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07、夢のような時間
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ーー母視点ーー
教会を模した一室で、着飾った息子と花嫁衣装を着せられた母親の対面。それを優しく見守るホテルのスタッフ達……これ、いったいどういう状況なの?
「綺麗だよ、里美。普段は可愛いけど、こうして着飾るとすごく綺麗だ」
綺麗だと言われるのは素直に嬉しい、けど、それ以上に歯の浮くようなセリフを言われて恥ずかしい。
心拍数が跳ね上がりすぎて倒れそう。
綺麗とか、そう言うのは本物の花嫁さんに言うセリフであって、実母に向かって言うセリフじゃ……いや、わりといつも言ってたわね、この子は。
普段から可愛いとか優しいとか料理は上手とかオッパイ大きいとか魅力的とか、色々言ってくれてたわ。
「え、あ、ありがとう。あなたも、その……素敵、なんだけど……これ、どういうこと状況なの? まったく解らないんだけど」
息子に名前で呼ばれるのは初めてで、ますます意味が解らない。いつもは『母さん』って呼ぶのに、どうしてそう呼ばないの?
どうして息子が花婿が着るような白いタキシードを着て、祭壇の前で私を待っていたの?
私達、結婚できない母子なのに。
これから式を挙げる新郎新婦みたいじゃない。
「里美、ずっと結婚式をあげるのに憧れてたって言ってただろ? だからさ、いつか俺がその夢を叶えてやるって決めてたんだ……日ごろの感謝のサプライズ。招待客0で、披露宴なしの簡単な誓約式と写真撮りの安いプランで申し訳ないんだけど……びっくりした?」
「そ、そりゃ、びっくりしたわよ……せめて、少しくらい説明があっても良いと思うんだけど? いきなりホテルにつれてこられて、ドレス着せられて、混乱したんだから……てか、一番安いプランだっていっても、式場に衣装2着に誓約式までしたら、結構な金額になるでしょ!? それに、私の身体のサイズとか、何であなたが知ってるのよ! しかもスタッフさんに伝わってるし!!」
お腹周りとかお尻周りとか、知られたら恥ずかしい数値を息子だけじゃなく、無断でスタッフに伝えていたのはさすがにやり過ぎ。私じゃなかったら、絶対に許されない所業よ!
お母さんだって、歳をとっても女なんだから!
デリカシーがないのは怒るわよ!!
「言ったらサプライズにならないでしょ? このためにずーーっと貯金し続けてきたんだから。子供の頃のお年玉もこれのために使ったんだ。
サイズに関してはごめん。衣装を用意するために、事前に伝えないといけなかったけど、上手く聞き出せそうになかったから、寝ている間にこっそりね」
寝ている間にそんなことをされていたとか、今まで遊ばず働き続けていた理由が私の夢を叶えるためだったとか、驚きすぎて言葉が出ない。息子が私の寝室に忍び込んで、私の体に触れて、下着を見たりしていたとか……まったく気づかなかった。
下着が汚れていたとか、着衣が乱れていたとか汚されていたとかが無かったから、本当にいやらしい意味じゃなく、必要だから寝室に忍び込んであれやこれやをしたのかもしれないけど……息子が母親の下着を物色して、息を潜めて体を触っているのを想像すると、何とも言い難い感じになるわね。
「里美は無防備過ぎだよ。可愛くて魅力的なんだから、もう少し、警戒心を持ってほしい。こんな素敵な花嫁さんなんだから、横から奪い取られてしまわないか心配になるよ……まぁ、絶対奪わせないし、逃がさない。里美を奪おうとする輩は、親族や友人、上司であっても近づけさせない」
