称えだしたりもする。マジで恥ずかしいから止めてくれ。

 その後、ムスティス公爵の邸でフレースヴェルグ討伐について話しをする。


「すぐに討伐したいと言っておったが、いつ頃を考えているのだ?」

「すぐだ。いけるなら明日にでも、だ。」

「そんな早くにか?!」

「無理か?」

「いや、出来んことはない。いや、明日は無理だ。明後日ではどうか?」

「じゃあ、それで頼む。」

「随分と急ぐんだな。」

「あぁ。ちょっと事情が変わってな。場所は何処になる?」

「前に言ってた、フレースヴェルグに供物を奉納する場所だ。取引があったルテフィエの街の東門から出て北へ行った場所にある。今ルテフィエの街や近隣の村や街にも調査隊が行っておってな。これまでの事を事情聴取しておるのだ。カータレット侯爵の糾弾は避けられないのでな、身柄を拘束させて貰った。まぁ、まだ調査段階だし貴族だから牢獄に入れる訳にはいかんが、領主不在との事で、管理者を代わりに据える事になったのだ。」

「へぇ。その管理者ってーー」

「私だ。」

「流石だな。王家の信頼も厚いムスティス公爵が適任なんだろうな。」

「王家も手を焼いていたみたいでな。政治には関わってはおらんが、催事等で集まりがある時でもカータレット侯爵は出席しないことが多くてな。それでは王家のメンツが立たないのだ。家臣に聞くと、カータレット侯爵は王家の廃止を企てていたようでな。クーデターを起こそうとしておったらしいのだ。」
 
「そうなのか?!」

「ゲルヴァイン王国と密に連絡を取っておったみたいでな。他の貴族とも秘密裏に情報を取り合っていたらしいのだ。」

「けどムスティス公爵は会って貰えなかったんだろ?」

「私は懐柔できぬと思ったのだろうな。自分の味方を増やすべく、金をばら蒔いていたみたいだがな。」

「その資金源が……」

「そうだ。人を拐い、他国に売り飛ばす事で収益を得ていたのだ。」

「とんでもねぇ野郎だな。」

「その証拠も出てくるだろう。金を受け取った貴族達は糾弾はしない。が、弱味は握らせてもらう。」

「流石だな!やっぱすげぇな!」

「いやいや……まぁそんなことで、あの領地は今、私の支配下にある。だからあの場所でフレースヴェルグを討伐するのは誰の許可もいらん。あとは兵達の準備と近隣に住む者達の避難だが、ちょうど調査隊がおるのでな。誘導は容易いだろう。」
 
「それは好都合だ。じゃあ頼めるか?」

「心得た。」


 俺達が介入した事で、不穏分子であるカータレット侯爵の糾弾が可能となった。これにムスティス公爵や王家からはいたく感謝され、それが今後に大きく影響する事となった。

 やっとだ。やっとアイツの討伐ができる!

 ここで俺が負けるわけにはいかねぇ。

 リュカの命は俺の手に掛かっている……!
 

 
 

 
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