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第4章
依頼
しおりを挟むリュカがリオと帝都に買い物に行った後、落ち込む俺をゾランは慰めてくれていた。
けど実は内緒で、リュカ達に護衛として付かせてるヤツがいる。それは土で作ったゴーレムだ。
けど街中でゴーレムなんか出現したら騒動になるから、幻術で普通の女の人に見えるように変化させておいた。勿論作りもデカくしねぇで、ヒトガタにした。
これで少しは安心できる。
ゾランの部屋でお茶を用意されて、付け合わせに置かれてあったマドレーヌを食べて思わず噎せた。
やべぇ、これミーシャが作ったマドレーヌだったか……!なんでこんなに不味く出来るんだ?!だからさっきからゾランは手を付けなかったのか!
って、ミーシャ、すっげえ見てる……!ひとくち食べた俺の様子を伺っている……!これ、全部口に入れないと、ミーシャが納得しなさそうだっ!
何とか残りを口に入れて、なるべく噛まずに飲み込むようにしてお茶をがぶ飲みする。すげぇな。ミーシャは不味い料理作りの天才だ。
そんな様子の俺を見て、ミーシャは嬉しそうだし、ゾランは凄いって顔をしていた。
「エリアスさん、その、大丈夫ですか?」
「あぁ……何とかな……」
「そうですか?なら良いんですが……あ、せっかくですので、少し仕事の話をしたいのですが、良いですか?」
「え?あぁ、良いぜ?」
俺がそう答えると、ミーシャはまだ愚図るテオを抱き上げて部屋を出て行った。
「で?なんだよ?」
「はい、エリアスさんに仕事の依頼が来ているんですよ。」
「そうなんだな。また他国からダンジョンを見つけろって依頼……じゃなさそうだな……」
「えぇ……依頼元は、ゲルヴァイン王国からです。」
「ん?ゲルヴァイン王国?そことは同盟結んでねぇだろ?」
「はい。シアレパス国の北側にある国ですが、ほぼ交流もありませんでした。昨年、人身売買の事件で少し関わった位ですね。輸入や輸出関係もありませんし、他の国とも同盟を結んでいる訳でもない状態みたいですね。」
「んな国から、なんの依頼なんだよ?」
「調査依頼です。」
「調査?なんの調査だ?」
「ここ最近、他国でダンジョンの捜索がされているでしょう?その殆どがエリアスさんが見付けた場所なんですが、それにより他国にあるダンジョンへ行く者が増えたようで、ゲルヴァイン王国の冒険者が減少してきているみたいなんですよ。そこでゲルヴァイン王国もダンジョン捜索に乗り出したらしいんです。」
「まぁ、そうだな。シアレパス国にもダンジョンを三つ見付けて、二つは現在解放させてあるからな。俺が介入したから、すぐにダンジョンとして機能したしな。で、その近隣の街や村はすげぇ事になってきてるらしいな。」
「そうですね。そのシアレパス国のダンジョンに冒険者が流れて行ってるんですよ。以前よりゲルヴァイン王国も調査隊に捜索をさせているらしいんですが、なかなか成果は上げられなかったようですね。」
「それで俺に依頼が来たのか?」
「いえ、そうではないんです……」
「じゃあ何なんだ?」
「ある場所へ調査へ行った者が帰って来なくなっているみたいなんですよ。もうかなりの人数を費やしているらしいのですが……兵達もそうですが、冒険者にも依頼として行かせたようなんですが、誰一人として帰って来ないそうなんです。」
「そうなのか?すげぇ魔物でもいんのかな?」
「その場所の調査の依頼が来ているんですよ。エリアスさん程の方なら大丈夫なんじゃないかって。」
「俺の事、知ってんのか?」
「今やエリアスさんはどこの国でも知られている程の有名人ですよ!まぁ、上層部に限りますが。」
「ふぅん……そうなんだな。……で、ゾランはどうするよ?ゲルヴァイン王国だろ?同盟国でもねぇし、俺はあの国にはあまり良い印象がねぇんだよなぁ……」
