慟哭の先に

レクフル

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不死で無くすには

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 エリアスは不老不死だ。

 それは、エリアスの体にアタナシアと言う精霊が宿っているからだ。

 アタナシアは命に宿る事でしか生きていけない精霊。そして、その宿る存在は強靭でなければならない。

 その精霊を、アタナシアを別の命に宿す事ができればエリアスは元の状態に戻れる。と、セームルグは言った。だけどどうしたら良いんだろう? 他の命に宿らせるって……しかもエリアスと同様の強さを持つ存在にって、それは殆ど無理なんじゃないだろうか?

 そんな事を考える。だけどどうにかしたい。

 私はエリアスを助ける為に生まれてきた。それはエリアスの魂を奪って天に還すという事だ。
 だから私の左手は、触れると人の魂を奪ってしまうという能力を得たのだ。

 だけど私はエリアスの命を奪う事が出来ない。したくない。そんなの嫌だ。

 エリアスが処刑される場面を見てしまってから、私は時々夢にうなされた。
 
 首を斧で切断され、エリアスはそのまま動かなくなってしまう。私はその首を胸に抱いて、泣きながら何度もエリアスの名を呼んで生き返る事を熱望する。

 そんな夢を何度も見て、その度に真夜中飛び起きてエリアスの存在を確認して、夢であった事に安堵しながらまた眠りにつく。
 今でも時々そんな夢を見る。それは怖くって悲しくって、夢の中で夢だと気づいても涙は止まらなくて……

 私のお腹には新たな命が芽生えている。

 知った時は勿論嬉しかったし、リュカに兄妹を与えてあげられる事を本当に良かったと思えた。
 こうやって私たちは求めて止まなかった生活を得る事が出来ている。それは愛する人と共に生きていくという事だ。
 
 特別な事なんて何もなくて良い。ただ普通に生活してゆけたらそれで良い。

 その普通である、という事を、今度は求めてしまう。

 共に子供達の成長を見届け、共に老いてゆく。そんな夢を見てしまう。
 だけどこのままじゃ、またエリアスは一人で私と子供達を見送る事になる。
 エリアスは何も言わない。先の事を考えるより、目の前の事を考えようって言ってくれている。
 
 だけど……

 そんな私の気持ちを分かってか、セームルグは私にエリアスが不老不死で無くなる方法を教えてくれたのだ。

 
「エリアスは……どうしてそんなに強くなっちゃったの……?」


 つい口から溢れてしまった私の小さな独り言を聞き付けて、エリアスは必死で野菜を千切ってるリュカを抱き上げて私の元まで来てくれた。


「どうした? アシュリー?」

「ううん……なんでもないよ?」

「そうか?」


 ソファーの前で屈み込んで私の顔を優しく撫でてエリアスは気遣ってくれる。それを見たリュカも、千切った野菜の欠片が手にいっぱいついた状態で私の顔を撫で回してくる。


「リュカ……野菜が……顔に……」

「ハハハ、リュカも心配してんだよ。な?」

「なー」

「ふふ……ありがとね、リュカ」

「もう少し待っててくれな? それか何か食べたい物とかあるか?」

「ううん。あ、リュカの作ったサラダが食べたいかな?」

「しゃぁだ! ちゅくゆ!」

「サラダ作るってよ。じゃリュカ、急いで作ろうな」

「あい!」


 そう言ってまた二人で料理を作り出す。こうしてその様子を眺めてるのが幸せで、なんか涙が出そうになる。可笑しいな。悲しくもないのに涙って出るんだね……妊娠したからか、情緒不安定になっているのかも……

 エリアスが強くなったのは、リュカや他の人を守る為だ。誰かに力を誇示する為にそうなった訳じゃない。
 そしてエリアスが不老不死になったのはリュカの命を守る為。そうやっていつもエリアスは自分以外の人の為に尽くしてきた。

 そんなエリアスに幸せだったと思わせる最後を贈ってあげたい。それにはどうすれば良いのか……

 アタナシアは精霊……精霊は……精霊に宿れる?

 どうなんだろう? 分からない。けどエリアスと同様の強さを持つ者の存在。それはもう人では無理な話で、魔物を不老不死にはしたくないし、エリアスより強い魔物は多分存在しないと思うし……

 じゃあ精霊は? 

