雷霆使いの欠陥魔術師 ─「強化」以外ロクに魔術が使えない身体なので、自滅覚悟で神の力を振るいたいと思います─

樹木

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第三章 階級昇格編

68話『交戦/悪魔に魂を売った男』

 古城の広間で、互いに敵意をぶつけ合う者達がいた。
 構図は2対1。
 遥かな神代に在った雷霆の担い手に、魔剣使いの少女。
 相対するは、人ならざる悪鬼の因子をその身に宿した男。

 身を低くしたまま、アウラが口を開いた。

「先に一つ聞いておく。何処でそんな力を手に入れたんだ?」

「……俺は一度死んで生まれ変わったんだよ。素性は知らねぇが、俺の前に現れた野郎が、この力を与えてくれた。──「復讐するチャンスをやる」ってな」

 ガルマは両の掌に視線を落とす。
 下を向いているが、その声の調子は徐々に上がっていく。

「本当に、全てが変わったんだよ。この世の全てが俺の意のままになるような全能感ってヤツか? 最高の気分だったよ……この力で弱者共を殺し、略奪するのは」

「とことん落ちるってワケね。失う者の無い人間はこれだから怖いのよ」

「恨むなら過去の自分を恨むんだな。テメェら二人をブッ殺せるんだったら、人間捨てるなんざワケねぇよ」

「ガルマ────!!」

 不敵に笑うガルマに、アウラが仕掛けた。
 紫電を迸らせ、間合いを詰める。
 握られたヴァジュラに、突き詰められた殺意が宿る。

 己の不始末が、このような怪物を生んでしまった。
 その責任を取る為、眼前に立つ魔を屠る為──アウラは修羅と化す。

「────ッ!!」

 すれ違う形で、ガルマの左腕を容赦無く切り落とした。
 その一連の行為に躊躇は無い。
 己の前に立ち塞がる存在を捩じ伏せんと、スイッチを切り替えている。

「っ……!!」

「次は首だ……ッ!!」

「図に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキ────!!」

 切断された腕の断面から、鮮血が迸る。
 新たに生成された器官であっても、身体の一部である以上は痛覚も機能している。
 右腕で断面を抑えるガルマだが、言葉を喋るだけの余裕はあった。

 直後──ガルマの身体が、虚空に溶けるようにして消失する。
 確かに、その姿が視界から跡形もなく消えた。

(消えた────!)

 如何なる魔術か。詠唱も無しに、ガルマはその身を空間そのものと同化させた。
 影すら無く、アウラとカレンは討つべき標的を見失う。

 その一瞬。
 視界から消えた男に意識が向き、僅かに隙が生まれた瞬間を見計らったかのように、ガルマの身体がアウラの背後で現出する。

 振るわれたのは、純粋な殴打。
 横から殴り付けるように、アウラの横腹を目掛けて異形の腕が襲う。
 コンマ数秒の反応の遅れ。
 隙を付かれた白銀の魔術師は、十分な防御をする時間すら与えられず、先ほどの仕返しをされる形で蹴り飛ばされた。

「っ────!?」

「アウラ!!」

「おいおい、俺の方が速いじゃねぇの。蜘蛛を殺した時のスピードは何処に行ったよ? まさか、他のヤツらを巻き込まないためにセーブでもしてんのか?」

 愉悦するように笑みを浮かべ、体勢を立て直すアウラを煽る。
 しかし、当のアウラに大したダメージは入っていない。 
 直撃の直前のギリギリで身をよじり、ダメージを最小限に抑えていたのだ。

(一撃が想像よりも重い……!)

「……まぁ良い。俺としても、簡単に死なれちゃ殺し甲斐がないからな。じっくりと痛めつけてから、その頭蓋を叩き割ってやるよ」

 意気込み、ガルマが大勢を低くする。
 その脚に、人間を軽く凌駕する膂力が込められる。
 続けて、アウラによって切り落とされた腕に、異変が生じる。
 断面から新たに骨、そしてそれを覆う筋肉が生成されていき──切り落とされたガルマの腕が、何事も無かったかのように再生した。