息子が小声で言ったことにゾクリと体が震える……母親である私だから解ることだけど、この子、本気で逃がさないって言ってる。
どうして、実の母親にそんな重たい感情を持っているのか……怖い、けど。それほど想われるのは、悪い気はしない。女としての自尊心が満たされる。嬉しい。
「う、奪い取られるとか、無いって……こんなドレスに着られてるような駄肉おばちゃん、相手にする男なんて、あなたくらいよ……なによ、無防備って。
私だって、誰にでも気を許して無防備に寝てるわけじゃないわよ……ゆきだから、心から安心して寝れて、一緒にいるんじゃない……そんな子から、逃げたりなんて、しないわよ」
母子なんだから、気を許して無防備になるのは当たり前のことなのに、なんだか受け答えがまるで新婚夫婦のような、バカップルのような甘々会話になっているのは気のせいかしら。
「ふふ、そっか、俺は近くにいても安心できる男なんだ。嬉しいな。俺の花嫁はやっぱり可愛い。さて、それじゃあそろそろ式に移ろうか。スタッフさんをこれ以上待たせるのは申し訳ないから」
「そうね……でも、私、まだ納得しきってないからね? 帰ったらしっかりお話し合いだからね? ……でも今は、ちゃんとエスコートしなさいよ、私の花婿さん」
そう言いながら手を差し出すと、「仰せのままに、俺の可愛い花嫁さん」と息子がその手を取ってくれた。
「えー、それでは、式を始めさせていただきます」
祭壇に立つ神父役のスタッフから誓約の言葉が紡がれ、お互いに支え合うこと、愛し続けること、死が二人を分かつまで添い遂げることを誓うかと問うてくる。
その問いに対して息子はまったく躊躇することなく「はい、誓います」と力強く宣言した。
そして次に、私の番。
息子を生涯の伴侶として支えること、愛し続けることを誓うかと問われ、もう後に引けない私は「はい、誓います」と、宣言してしまった。
「よろしい。二人の誓約の証として、ここに二人の名前を記入してください」
結婚誓約書にお互いの名前を書き込んだ。
それを神父が確認する。
「ここに、二人の婚姻が誓約したことを認めます。それでは、続いて指輪の交換に移ります」
スタッフさんが持ってきてくれた指輪は銀色で、台座に小さいが、ダイヤモンドが装飾されていた。
「ね、ねぇ、これ、まさか……本物なの?」
よくできたガラスとか、銀色はステンレスだとだいぶ安くなるとか聞いたことがあるけど、
「もちろん。本物のプラチナとダイヤだよ。値段は張ったけど、一生物だから」
「そんな、そんな高価なもの、受け取れないわよ」
「良いから、受け取って。里美のために頑張ったんだから。俺の頑張りを、拒絶しないで」
「……ズルい。そんなこと言われたら、受け取るしか無いじゃない。式のサプライズもそうだけど、私ばかりもらって……」
「あなたの夢を叶えて、幸せにすること。それが進学するよりも就職を選んで、学生時代に遊ばず頑張り続けた、俺のやりたかったことなんだ。これは俺の自己満足。でも、まだ道半ばだよ。一生かけての計画なんだから」
高校の進路相談の時、大学に行くよりも就職して、少しでもお金を稼いでやりたいことがあると言っていたっけ。
何をしたいのか、その理由を問い質しても『今は言えない』と言って教えてくれなかったが、これだったのか……いつから? いつから、こんな計画を立てていたの?
高校時代にはもう今日のことを計画していた。だからそれよりも前から、考えて決めていないことこんなことは実行できない。
中学時代? 小学校? それとも、もっと前?
子供の頃から、私と結婚するんだって言っていたときから、今日のことを考えて、行動していたの?
私と結婚したいって、本気で思っていたの?