 考える。もしかしたら……って思うけれど、今はリュカがいるから確認する事は出来ないので我慢する。

 エリアスとリュカが昼食を用意してくれて、それを皆で食べる。リュカの作ったサラダは大量にあって、野菜を千切るのが楽しくていっぱい千切ったんだなと思うと、思わず笑みが溢れてしまう。
 サラダを口にすると、リュカが嬉しそうに私を見た。


「かぁたん、おいちぃ? しゃぁだ、おいちぃ?」

「美味しいよ。リュカの作ったサラダ、すっごく美味しい」

「良かったな、リュカ」

「うん! リュカもたべゆ!」

「そうだぞ? いっぱい食べて大きくならないとな」

「うん!」


 小さな子は野菜はあまり食べないものだけど、リュカは今日は自分が作ったって事もあってサラダをバクバク食べていた。と言っても、野菜をひたすら千切っていただけだけど。
 その様子をエリアスは嬉しそうに見ながら「凄いぞ!」ってリュカの頭を撫でていた。

 あまり多くは食べれなかったけど、無理はしなくていいって言ってくれたエリアスの言葉に甘える事にする。そのかわり、エリアスがリュカの作った大量のサラダを平らげていた。

 食事が終わって少ししてからリュカはお昼寝をする。寝室でリュカを寝かしつけてから、エリアスは私の元へ戻ってきた。そしてソファーに座って、私を抱き寄せる。


「なんか思う事とかあるのか?」

「え?」

「言いたい事があるようだったから」

「よく分かったね?」

「誰よりもアシュリーを見てるし、誰よりもアシュリーの事を分かりたいって思ってるからな。で、どうした?」

「うん……えっとね? 前にセームルグに聞いたんだ。エリアスが不老不死で無くなる方法……」

「精霊アタナシアを誰かに宿すってのか?」

「うん……」

「けどそれは無理じゃねぇかな……俺と同様か俺より強い奴じゃねぇと無理だと思うぞ?」

「私もそれをずっと考えてた。エリアスより強い人も魔物もいないって。でも人や魔物じゃなかったら?」

「邪神とか……か?」

「ううん……精霊、とか?」

「精霊……? そう、か……精霊か……!」

「エリアスより多分強い精霊。私は知っている」

「あぁ。俺も知ってるぞ!」

「「テネブレ!」」


 同時にその名を口にして、顔を合わせて「ふふ……」って笑い合った。
 そうだ。私に宿る闇の精霊テネブレはとても強い。その昔、女神アフラテスはテネブレの事を、精霊王にもなれる程の力を持つ精霊だと言っていた。

 だけどテネブレと相性が良いのは私とリュカだけで、今まで他の人に宿る事すら無かったと言っていたのを覚えている。

 強くワガママで気まぐれで、そしてプライドの高い闇の精霊テネブレ……

 前世でエリアスに初めて会った日、エリアスはテネブレに殺されかけた。だからエリアスはテネブレに苦手意識を持っている。


「けど精霊が精霊を宿す事は出来るのかな……まずはそこから聞いてみないと……」

「そうだよな。しかしもしそうできたとしても、テネブレが俺に力を貸してくれるとは考えにくいよなぁ? 俺、多分テネブレに嫌われてると思うからなぁ」

「嫌ってはいないんじゃないかな?」

「いや、多分嫌ってると思うぞ? なんなら嫌われてる事に自信がある!」

「そんな自信はいらないんだけど……とりあえず聞いてみようか。テネブレ!」

「だから呼び出すの早ぇって!」


 私がテネブレの名を呼ぶと、私の体から黒の粒子が出てきて、それが一つの形となりテネブレへと姿を変えた。

 闇の精霊テネブレ……

 真っ黒な影のような姿に目が怪しく光っていて、それが異様な雰囲気をより一層際立たせる。テネブレは私を見ると嬉しそうに笑って、私に這うように近づいてくる。
 そして隣にいるエリアスの顔を間近に見てギロリと睨んだ。

 テネブレがエリアスを助ける存在である事を、私は切に願うしか無かった。


 
 

 
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