慟哭の時

レクフル

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第六章

黒の石

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「アシュレイ……じゃあ、どうするんだ?黒の石は?」

「黒の石……実は、もうある場所が分かってるんだ。」

「え?!そうなのか?!白の石と一緒で、どこにあるか分からないって言ってなったか?」

「そうなんだけど……」

「どこにあるんだよ?」

「黒の石は……テネブレだ。」

「は?何?」

「テネブレ自身がそうだ。」

「闇の精霊のか?!」

「そうだ。」

「え?それ、どう言う事なんだ?」

「実際、私もどう言う事かは分からないんだけど、テネブレと重なった時に、短剣に石を嵌めた感覚とそっくりで、それで分かったんだ。」

「そうなのか……聞いても、どう言う事か分かんねぇけど……そうか……」

「テネブレを呼んで確認する事も出来るけど……」

「気になるところではあるけど、アイツ怖ぇからなぁー。」

「フフ……エリアス、テネブレが怖いんだ?」

「いや、俺、アイツに殺されかけてんだぜ?!」

「あぁ、そう言えばそうか……闇の力に弱いって言ってたし……フフ……そうか……」

「笑ってんなよ!……まぁ、気にせずに呼んで聞いても良いけどよぉ。」

「そうだな……この石がどう言う物なのか、知りたいってのもあるし……呼んでも良い?」

「……構わねぇよ?」

「テネブレ!」

「早えぇな!」


黒の光の粒が集まってきて、一つの闇を作り出すと、それはテネブレになっていった。


「アシュリー!また会えて嬉しいぞ!」

「テネブレ、聞きたい事がある。」

「何でも聞くが良い!」


短剣と白の石を取り出し、それをテネブレに見せる。


「この短剣に嵌まっている石だけど、この石は何なのか分かるか?」

「おぉ、久しぶりに会ったぞ!全て揃ったのは何年ぶりなのか!」

「会った?」

「セームルグ!」


テネブレがそう言うと、白の石が耀き出して、それが一人の精霊へと変わった。
その姿は凛々しく、全て見透かしているような瞳を持った、男とも女とも分からない、美しい姿をした精霊だった。


「テネブレ……久しぶりですね。」

「セームルグ!久しいな!またこうして会えて嬉しいぞ!」

「なんだっ?!これはどう言うことなんだ?この石は……?」

「この石は、精霊なのです。貴方達を守る為に、私達は姿を変えたのです。」

「それは……どう言うなんだ?!」

「もう何年も前の事なので、貴方達まで伝わらなかったのですね。分かりました。お話ししましょう。」


そう言うと、セームルグは静かに話し出した。
セームルグの声は透き通っていて、とても聞いていて心地良かった。








もう何年も、何十年も、何百年になるかも分からない位の昔


精霊界には多くの精霊達がいた。


その頂点に立つのが、精霊女王ユグドラシル。


彼女は穏やかな精霊で、大樹を司る、自然界全てに影響を及ぼす力を持った精霊だった。


そのユグドラシルが一人の人間の男と恋に落ちた。


精霊界と人間界が交わる歪みに、その人間が迷い込んだ事から、二人は出逢うこととなった。


しかし、人間界に帰りたがる男と離れる事が出来なかったユグドラシルは、精霊界を離れる事を決め、人間界へ行く事にしたのだ。


それを心配した精霊達が、ユグドラシルと共に人間界へ行く事に決めた。


そして精霊達は人間を守る為に、石へと姿を変えていった。






「石は……精霊が姿を変えた物だったのか……そして、銀髪の人達は……精霊と人間の子孫だったんだな……」

「えぇ、そうです。ユグドラシルは、それは美しい銀の髪をした、トネリコの大樹、世界樹を司っていた精霊でした。私達は彼女が大好きだったのです。人間界へ行くと決めたユグドラシルを、一人で行かせたくはなかったのです。」

「それで……石に……?」

「初めは違いました。そのままの姿でユグドラシルと、その子供達を見守っていたのです。しかし人間との子である為、ユグドラシル以外は私達が見えなかったのです。そして、精霊の子であってもその子達を守るには、よっぽど適正がない限り何か媒体がないと、私達は体に入る事が出来なかったのです。」

