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複雑な気持ち
しおりを挟むアベルの告白が嬉しくて、けど立場的には簡単に受け入れたらアカンって思ったりして、なんかあたしはすっごい複雑な気持ちの状態やった。
アベルはいつも初めて会った大衆居酒屋で夜は食事を摂って、その近くの宿屋に泊まっていて、朝はその宿屋の一階の食堂で朝食を摂る。
日中はギルドで依頼を受けるらしく、一人で簡単な薬草採取の依頼か、パーティーに臨時要員として加入して依頼を受けている。
って事で、もし用があれば朝に宿屋まで行けばアベルと会う事が出来る。
そうやってアベルは、自分の行動をあたしに分かるように言ってくれている。
いつでも会いに来てくれて良いし、依頼を受ける前やったら仕事はいつでも休めるとも言ってくれている。
すごくあたしに都合よく合わせてくれていて、なんか申し訳なく思ってしまう。
けど、それが私にはむっちゃ助かってて、あたしにはちゃんとした仕事がある訳じゃないけど、だからと言って毎日外出する訳にもいかへんから、様子を見ながら出れそうな時に外出してる。
ジョルディに、
「最近よく外出なさるんですね」
って笑いながら言われた時は、
「あ、えっと、そうかなぁ?」
って、笑って誤魔化すしか出来ひんかった。むっちゃドキドキしながらやけどな。
こっそり抜け出した事も何度もあるけど、帰ったら大事になってる事があって、それ以来仕方なく護衛を連れて外出する事にしてる。
でも、毎回護衛を撒くと外出とか出来んようになるかも知れんし、だから三回に一回位の割合で撒くようにしてる。
って事で、あたしは週に二、三回帝都に出てきてて、で、アベルに会えるのは週に一度会えたら良い方って感じになってる。
会いたいのになかなか会われへん。
これってめっちゃもどかしくって、だから余計に会いたい気持ちが募っていく。
で、今日も朝から帝都に行って、何とか護衛を撒いてアベルの元へ行った。けど、宿屋には既にアベルはいなくって、あたしは急いでギルドまで走っていった。
すると、ギルドからアベルとパーティーと思われるメンバーが出てきた。
「あ、ウル!」
「アベル……今から仕事?」
「うん、ごめん、依頼受けてもうた!」
「そっか……それはしゃあないわ……」
「うわー! むっちゃ残念やー!」
「あたしがもうちょっと来るの早かったら……ごめん……」
「謝まらんといてーや! あ、ほな夜一緒にご飯食べよう! アカン?」
「うん……今日は難しいかな……あ、あたしアベルに渡したい物あってん!」
「え! なに?!」
あたしはアベルにピンクの石の首飾りを渡した。アベルは不思議そうな顔をする。
「あ、それな……」
「おい! アベル! 早く来いよ!」
「あぁ! 分かってるって! ごめん、ウル、もう行かな……」
「分かった。 あ、そのピンクの石が光ったら握ってな!」
「あ、うん……分かった!」
パーティーメンバーに急かされて、アベルは名残惜しそうにあたしを見て手を振って走って行った。
その姿を見てなんか胸がキュンってする。そうか、これが胸キュンってやつなんか! あたしもちゃんと女の子やん。久々なこの感覚がくすぐったくて、なんか嬉しい。
デートは出来ひんくて残念やったけど、ピンクの石の首飾りを渡せた事であたしは一安心した。
あの石は対になってて、もう一つはあたしが持っている。相手を思って握ると、もう片方の石が光る。で、光った石を相手を思って握ると、その相手と会話が出来るってヤツやねん。
離れてる相手と話をしたい場合、魔石を埋め込んだ魔道具が開発されて、現在それは可能となってきている。
けれど、それはまだ一般的に持つには至らなくて、今は転送陣みたいな感じで村や街に設置してあって、緊急時のみ使えるといった感じになっている。個人的に使えるようになるには、まだ量産出来へんし値段も高いしで、普及するのに時間がかかると思う。
けど、ゆくゆくは皆が誰とでも話せる時代が来ると思う。はやくそんな時代が来たら良いって思うんやけどな。
で、このピンクの石は昔からあって、希少でなかなか手に入らへん。だから手に入ったら確保するようにあちこちの商人には言ってて、それがこの前やっと手に入ってん。