「そうですね。僕もです。奴隷制度はまだあって、それもかなり酷い扱いと聞きます。人身売買の取引なんかも、拐われた者だと知った上で売買していたようですし……」
「じゃ、断るか?」
「色々考えていたんです。今まで交流が無かったから知らない事が多くあって、これを気に知っていけばいいのか、シアレパス国を通して交流を持つようにすればいいのか、きっぱり断って遮断すればいいのか、ゲルヴァイン王国が有益な相手なのかどうなのかを考えていたんです。」
「珍しいな。ゾランがそんな事で悩むって。」
「そんな事はありませんよ!僕は常々悩みまくっているんです!自分の出した答えが本当に間違っていなかったのか、これで良かったのか……リドディルク様ならこんなふうにウジウジ悩むなんて無かったと思います。いつも凛としていて、決断も早く潔くて、率先して働いて優しくて格好良くて素敵で多彩で賢くて情に厚くて素晴らしくて背が高くて男らしくて凛々しくて気さくで優しくて賢くて女性に優しくて格好良くて凛々しくて」
「待て待て待て!分かったから!ったく、ディルクの事になると止まらねぇな。リスペクトするのにも程があんだろ?リオとテオの名前も、なんか語呂が似てるし、マジでディルクを好きだよな。」
「当然です!あんなに素晴らしい人はいませんでした!僕の憧れです!」
「分かった!もう分かったから!……で?どうすんだよ?」
「そうですね……」
「俺がムスティス公爵と話しをしてみようか?隣国なら知ってる事はあると思うしな。」
「良いですか?!」
「あぁ、ゾランより俺の方が交流はあるしな。それに、ムスティス公爵は俺の義父だしな。」
「そうでしたね。公表は出来ないでしょうが、そうなるんですね。」
「まぁな。明日ムスティス公爵と会う予定があるから、その時にでも聞いてみるよ。」
「ありがとうございます!」
「俺は依頼を受けても受けなくても、どっちでも良いんだ。決断はゾランに任せる。ま、明日の俺の報告を待っててくれ。」
「分かりました。お願い致します!」
ゲルヴァイン王国……俺は行った事はねぇな。去年人身売買の事件があった時、取引に来ていたゲルヴァイン王国の奴らはシアレパス国で裁判にかけられた。
その時ゲルヴァイン王国は、国は全く関与していないとし、判決は如何様にもとシアレパス国に丸投げしてきたらしい。
しかし、ソイツ等の思考を読むと、この事は王国ぐるみの犯行だった。ってことはあの国は、平気でそんな事ができて、平気で身内を切り捨てる事ができるって国なんだ。
あの国には関わらねぇ方が良いのかも知んねぇ。けどこれは俺の一存で決める事じゃねぇ。国同士の事だから、こういう事はゾランに任せるに限る。アイツなら上手く事を運んでくれるだろう。
それよりも今はリュカの事だ。
ゴーレムと感覚を共有する。今、スイーツの店に入って行ったか。窓から見えるリュカの様子は……楽しそうだな。
やっぱ女の子はスイーツが好きなんだな。今度一緒にお菓子でも作ってみようか。
作り方は……絶対にミーシャには聞けねぇな。
そんな感じで感覚共有してると、ミーシャがテオを連れてやって来た。テオが俺と遊んで欲しいみたいだったから、肩車したり高い高いって言いながら上に放り投げたりして遊んでいた。ミーシャとゾランはオロオロして俺を見ていたけど、テオはキャッキャッ言いながら笑っていた。
うん、大物になるよ、コイツは!
まぁ、リオとリュカは大丈夫、かな……
俺が心配し過ぎなんだろう。
あんまり過干渉すぎんのもダメなんだろうな。
あとはゴーレムに任せりゃいいか。アイツだけでも、軽くBランクくらいの魔物は倒せるからな。
子供を信用するってことも、大切な事かも知んねぇな。
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