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第七章
発音が難しかった
しおりを挟む甲板に出て、少し風にあたる。
ウルはさっき寝ていたので、あまり眠くないみたいだ。
夜の海を眺めながら、ウルに少しずつエリアスの事を話す。
エリアスが奴隷になったのは、孤児院で酷い扱いをうけて、逃げ出したところで盗賊に捕まって売られて奴隷になって、そこを逃げた訳じゃなくて魔眼に目覚めて怖がられて捨てられた事、それからは一人で生活してきた事を話した。
その後冒険者となって実績を積み、今はオルギアン帝国のSランク冒険者だと教えた。
母親を殺したって言うのも、まだ物心つく前の、歩くことも出来なかった位の幼かった時に、客として来ていた私と離れるのが嫌で、訳も分からずに炎で母親を焼き殺してしまったと話していた事を伝える。
私達異能の力を持つ者は、幼い頃はその力の制御が難しく、家族や自分自身も力の犠牲になって息絶えてしまうこともあると話した。
エリアスもまだ自分の事も能力も分からない時の事で、そのこと自体何も覚えて無かったようだけど、それを知ってからは自分を責めているんだと……
ウルは何も言わずに私の話を聞いていて、少ししてから下を向いたまま「分かった。」と、一言呟いた。
それから、私の記憶が無くなってしまって、何処かに行ってしまった私をエリアスがずっと探し続けてくれていた事を話すと、ウルが涙を流しだした。
「え……ウル、どうしたんだ?なんか変な事、言ったかな……?」
「アタシ……なんも知らんと……ごめん……!」
「知らないのは当然だ。私もエリアスが探しに来てくれた時は、全然信用出来なくて……最初は凄く素っ気ない態度をとってしまったんだ。孤児院に遊びに行って、私の後をついてきたエリアスが、そこにいた逃亡奴隷の子供の代わりに自分がそうだと言って捕まって拷問を受けて……何とか助けられたけど、だからシアレパス国では、一部の人にエリアスが逃亡奴隷だと思われてるんだ。」
「そやったんやな……」
「リフレイム島は罪人が奴隷になるみたいだけど、他の国ではそうじゃない事が多いんだ。奴隷だとしても何の罪もない人や子供もいる。それを分かって欲しいかな……」
「うん……分かった……」
「ありがとう。ウル……寒くなってきたね。部屋に戻ろうか?」
「うん。」
「あ、それと……エリアスはベッドでそのまま寝かせてあげたいんだ。夜、少し気になるかも知れないけど……」
「え?あぁ、寝言がうるさいってヤツやな。」
「……まぁ……うん……」
「それくらいどうって事ないわ。」
「……うん。」
部屋に戻って、エリアスの様子を見る。
まだ眠っていて、そっと髪を撫でると、その手を取ってエリアスがゆっくり目を覚ました。
「エリアス、ごめん。起こしちゃった……」
「……ん……あぁ……大丈夫だ……楽になってきたし……」
「無理しないで……?」
「心配性だな……大丈夫だって。」
そう言うとエリアスが私の手を引っ張ってきた。
体制を崩して、エリアスの胸に飛び込む感じになる。
エリアスは私を下に寝かせて覆い被さるようにして、それから口づけてきた。
「ん……エリ、アス……待っ……」
「待てねぇ……」
激しく口づけを繰り返して、私になにも言わせないようにする。
エリアスの事しか考えられなくなりそうで、このまま身を委ねてしまいそうになる……
でも……!
