夜ノ森さんは恋ができない

モールス信号機

文字の大きさ
4 / 6

第四話 「お前かよ」

しおりを挟む

 「…何か用?」

 「いや、夜ノ森さんのことについてなんだけど」

 「夜ノ森…?あぁ…」

 大学の文化棟の一室で一人、ヴァイオリンを手入れする女性がいる。肩辺りで揃えられた黒髪、小柄な体格なのだが、僕を見上げるその視線はクールで鋭い。この雰囲気、分かる。これが一種の天才なのだろう。

 秋本かなで(あきもとかなで)。夏川と同じく僕の幼なじみの一人だ。昔ヴァイオリンを習っていたときの練習仲間である。コンクールでは僕よりずっと良い成績を残しており、大学の音楽部では、二年ながらコンサートマスターを勤めている。僕とはまあ、ギリギリ話してくれる関係性だ。

 「夜ノ森さんが何?」

 「お前、この大学に通ってるって知ってたか?」

 「うん」

 「そうか、やっぱりな、僕も驚いたんだ……………って、え?」

 「だから、知ってたって」

 「なんで今まで教えてくれなかった!?」

 「だって、聞かれなかったから」

 そうだ、秋本はこういう奴だった。質問を与えたら必ず答えが返ってくる。けれど、彼女から僕には何も聞かれない。…関心無いんだろうなぁ、僕に。

 「でも、私が知ったのもつい最近のことだよ」

 「え?前から知っていた訳じゃないのか?」

 「この大学に夜ノ森冬花が通っている、ということは一年の頃は知らなかった。少なくとも私はね」

 「………」

 どういうことだ。夏川の知人によれば夜ノ森冬花はこの大学に通っている。だけど、今までそんな噂はなかった。あれ程の知名度を持った人だ、いくらなんでもバレなかったでは説明がつかない。

 彼女は、この大学の三年生として突如現れた。
 
 「…やっぱり夏川にもう一度確認してみるか」

 「夏川?」

 「あいつの知り合いが夜ノ森さんを見たって言ってるんだ。それ、やっぱり見間違いだと思う」

 「あ、その知り合い、私」

 「ん?」

 「だから、夏川に夜ノ森さんを見たって言ったのは、私」
 
 「んん?」

 秋本はその後黙々とヴァイオリンの手入れをし始めた。他を一切遮音するような物凄い集中力だ。これもまた天才の特徴かもしれない。
 
 そういえば夏川、音楽が好きな知り合い、って言ってたな。なんで秋本って言わないかなあ。あ、僕があまりにも他人と関わっていなくて、僕と秋本が幼なじみだってことを忘れてた説を推したい。

「……………お前かよ」

僕の言葉に秋本はピクリとも反応しなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...