大人になったら話そうねって約束、覚えて……私のために、ずっと頑張ってきてくれたんだ。
「里美。手を」
「……はい」
左手の薬指に通される細い銀色のリング。
サイズはぴったりで、デザインも私好み。
「……キレイ」
「気に入ってもらえたみたいで良かったよ。それじゃあ、次は里美の番。俺の手に、指輪を着けて」
息子に促されて指輪を手にとった瞬間、『本当に、私で良いのだろうか』と迷いが生じる。
結婚指輪はただのアクセサリーではない。
結婚のシンボル。夫婦の愛と絆の象徴。
結婚していることを周りに知らしめるアイテム。
永遠の途切れることのない、愛を誓い合うためのジュエリー。愛の象徴。心臓に繋がる指にはめる誓約のリング。
そんな大切な指輪を、私がつけて良いのだろうか。
この指輪をはめてしまったら、息子を縛り付けることになるのではないか。
母親である私が、息子の人生をダメにしてしまうのではないか。
この子は優しくて、私にはもったいないくらいイイ男なんだから……私なんかよりも、もっと若くてキレイで、この子にふさわしい女「俺は里美がいいんだ」……え?
「あなた以上の女性はいない。いらない。あなたに傍にいてほしい。俺の傍にはあなただけで良い。
だから、指輪を俺の指にはめてほしい。俺をあなたの伴侶にしてください。これが、子供の頃からずっと追い求めてきた俺の夢なんだ」
ああ……気付いてくれた。
私の不安に気づいて、私がほしい言葉をくれた。
だめ……相手は息子なのに、胸がきゅってなる。
ドキドキして、顔が……身体が熱い。
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。
ああ、ダメ。喜んじゃダメ。
ダメだって、解っているのに……止められない。
私、息子のこと意識しちゃってる。男として見ちゃってる。好きになっちゃってる。夫にしたいと思っちゃってる。
ダメなのに、許されないのに。母親なのに。
息子のことが、好きになっちゃう。
「も、もう……馬鹿なんだから」
馬鹿なのは私も同じなのに。
息子を正せなかった私はもっと馬鹿なのに。
そう言いながら、私は息子の指に指輪をはめた。
「ここに、誓約はなされました。それでは、誓約の言葉を体に刻み、封をするため、誓いの口づけを」
キス……母子でキス、しちゃうの?
セックスはしても、私、キスしたこと無い。
初めてのキスが、息子と?
しかも結婚式で、人の前で、息子と、しちゃうの?
「ゆき、私達、おや……んん」
親子だから、口じゃないところにしようと言葉にする前に、息子の唇で蓋をされた。
「ん、んん……ぷは、はぁ……」
「息、止めてたんだ」
驚きと、どうするのが正解なのか解らない戸惑い。
それと、憧れの結婚式という舞台で男として意識しちゃっている息子と初めての口づけをしているという喜びで、息ができなかったのを笑うなんて酷い。
「なによ……初めてだったんだから、どうしたらいいのか解らなかったんだもの……ゆきも息、止めてた癖に。笑わないでよ」
「仕方ないだろ、これでも緊張してるんだから……それに、里美が可愛すぎるからにやけちゃうんだよ……俺だって、初めてだよ」
実はお互い初めてだったという暴露。
「えー、誓いのキスも終わりましたので、誓約の儀はこれで終了となります。結婚誓約書は本日の記念にお持ち帰りください。それでは、写真撮影に移りますが、よろしいでしょうか?」
「「あ、はい」」
それを聞かなかったことにして、二人の時間は終わりだと言う神父さんの声で現実に引き戻される。
後の予定も詰まっているだろうから、素直に応じて写真撮影に移る。
カメラマンさんに指示されたポーズを息子と一緒にあーでもない、こーでもない、こうじゃない? と言いながら撮影した。
密着して、抱き合って、額をつけて見つめ合って、笑い合って……距離が近い。息子のニオイ、息遣い、視線を感じる。私を見てる。私だけを見て、声をかけてくれる。
嬉しい。楽しい。ドキドキする。この時間を息子が……好きになった人が、私に喜んでもらうためにしてくれたんだと思うと、嬉しくてたまらない。
「里美、綺麗だよ。赤も似合うね。昨日贈ったバラよりも、着飾った里美の方が綺麗だ」
「ありがとう……嬉しい」
「照れてるところも可愛い」
「……バカ。マザコン」
大好きだって、素直に言えたら……母親っていう、どうやっても変えられない関係が恨めしいけど、今だけ……この式の間だけは、息子の花嫁でいたい。
教会を模した一室で、着飾った息子と花嫁衣装を着せられた母親の対面。それを優しく見守るホテルのスタッフ達……これ、いったいどういう状況なの?
