5 / 19
第5話
しおりを挟む
「こんなに目が腫れるほど、昨晩は激しかったんですか?」
翌朝、なかなか起きてこない俺たちを心配したカラさんが声をかけに来てくれて、泣いたせいで目が腫れ上がったフィズ様の様子を見てからそういった。
「違う」
「じゃあなぜ」
「言いたくない」
ぷい、と顔を背けたフィズ様にすこし苦笑してから、「リュカ様、朝食を運ぶのを少しお手伝いいただけませんか?」と俺に声をかけてきた。使用人の少ないこの離宮では、フィズ様本人ももちろん、夫である俺が動くことはそこまで珍しいことでもない。
頷いて、「行ってきます」とフィズ様に声をかけたが、返事は返ってこなかった。
「で、何があったんです?」
厨房に向かう途中、カラさんが少し疑うような目で俺をみてきた。正直に、昨日フィズ様にした話を伝えると、みるみるうちにカラさんの眉が真ん中に寄っていく。
「で、フィズ様を泣かせたと」
「そうなりますね」
「…、まあ、そうですよね。知らなかったんだから、まあ、うん」
カラさんは寄りすぎた眉間をぐりぐりとほぐしてから、静かに言った。
「フィズ様は、愛情に飢えてらっしゃいます」
「え?ああ、うん。そんな感じっすね」
「だから、『愛してやる』といわれた言葉に騙されて、相手に体を預けたことが、あります」
「……」
「あの方は、そうやって抱かれた後に『異形もあっちは同じなんだな』って、捨てられました」
カラさんはぎゅう、と唇を噛んだ。
つまり、俺は昨日、フィズ様の心の弱い部分を盛大に踏み抜いたということだろうか。
「とにかく、きちんと話あってください。そして、伴侶になると決めたのだから、ちゃんとフィズ様を愛してください」
「……」
愛とはなんだろうか。
愛するとはどういうことだろうか。
フィズ様のこと、可愛いとは思うし、エロいとも思う。故意に傷つけたいとは思わないし抱いてみたい、とも思う。
けれど、それは恋だったり、愛だったり、そういうものなんだろうか。
そんなことを考えながら、厨房についたとき、ふわり、と寝室がある方から血の匂いがした気がした。
俺ががばっと顔を上げると、びっくりしたようにカラさんが少し体をひく。
「ど、どうしました?」
「血の匂いがします」
「え?」
俺はそれだけ伝えると、歩いてきた道を急いで駆け戻った。
寝室に飛び込むと、そこには小さなナイフを持った男と、その男から逃げるように椅子の後ろに隠れているフィズ様がいた。フィズ様の肩には血が、滲んでいる。
「てめぇ、フィズ様に何をしている‼︎」
自分でも驚くような怒声が喉から飛び出て、次の瞬間その男を蹴り飛ばしていた。カエルが潰れるような声がして、男は吹っ飛んで、そのまま動かなくなる。
「フィズ様!」
「リュカ!」
フィズ様に駆け寄ると、フィズ様はぎゅぅとしがみついてきた。カタカタと震えるその体を傷に触らないようにそっと抱きしめた。
「すみません、貴方に傷つく前に帰ってきたかったっす」
俺の胸の中でフィズ様が首を小さく横に振る。
その背中を数度ぽんぽんと叩いてから、フィズ様の自分の背に隠して、扉のほうを向いた。
「少しだけ待っててくださいね」
「え?」
3人の、黒い布で目元以外を隠した人間が、するり、と扉から入ってきた。ちゃんとみていなかったが、さっき蹴り飛ばした男も、同じような覆面をしている。
「耳もちは死ね」
「異形は死ね」
「お前など生まれてきてはいけなかった」
三人は口々にそういい、その言葉にフィズ様がひゅっと息を呑んだのがわかった。
翌朝、なかなか起きてこない俺たちを心配したカラさんが声をかけに来てくれて、泣いたせいで目が腫れ上がったフィズ様の様子を見てからそういった。
「違う」
「じゃあなぜ」
「言いたくない」
ぷい、と顔を背けたフィズ様にすこし苦笑してから、「リュカ様、朝食を運ぶのを少しお手伝いいただけませんか?」と俺に声をかけてきた。使用人の少ないこの離宮では、フィズ様本人ももちろん、夫である俺が動くことはそこまで珍しいことでもない。
頷いて、「行ってきます」とフィズ様に声をかけたが、返事は返ってこなかった。
「で、何があったんです?」
厨房に向かう途中、カラさんが少し疑うような目で俺をみてきた。正直に、昨日フィズ様にした話を伝えると、みるみるうちにカラさんの眉が真ん中に寄っていく。
「で、フィズ様を泣かせたと」
「そうなりますね」
「…、まあ、そうですよね。知らなかったんだから、まあ、うん」
カラさんは寄りすぎた眉間をぐりぐりとほぐしてから、静かに言った。
「フィズ様は、愛情に飢えてらっしゃいます」
「え?ああ、うん。そんな感じっすね」
「だから、『愛してやる』といわれた言葉に騙されて、相手に体を預けたことが、あります」
「……」
「あの方は、そうやって抱かれた後に『異形もあっちは同じなんだな』って、捨てられました」
カラさんはぎゅう、と唇を噛んだ。
つまり、俺は昨日、フィズ様の心の弱い部分を盛大に踏み抜いたということだろうか。
「とにかく、きちんと話あってください。そして、伴侶になると決めたのだから、ちゃんとフィズ様を愛してください」
「……」
愛とはなんだろうか。
愛するとはどういうことだろうか。
フィズ様のこと、可愛いとは思うし、エロいとも思う。故意に傷つけたいとは思わないし抱いてみたい、とも思う。
けれど、それは恋だったり、愛だったり、そういうものなんだろうか。
そんなことを考えながら、厨房についたとき、ふわり、と寝室がある方から血の匂いがした気がした。
俺ががばっと顔を上げると、びっくりしたようにカラさんが少し体をひく。
「ど、どうしました?」
「血の匂いがします」
「え?」
俺はそれだけ伝えると、歩いてきた道を急いで駆け戻った。
寝室に飛び込むと、そこには小さなナイフを持った男と、その男から逃げるように椅子の後ろに隠れているフィズ様がいた。フィズ様の肩には血が、滲んでいる。
「てめぇ、フィズ様に何をしている‼︎」
自分でも驚くような怒声が喉から飛び出て、次の瞬間その男を蹴り飛ばしていた。カエルが潰れるような声がして、男は吹っ飛んで、そのまま動かなくなる。
「フィズ様!」
「リュカ!」
フィズ様に駆け寄ると、フィズ様はぎゅぅとしがみついてきた。カタカタと震えるその体を傷に触らないようにそっと抱きしめた。
「すみません、貴方に傷つく前に帰ってきたかったっす」
俺の胸の中でフィズ様が首を小さく横に振る。
その背中を数度ぽんぽんと叩いてから、フィズ様の自分の背に隠して、扉のほうを向いた。
「少しだけ待っててくださいね」
「え?」
3人の、黒い布で目元以外を隠した人間が、するり、と扉から入ってきた。ちゃんとみていなかったが、さっき蹴り飛ばした男も、同じような覆面をしている。
「耳もちは死ね」
「異形は死ね」
「お前など生まれてきてはいけなかった」
三人は口々にそういい、その言葉にフィズ様がひゅっと息を呑んだのがわかった。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる