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やっぱりそうだ
しおりを挟むオルギアン帝国からロヴァダ国まではかなり遠い。それを時間短縮で行ける転送陣は、今や無くてはならないものだ。
とはいえ、ロヴァダ国にはまだ転送陣の設置は出来ていないし、簡単に設置はしない予定だ。内政を取り仕切る事になったとはいえ、まだ国内の情勢がどうなっているのかも分からないだろうし、危険分子がいる可能性もあるからな。
とにかく俺の支配下に置いてる奴等が多いとはいえ、慎重に事を進めていく必要があるって事だな。
オルギアン帝国からの出向者は、シアレパス国の国境沿いにある街まで転送陣でやって来て、それからロヴァダ国まで馬車で移動する事になっている。道中、街や村が無ければ野宿となるが、こういう事に慣れている者達も動向させているみたいなので問題はなさそうだ。
この国は魔物が出たりもするけど、それにも対応できる者としてルディウスを選んだ、とジョルディから聞いた。なんでも魔力も多く、魔法や武力にも長けてるんだそうだ。
やっぱルディウスはディルクじゃねぇかな。その可能性は大いにある。今度手合わせでもしようか。前はよくそうやってディルクと手合わせをしたもんだ。ディルクは剣筋も良いし、何よりセンスが良い。ディルクとの打ち合いは手加減無しで本気になれたから楽しかった。
そうだな、剣筋を見たら分かるかも知んねぇな。人の癖ってのは、そうそう変わるもんじゃねぇ。まぁそれは、前世を覚えてる事が大前提だけどな。
アシュリーが覚えてるって事は、ディルクも覚えてるんじゃねぇかな。そうでなくとも、アシュリーから色々聞いてるかもだしな。
俺はオルギアン帝国の出向者とは別行動をとっているけど、ちょくちょく様子を見に行くつもりだ。何かあっても困るから、透明化させた小さなゴーレムを動向させている。アシュリーと同じ感じのゴーレムだ。
けどこのゴーレムには、魔物を察知したら俺に分かるようにしておいた。それと音を感知する能力も付与した。あまり小さいと能力を付与すんのに大変なんだけど、情報共有ってのは必要だと思ったからな。
ロヴァダ国には頻繁に魔物が出る。まだどのランクの魔物が出るか把握してねぇから、もしランクの高い魔物が出たらすぐに助けに行けるようにそうした。
魔物に襲わないようにここら一帯を制御することは可能だけど、ここを軍事力強化として使う、となると、無闇に大人しくさせるのもどうかと思ってそのままにしている。
俺が魔物を抑えつけたから、この世界の魔法や武力を大きく衰退させる事となった。良かれ思ってやった事だが、こうなった事には責任を感じている。なんでもやり過ぎは良くねぇって事だよな。
で、ゴーレムは今は料理人の馬車の中にいる。上手く潜り込めたようだな。これで様子を問題なく見れるようになるな。
出向者を気にしつつ、俺は各地を統治している貴族の元へ行き、支配下に置く作業をする。出向者が王都に到着するまで、なるべく不穏分子を無くしておきたいからな。
そうやって各地へ周り、時々オルギアン帝国の奴等を確認して、それから王都の様子を見てから王城へも行って、バルタザール達の様子も見る。合間を縫ってアスターとして行商もして、今日も一日が終わった。
時々見たけど、やっぱルディウスはすげぇな。出合う魔物を瞬時に倒す。魔法も詠唱無しだ。結界も強力なのが張れるし、アイツが選ばれたのは納得できる。
ルディウスはディルクだ。
確証はねぇ。けど分かる。ほぼ間違いない。間違ってる訳はない。多分そうだ。そうだと思う。そうだよなぁ?
あれ? 段々自信が無くなってきた……
いや、きっとそうな筈! まぁ、話したり手合わせしたらもっとそうだと実感できるとは思うけどな。
家で晩飯食って、それから風呂に入って落ち着いた頃、ふと気になってルディウスの様子を見る事にする。
今は食事が終わって、焚き火の前に数人座ってお茶でも飲んでるんだな。貴族とかだからテントもしっかりしたやつだし、テーブルとかもちゃんと設置されてる。けど、こうやって焚き火を囲むようにして座ってしまうっての、分かるなぁ。そうしたくなるよな。
火の前で色々話し合ったりとかしたくなるもんな。
「ここはやはり魔物が凄いな。ルディウスがいてくれて良かった」
「いや、護衛をしてくれる兵隊長様がいてくれてるお陰で安心して力を発揮できてるからな」
「兵隊長様とか言うなよ! 従兄同士だろ? で、ルディウスはこうやって出向する事になって大丈夫なのか?」
「ん? なにがだ?」
「知ってんだぞ? 女を囲ってるってな!」
「え!? ルディウス様、そうなのですか?!」
「そうよ、モテる癖に今まで浮いた話一つ無かったからな!」
「いや、それは……」
「友人として受け入れてるらしいが、噂は何処からともなく回ってくるもんさ。すっげぇ美人らしいな!」
「そう言えば友人が怪我をしたから面倒を見ているって言ってましたね。それ、男の人じゃなかったんですか?」
「そうやって隠してるんだろ? 誰にも取られないようにさ。なぁ?」
「……そうだな」
「お?! 認めたぞ!」
「どんな人だろう?! 気になります!」
「おい、どんな子なんだ? 教えろよ!」
「……彼女は……とてもひたむきな人で……優しく暖かい人だ。そこにいるだけで心が救われると言うか……つい傍に置きたくなる。もう手離す事は出来ないな」
「……ルディウスの口からそんな言葉が聞けるなんて……信じられないな……」
「本当に……僕、ルディウス様は女性に興味が無いのだと思っておりました……」
そんな会話が聞こえてきて、思わず俺は固まってしまった。それはやっぱりアシュリーの事だよな? やっぱ、ディルクは今もアシュリーだけなんだな……
アイツの言ってる事は痛いほど分かる。そうだ、アシュリーはそんな人なんだ。誰にでも優しくて素直で笑顔が可愛いくて賢くて情に脆くて綺麗で優しくて声が美しくて泣いた顔も可愛くていい香りがして髪も綺麗で指も長くて爪も綺麗な形で怒った顔も可愛くて足も長くて優しくてちょっと天然でよく泣いて可愛くて……
あ、そうやって考えてたら止まらなくなっちまうな。
そうか……ディルクは今も変わらず……なんだな……
アシュリーの事を言っている時のディルクの顔は穏やかで、愛しい人を想っての表情だってのが分かる。
そうか。やっぱりそうだよな。
ルディウスはディルクなんだよな。
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