「異常な再生力……デジャヴかよ」

「便利な身体だ。いくら腕を切り落とされようが、こうして身体が俺を生かしてくれる。もうお前らみたいな下等生物とは格が違うんだよ」

「笑わせるんじゃないわ、アンタは経験が無いからそんなこと言えるのよ。世の中には、私達が倒さなきゃならない怪物が山ほどいる──アンタなんかよりも、よっぽど人間の規格から外れた連中が」

 再生した腕を軽く動かしながら、ガルマは二人を見下す。
 しかし、その程度の煽りなど、アウラとカレンにとってはただの戯言に成り下がる。

 既にアウラは一度、殆ど不死身とも言えるナーガを屠っている。
 一方のカレンも、これまでの経験の中で、何度も人外に一歩踏み込んだ者と刃を交わしている。
 故に──ガルマが如何なる異能を宿す魔性であっても、彼らの手で退けねば、エリュシオンの主力足りえない。

 カレンの挑発とも取れる言葉に、ガルマはこめかみに青筋を立てながら、

「──良いぜ、お前らがその気なら乗ってやるよ。そこでくたばってる連中は巻き込まないでやる筈だったが、もう関係ねぇ。全員、この場から生きて帰れると思うんじゃねぇ……!!」

 新たに生成された異形の腕が、ガルマの頭で手を組む。
 尋常ならざる力。人間の頭を容易く粉砕する手に、鬼神の膂力が漲っていく。
 ガルマにはもう、失う物は何一つない。
 彼の原動力となっているのは、己を認めなかったカレンと、追放したアウラに対する復讐心だけ。

 人間の妄執は、時に人の域を超えるほどの覚悟を本人に課すのだ。

「ガルマ、お前……!」

「らァっ────────ッッッ!!!!」

 限界まで突き詰めた暴力。
 拳を広間の床に叩き付け、極限まで集約された力を余すことなく解き放った。
 
「アイツ、他の盗賊ごと殺すつもりか!?」

「ここが、テメェらの墓標だッ……!!」

 バキバキと音を立て、古城が揺らぐ。
 地面にヒビが入っていき、足場が次々と崩れていく。二階に位置する広間の床は瞬く間に崩壊し、その場にいた者全員は城の一階──二階に繋がる階段、そして踊り場のある玄関へと落下した。

 アウラとカレンは落ち着いて着地するも、巻き込まれた盗賊たちはそうはいかない。
 しかし幸いなことに、二人に負わされた以上の深手を負うことはなく、負傷こそしたものの命に別状はない。
 
「こっちの方が広いから、思う存分やり合えるだろ? ほら、見せてみろよ、お前の本気を……全力のテメェを殺してこそ、俺の復讐は果たされるんだからな」

「お前……要は自分の力を誇示したいだけじゃないか。仮にお前が俺を殺したとして、ギルドを追放された今じゃ、その功績を評価する人間は誰一人としていないんだぞ?」

「違うな。評価するのは誰でもない……俺だ。俺がテメェらよりも上の存在であることを、俺自身が納得する。理由なんてのはそれだけだ」

 自己満足、あるいは自信を肯定するために他者を殺す。
 それが、ガルマを突き動かす復讐心の本質だった。
  
 歪み果てた性根は、人の道を容易に外させる。
 
「そのためなら、悪魔の魂だろうが悪鬼の臓物だろうが喰らってやる。魔人になったことにも、微塵の後悔もない」

「成る程、悪魔の魂に魔人……それが、お前のその異能の根源ってことだな。だったら──」

 落ち着いた声色で答え、アウラの空気が少し変わる。
 眼前に立つ魔人、ガルマを「制圧すべき盗賊」から「殲滅すべき魔性」と再定義した。
 その命を掠め取る狩人として、魔術師はこの瞬間から刃を振るう。

「──もう加減はいらない。そういうことで良いんだな」

 バチバチと、青い火花が散る。
 己のために他者を害そうとする外道を前に、アウラの内に宿る神性が牙を剥く。
 その一言はガルマに向けられた物であると同時に、傍らで魔剣を構えたカレンに対する最終確認でもあった。

「えぇ。ここでコイツを生け捕りにしても、改心しなければ、この先どんな被害が出るか分からない。……同じ人間だとしても、確実に仕留めるわよ」

 偽神と羅刹、そして魔人。
 常人から逸脱した者の戦いは、舞台を移して繰り広げられることとなった。
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