「待って……!ウルが……っ!」
「あ……」
後ろを見ると、ウルが私達をジーっと見ていた。
「すまねぇ……」
「邪魔して悪かったな……」
「ウル、そうじゃない……!」
すぐに起きて、ベッドから出る。
エリアスも起きて、そのまま部屋から出て行こうとする。
「エリアス、どこに行くの……?」
「え?あぁ、今から寝るんだろ?俺は外で寝るから。」
「え?いいやん、一緒に寝たら。寝言位気にせぇへんで?」
「またアシュレイに襲いかかるかも知んねぇしな。今まで寝てたし、ちょっと晩飯も食いてぇし。」
「エリアス……」
エリアスは微笑んで、手をヒラヒラさせて出ていった。
寝る用意をすると、ウルが今日も一緒に寝たい、と言ってくる。
二段ベッドの下で、ウルと一緒に布団に入る。
ウルと少し話をして、それからウルが少しずつウトウトしてきて、静かに寝息をたてだした。
しばらくウルの髪を撫でていて、完全に寝入ったのを確認してからそっとベッドを出る。
部屋を出て、エリアスを探しに行く。
甲板に出ると夜風が冷たくて、装備類を全て外して軽装になった身に風が突き刺さるように感じる。
上衣を持ってくれば良かった……と思いながら甲板のベンチを見ると、エリアスがそこにいた。
急いで行くと、ベンチに座ったエリアスは、やっぱり痛みに耐えていたところだった。
横に座って、体を支える様にして抱き締めると、エリアスはニッコリ微笑んだ。
寒そうにしている私を見て、外套を私にも被せてくれる。
エリアスの体温を確認しながら、いつものように体を冷したりしながら寄り添うようにして……
気づくとそのまま眠ってしまっていた。
「姉ちゃ……」
ウルの声が微かに聞こえて目を覚ますと朝日が昇って来た頃で、ウルが目の前に佇んでいた。
私の横にはエリアスがいて、私達はお互いを支え合う様にして寄り添って眠っていたようだ。
「あ……ウル……」
「そんなにアタシと寝るの、嫌やったん?そんなにエリアスと一緒が良かったん……?」
「え?あ、いや、そうじゃなくて……」
「嫌やったら嫌って言うたらええやんか!」
「違っ……!ウル!」
ウルが走って行く……!
ウルと寝るのが嫌とか、そうじゃないのに!
「ん……アシュレイ……どうした……?」
「あ、えっと……ウルが……私とエリアスがここにいるのを見て……怒っちゃったんだ……」
「そっか……アシュレイ、そのまま寝ちまったんだな……悪かったな……」
「エリアスは悪くないんだって!私が寝てしまったから……!」
「もう夜に俺の所に来なくて大丈夫だから。ウルの側にいてやってくれねぇか?きっとウルは不安なんだ。自分の事を一番に思ってくれる人がいて欲しいって思ってんだよ。」
「でも……」
「俺は大丈夫だ。ありがとな……俺もアシュレイに甘えちまってたな。」
「そんな事……!」
「ほら、早く行ってやれって。きっとアシュレイが来てくれるの、待ってる筈だから。自分への愛情を確かめてぇんだよ。」
「うん……分かった……」
エリアスに言われて、すぐに部屋へ戻る。
ウルは昨日と同じ様に二段ベッドの下で布団にくるまっていた。
布団を退けようとするけど、ウルに妨害されていて退けられない。
横に添うように寝て、布団にくるまったままのウルを抱き締めた。
「ウル……ごめん……ウルと寝るのが嫌とかじゃないんだ。エリアスの事が心配だったから様子を見に行って、ついそのまま寝てしまったんだ。」
「……………」
布団がモゾモゾと動きだして、ウルが顔をゆっくりと出す。
でも、私と目を合わせなくて、ちょっとモジモジしている感じになっている。
私も布団の中に入って、ウルを胸に抱き寄せる。
「姉ちゃ……アタシの事……嫌いじゃない?」
「嫌いな訳ないじゃないか。」
「ホンマに?」
「うん。ホンマに。」
「フフ……姉ちゃ、発音可笑しいで?」
「そう?なかなか難しいんだな。」
「……怒ってごめん……」
「ううん……ウルは何でもちゃんと言ってくれるから、分かりやすくて助かる。一緒に旅をするんだから、ちゃんと分かり合って行こう?」
「うん……」
「ウルの事も大切だから……」
「姉ちゃ……ありがと……」
ウルとやっと目が合って、二人で見つめ合って微笑んだ。
それから、まだ起きるのは早いかなって言い合って、二人で布団にくるまって寄り添うようにする。
少ししてエリアスも戻ってきて、私達を見ると微笑んで、それから一人ベッドに横たわる。
そうやって三人で部屋で、もう一度ゆっくり眠りについていったんだ。
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