「綺麗だよ、里美。普段は可愛いけど、こうして着飾るとすごく綺麗だ」
綺麗だと言われるのは素直に嬉しい、けど、それ以上に歯の浮くようなセリフを言われて恥ずかしい。
心拍数が跳ね上がりすぎて倒れそう。
綺麗とか、そう言うのは本物の花嫁さんに言うセリフであって、実母に向かって言うセリフじゃ……いや、わりといつも言ってたわね、この子は。
普段から可愛いとか優しいとか料理は上手とかオッパイ大きいとか魅力的とか、色々言ってくれてたわ。
「え、あ、ありがとう。あなたも、その……素敵、なんだけど……これ、どういうこと状況なの? まったく解らないんだけど」
息子に名前で呼ばれるのは初めてで、ますます意味が解らない。いつもは『母さん』って呼ぶのに、どうしてそう呼ばないの?
どうして息子が花婿が着るような白いタキシードを着て、祭壇の前で私を待っていたの?
私達、結婚できない母子なのに。
これから式を挙げる新郎新婦みたいじゃない。
「里美、ずっと結婚式をあげるのに憧れてたって言ってただろ? だからさ、いつか俺がその夢を叶えてやるって決めてたんだ……日ごろの感謝のサプライズ。招待客0で、披露宴なしの簡単な誓約式と写真撮りの安いプランで申し訳ないんだけど……びっくりした?」
「そ、そりゃ、びっくりしたわよ……せめて、少しくらい説明があっても良いと思うんだけど? いきなりホテルにつれてこられて、ドレス着せられて、混乱したんだから……てか、一番安いプランだっていっても、式場に衣装2着に誓約式までしたら、結構な金額になるでしょ!? それに、私の身体のサイズとか、何であなたが知ってるのよ! しかもスタッフさんに伝わってるし!!」
お腹周りとかお尻周りとか、知られたら恥ずかしい数値を息子だけじゃなく、無断でスタッフに伝えていたのはさすがにやり過ぎ。私じゃなかったら、絶対に許されない所業よ!
お母さんだって、歳をとっても女なんだから!
デリカシーがないのは怒るわよ!!
「言ったらサプライズにならないでしょ? このためにずーーっと貯金し続けてきたんだから。子供の頃のお年玉もこれのために使ったんだ。
サイズに関してはごめん。衣装を用意するために、事前に伝えないといけなかったけど、上手く聞き出せそうになかったから、寝ている間にこっそりね」
寝ている間にそんなことをされていたとか、今まで遊ばず働き続けていた理由が私の夢を叶えるためだったとか、驚きすぎて言葉が出ない。息子が私の寝室に忍び込んで、私の体に触れて、下着を見たりしていたとか……まったく気づかなかった。
下着が汚れていたとか、着衣が乱れていたとか汚されていたとかが無かったから、本当にいやらしい意味じゃなく、必要だから寝室に忍び込んであれやこれやをしたのかもしれないけど……息子が母親の下着を物色して、息を潜めて体を触っているのを想像すると、何とも言い難い感じになるわね。
「里美は無防備過ぎだよ。可愛くて魅力的なんだから、もう少し、警戒心を持ってほしい。こんな素敵な花嫁さんなんだから、横から奪い取られてしまわないか心配になるよ……まぁ、絶対奪わせないし、逃がさない。里美を奪おうとする輩は、親族や友人、上司であっても近づけさせない」
息子が小声で言ったことにゾクリと体が震える……母親である私だから解ることだけど、この子、本気で逃がさないって言ってる。
どうして、実の母親にそんな重たい感情を持っているのか……怖い、けど。それほど想われるのは、悪い気はしない。女としての自尊心が満たされる。嬉しい。