「ユグドラシルと一緒になった男には見えてたんじゃねぇのか?」

「精霊界では見えても、人間界では見えなかった様です。稀に見える子もいましたが、殆どの子達は、私達のことは分かりません。」

「そうだったんだな……」

「この短剣や、他にも村には宝があったけど、それは……?」

「ユグドラシルが作り出した物です。子供達には、普通の人間にはない力を持って産まれて来ることが多く、それを何とかしようとして作り出した物です。」

「そうだったのか……」

「今、貴方の中には、5人の精霊が宿っています。それは、契約等ではなく、貴方と一つになっているのです。」

「私の中に……5人も……」

「こんなに一つの体に取り入れられた事は、今まで無かった事です。」

「でもセームルグは……私には無理だった……」

「えぇ、……今の貴方では……いえ、貴方以外に適した人がいる様です。」

「我であれば、石にならずともアシュリーと一つになれるぞ!?ハハハハハっ!」

「もしテネブレが石になったら……私の中に、ずっとテネブレが居続けるって事に?」

「そうだ!我はそれでも構わぬ!隅から隅までアシュリーを愛してやろうぞ!」

「……でもそうなると……私は前の様に姿が変わってしまうのだろうか……?」

「テネブレの力を上手く使えれば問題無いとは思いますが……今までテネブレは、誰にも見向きもしなかったので、存分に力を解放したいのでしょう。」

「そうだったのか……」

「アシュリー以外は目に入らぬ。我はお前と交われればそれで良いのだ!」


テネブレはそう言うと光の粒になって、それが一つに小さくなって黒い石になった。


「あ……」

「こんな簡単に石になるんだな。」

「他の石に宿った精霊達も、名前を呼べば出て来てくれる筈ですよ。しかし、その石でいる時、眠らない私達は眠れているのです。それが何とも心地良いのです。滅多に自分で出ては来ないと思いますよ?」

「そう言うものなんだな……」

「ところで、そのユグドラシルってのは、今どうしてんだよ?」

「精霊は人間よりも長生きします。愛した人間の男が亡くなった後、精霊界へ帰りました。」

「え?!そうなのか?じゃあ、なんでアンタ達は残っているんだよ?!」

「言ったでしょう?この石であるのは、何とも心地が良いと。人と交われる事も、実体を持てて素晴らしい感覚を得られるのです。それに、子供達と関わっていると、やはりその後が心配でもあります。なので、彼女の代わりに見守る事にしたのです。」


そう言い残して、セームルグも光出すと、石に変わっていた。

私は石になったテネブレを手に取った。

すると、短剣に嵌めた訳でもないのに、石が黒く光り出して、私の中に吸い込まれるように一つになっていく……

身体中に広がる、あの感覚……

テネブレが私の中を這うような感覚が……凄く……快感で……



「……ん……あ……テネブ、レ……待っ……」

「アシュレイ!?」


身体中に行き渡った感覚がなくなって行くと、私の姿は変わった様だった。

とても体がスッキリしている。

力も漲っている。


「アシュレイ?……大丈夫か……?」

「エリアス?……心配そうな顔をして……」

「え、アシュレイ……?」


エリアスに近づいて、頬に手を添える。
何だかエリアスが困っている様で、それが楽しくなってきた。


「どうした?何が心配?」

「あ、いや、体とか……問題ないかなって……」

「フフ……変に見えてる?私、どこか可笑しい?」


そう言って、エリアスの首に手を回す。


「何やって……アシュレイっ!」

「なに?エリアス?」

「……っ!」

「どうした?何を考えてる?」


エリアスの顔を、微笑みながら下から見上げる様にして聞いてみる。

エリアスは私の頬に手を添えてくる。


「アシュレイ……俺……アシュレイの事が……」

「……エリアス?」

「……くそっ……!やっぱダメだっ!テネブレっ!」


名前を呼ばれたテネブレがそれに反応して、私の中からゴッソリ抜けて行った。
足元には黒い石が転がっていた。

また膝が崩れそうになったのを、エリアスはしっかり腰を支えてくれた。
私も倒れない様に、つい首に回した手に力を入れてしまう。


「アシュレイ……あぁ、良かった……ヤバかった……!」

「エリアス……あ、ごめん……」

「いや……分かってるっ!でも……俺にも我慢に限界があんだよっ……」

「え?!どうしよう?!怒ったよね?どう謝ったら……」

「怒るとかの我慢じゃねぇからっ……」


キツくエリアスが私を抱き締める……


「頼むから……俺を誘惑しないでくれ……」

「え……そんなつもりじゃ……」

「分かってる……っ」

「エリアス……そんなにキツくしたら……苦しい……」

「……すまねぇ……」


エリアスがそっと私を離した。

それから、足元に転がった石を拾った。


「とんでもねぇな……」

「この石を使うのは……やっぱり怖い……」

「そうだな。滅多な事じゃ使えねぇな。」

「うん……テネブレ……」


私が名前を呼ぶと、黒の石は再びテネブレへと戻った。


「アシュリー!何故我を受け入れぬ?」

「今はまだ……その時じゃなさそうだから……また力を貸りる時が来たら、その時は頼む。」

「仕方がない。またいつでも呼ぶが良い!ではな!」


黒の光の粒になって、テネブレが消えて行った。

テネブレが去った後は、ちょっと気まずいエリアスと二人きりになった……








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