この石を手に入れるのに三年程かかった。確保だけして、手に入れたら必要と思う人に譲るつもりやったけど、まさかあたしが必要になるとは思わへんかった。
アベルに少しでも会えたのとピンクの石の首飾りを渡せたのとでちょっと機嫌が良くなったあたしは、ブラブラと帝都を歩いてわざと護衛に見つかるようにしてた。すると、あちこちバタバタ走ってあたしを探してた護衛に見つかった。
「もう、本当に勘弁してくださいよー!」
って、泣きそうになりながら訴えてくる護衛のリーダーに、それに反論する事なく
「ごめんごめん、悪かった」
って素直に謝って帝城に帰る。
自室に戻ってからあたしは一人で、いつピンクの石を握ろうかとドキドキしながらその機会を伺っていた。
今はもうお昼頃……って事は、お昼休憩してるかもしれへん。握ってみようか。でも、パーティーメンバーと一緒にいるから、今はやめといた方が良いかも知れへん……
そんな事を一頻り考えて悩んで、扉をノックして給仕係が部屋に昼食を持って来た時も、あたしはそんな事一つにビックリして、なんか変に一人で緊張してた。
これが恋ってヤツなんかな……
久し振りすぎて分からへん……
胸元にしてたピンクの石の首飾りを外してテーブルに置いて、チラチラそれを見ながら食事を摂る。もしかしたらアベルが握るかも知れへん。そう思って、いつ石が光っても見逃さないように注視してしまう。
石から目を離す事が出来ひんくて、料理人が腕を振るって作った料理も味わう事が出来んかった。なんか申し訳ない……
けどずっと石は光らなくて、まぁそれは仕方のない事なんやろうけど、今は戦ってるのかな、とか、移動中かな、とか、もう帰ってきてるかな、とか、そんな事をいっぱい想像して、いつこのピンクの石を握ろうかと、今日はそればっかり考えてしまってた。
陽が暮れて空に星が輝きだして、窓から帝都のある方向を見ながら、あたしは勇気を振り絞って石を握ってみた。
暫く握ってて、けどアベルの声が聞こえへん……
これは声に出して喋らんくても、頭の中だけで会話が出来る。だからあたしはアベルの名前を何度も頭の中で思い呼び掛ける。
けどアベルからの返事はなくて、残念な気持ちになって石から手を離した時、石が急に光だした。
慌てて石を握ってアベルを呼ぶ。
「アベル!」
『えっ?! ウル、か?!』
「うん!」
『なんで?! なんでウルの声が聞こえんねん!』
「あ、あの時ちゃんと言えてなかったけど、この石は対になっててな? お互いを思って握ると会話が出来るねん! 声に出さんくても聞こえるねんで!」
『ホンマか?! スゴいな、これ!』
「良かった。ちゃんと話せて」
『ありがとう。俺、ウルの声が聞けてむっちゃ嬉しい』
「うん……あたしも嬉しい……」
『なぁ……今から会われへんかな……』
「それは……無理、やけど……」
『そうか……会いたかったな……』
「うん……ごめん……」
『謝らんでもええって。あ、明日は? 明日は会えるか?』
「明日は……分かった。何とかしてみる」
『ホンマか! ほな明日デートしよう! どっかで待ち合わせするか?』
「え!? あ、ううん! あたしがアベルの部屋に迎えに行く!」
『そうか……分かった。ほな明日な!』
「うん! 行く前にまたピンクの石で連絡する!」
『あぁ、待ってる!』
名残惜しそうにピンクの石を離す。
やっぱりこの石渡せて良かった。
明日はアベルとデート……どんな服来ていこうかな。髪型はどうしよう? どこに行くんやろう? あ、その前に外出する事、また言わなアカンな……
護衛には申し訳ないから、ホンマに一人にしてって頼んでみようかな。一回ダメ元で言ってみよう。
明日会えるって思うだけで、こんなに嬉しくなってドキドキするんやな……
あ、今日はちゃんとお風呂で全身マッサージして貰おう。それからパックして取って置きの美容液つけて寝よう。
早く明日にならへんかな……
早くアベルに会いたい……
応援ありがとうございます!
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