「う、奪い取られるとか、無いって……こんなドレスに着られてるような駄肉おばちゃん、相手にする男なんて、あなたくらいよ……なによ、無防備って。
私だって、誰にでも気を許して無防備に寝てるわけじゃないわよ……ゆきだから、心から安心して寝れて、一緒にいるんじゃない……そんな子から、逃げたりなんて、しないわよ」
母子なんだから、気を許して無防備になるのは当たり前のことなのに、なんだか受け答えがまるで新婚夫婦のような、バカップルのような甘々会話になっているのは気のせいかしら。
「ふふ、そっか、俺は近くにいても安心できる男なんだ。嬉しいな。俺の花嫁はやっぱり可愛い。さて、それじゃあそろそろ式に移ろうか。スタッフさんをこれ以上待たせるのは申し訳ないから」
「そうね……でも、私、まだ納得しきってないからね? 帰ったらしっかりお話し合いだからね? ……でも今は、ちゃんとエスコートしなさいよ、私の花婿さん」
そう言いながら手を差し出すと、「仰せのままに、俺の可愛い花嫁さん」と息子がその手を取ってくれた。
「えー、それでは、式を始めさせていただきます」
祭壇に立つ神父役のスタッフから誓約の言葉が紡がれ、お互いに支え合うこと、愛し続けること、死が二人を分かつまで添い遂げることを誓うかと問うてくる。
その問いに対して息子はまったく躊躇することなく「はい、誓います」と力強く宣言した。
そして次に、私の番。
息子を生涯の伴侶として支えること、愛し続けることを誓うかと問われ、もう後に引けない私は「はい、誓います」と、宣言してしまった。
「よろしい。二人の誓約の証として、ここに二人の名前を記入してください」
結婚誓約書にお互いの名前を書き込んだ。
それを神父が確認する。
「ここに、二人の婚姻が誓約したことを認めます。それでは、続いて指輪の交換に移ります」
スタッフさんが持ってきてくれた指輪は銀色で、台座に小さいが、ダイヤモンドが装飾されていた。
「ね、ねぇ、これ、まさか……本物なの?」
よくできたガラスとか、銀色はステンレスだとだいぶ安くなるとか聞いたことがあるけど、
「もちろん。本物のプラチナとダイヤだよ。値段は張ったけど、一生物だから」
「そんな、そんな高価なもの、受け取れないわよ」
「良いから、受け取って。里美のために頑張ったんだから。俺の頑張りを、拒絶しないで」
「……ズルい。そんなこと言われたら、受け取るしか無いじゃない。式のサプライズもそうだけど、私ばかりもらって……」
「あなたの夢を叶えて、幸せにすること。それが進学するよりも就職を選んで、学生時代に遊ばず頑張り続けた、俺のやりたかったことなんだ。これは俺の自己満足。でも、まだ道半ばだよ。一生かけての計画なんだから」
高校の進路相談の時、大学に行くよりも就職して、少しでもお金を稼いでやりたいことがあると言っていたっけ。
何をしたいのか、その理由を問い質しても『今は言えない』と言って教えてくれなかったが、これだったのか……いつから? いつから、こんな計画を立てていたの?
高校時代にはもう今日のことを計画していた。だからそれよりも前から、考えて決めていないことこんなことは実行できない。
中学時代? 小学校? それとも、もっと前?
子供の頃から、私と結婚するんだって言っていたときから、今日のことを考えて、行動していたの?
私と結婚したいって、本気で思っていたの?
大人になったら話そうねって約束、覚えて……私のために、ずっと頑張ってきてくれたんだ。
「里美。手を」
「……はい」
左手の薬指に通される細い銀色のリング。
サイズはぴったりで、デザインも私好み。
「……キレイ」
「気に入ってもらえたみたいで良かったよ。それじゃあ、次は里美の番。俺の手に、指輪を着けて」
息子に促されて指輪を手にとった瞬間、『本当に、私で良いのだろうか』と迷いが生じる。
結婚指輪はただのアクセサリーではない。
結婚のシンボル。夫婦の愛と絆の象徴。
結婚していることを周りに知らしめるアイテム。
永遠の途切れることのない、愛を誓い合うためのジュエリー。愛の象徴。心臓に繋がる指にはめる誓約のリング。
そんな大切な指輪を、私がつけて良いのだろうか。
この指輪をはめてしまったら、息子を縛り付けることになるのではないか。
母親である私が、息子の人生をダメにしてしまうのではないか。
この子は優しくて、私にはもったいないくらいイイ男なんだから……私なんかよりも、もっと若くてキレイで、この子にふさわしい女「俺は里美がいいんだ」……え?
「あなた以上の女性はいない。いらない。あなたに傍にいてほしい。俺の傍にはあなただけで良い。
だから、指輪を俺の指にはめてほしい。俺をあなたの伴侶にしてください。これが、子供の頃からずっと追い求めてきた俺の夢なんだ」
ああ……気付いてくれた。
私の不安に気づいて、私がほしい言葉をくれた。
だめ……相手は息子なのに、胸がきゅってなる。
ドキドキして、顔が……身体が熱い。
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。
ああ、ダメ。喜んじゃダメ。
ダメだって、解っているのに……止められない。
私、息子のこと意識しちゃってる。男として見ちゃってる。好きになっちゃってる。夫にしたいと思っちゃってる。
ダメなのに、許されないのに。母親なのに。
息子のことが、好きになっちゃう。
「も、もう……馬鹿なんだから」
馬鹿なのは私も同じなのに。
息子を正せなかった私はもっと馬鹿なのに。
そう言いながら、私は息子の指に指輪をはめた。
「ここに、誓約はなされました。それでは、誓約の言葉を体に刻み、封をするため、誓いの口づけを」
キス……母子でキス、しちゃうの?
セックスはしても、私、キスしたこと無い。
初めてのキスが、息子と?
しかも結婚式で、人の前で、息子と、しちゃうの?
「ゆき、私達、おや……んん」
親子だから、口じゃないところにしようと言葉にする前に、息子の唇で蓋をされた。
「ん、んん……ぷは、はぁ……」
「息、止めてたんだ」
驚きと、どうするのが正解なのか解らない戸惑い。
それと、憧れの結婚式という舞台で男として意識しちゃっている息子と初めての口づけをしているという喜びで、息ができなかったのを笑うなんて酷い。
「なによ……初めてだったんだから、どうしたらいいのか解らなかったんだもの……ゆきも息、止めてた癖に。笑わないでよ」
「仕方ないだろ、これでも緊張してるんだから……それに、里美が可愛すぎるからにやけちゃうんだよ……俺だって、初めてだよ」
実はお互い初めてだったという暴露。
「えー、誓いのキスも終わりましたので、誓約の儀はこれで終了となります。結婚誓約書は本日の記念にお持ち帰りください。それでは、写真撮影に移りますが、よろしいでしょうか?」
「「あ、はい」」
それを聞かなかったことにして、二人の時間は終わりだと言う神父さんの声で現実に引き戻される。
後の予定も詰まっているだろうから、素直に応じて写真撮影に移る。
カメラマンさんに指示されたポーズを息子と一緒にあーでもない、こーでもない、こうじゃない? と言いながら撮影した。
密着して、抱き合って、額をつけて見つめ合って、笑い合って……距離が近い。息子のニオイ、息遣い、視線を感じる。私を見てる。私だけを見て、声をかけてくれる。
嬉しい。楽しい。ドキドキする。この時間を息子が……好きになった人が、私に喜んでもらうためにしてくれたんだと思うと、嬉しくてたまらない。
「里美、綺麗だよ。赤も似合うね。昨日贈ったバラよりも、着飾った里美の方が綺麗だ」
「ありがとう……嬉しい」
「照れてるところも可愛い」
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