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第6話
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この国には、耳もちは生まれたときに殺すべきだという過激な思想をもった団体が、数個存在する。
耳もちが生まれたら国が繁栄する、というような迷信もあるから、全員が全員そう思っているわけではないが、こいつらは間違いなく、その過激派団体の関係者だろう。こんなところまでどうやって忍び込んだのか、というのは後で王宮のそういうのに詳しい人たちに検討してもらうとして。
一斉に飛び掛かってきたのを、一番近いやつから蹴り上げる。
一人目は顎を下から上へ、二人目は首を左から右へ、最後の男は股間を思い切り。
でかい音を立てて三者三様に転がったが、股間を蹴られた男以外は意外にもすぐに立ち上がった。いずれも目が据わっている。
薬でもキメているのだろうか。
「伴侶がいた」
「伴侶も殺せ」
「誰がお前たちなんぞに殺されてやるか」
本心からそう返す。とはいえ、いまの俺は丸腰だ。夫婦の寝室に武器などあるわけがないし、武器がなくてもそれなりに戦えるが、相手が刃物を持っている以上、不利ではある。ましてや誰かを守りながら、というのは…。
とりあえず、フィズ様を逃さないと。
背中にかくまったまま、小さく囁く。
「フィズ様、合図をしたら出口まで走れますか」
「⁉︎ リュカはどうするんだ」
「時間を稼ぎます。その間に助けを呼んできてください」
「でも…っ」
お前は、と続きそうなフィズ様の手を、そちらは見ずに小さく握った。
「寝室、めちゃくちゃにしていい許可だけください」
フィズ様が小さく息を吸う。
「許可する。……死ぬなよ。絶対に」
「勿論です」
手を離して、目の前の男たちに集中する。
いつの間にか股間蹴り上げたやつも立ち上がっている。倒れているのは一人目だけだ。ということは、あの程度のダメージをぶつければとりあえず動きを止められるということだろうか。
正直、思い蹴りを打ち込んだあの男が、生きているかどうかは、定かではないけれど。
ゆら、ゆらと体が揺れる男たち。
「今っす」
俺の言葉でフィズ様が走る。
一番近くにいた男がフィズ様を捕まえようとするが、そいつの手をその辺にあった椅子を引っ掴んで手を弾き飛ばす。
男達が一瞬怯んだ隙に男たちと出口側のフィズ様の間に入り込んで、今度は男たちのほうへ机を蹴り飛ばした。これは全員に避けられたが、その間にフィズ様は無事寝室から脱出したから、問題ない。
後ろ手に扉を閉めた。
「さてと。お前ら、誰に傷つけたかわかってんのか」
「当然だ」
「異形の王子」
「耳持ちの王子」
「生きていてないけない存在」
「死ぬべき運命の存在」
「化け物だ」
フィズ様は、ずっとこんな悪意と戦ってきたのだろうか。
産んでくれと頼んだわけでもないのに、この世に『人とは違う姿』で生まれ、生きなければならなかった。
聞き齧った話だが、フィズ様の母親は、『耳持ち』を産んだことで心を病んだと聞いている。俺にはわからない。自分達と姿が違うというだけで、そんなに怖がり憎む理由が。
フィズ様にはわかるのだろうか。だから、ああやって自分を貶めるような発言をするんだろうか。
いや、違うな。
理解できなくても、その現実を受け入れるほかなかったんだ。自分がその悪意をぶつけられる存在であることを。
なんだか、ひどく腹立たしい。
自分にこんな感情があったのか、と思うくらいに、腹の中が熱くて、ぎりぎりと痛む。
「お前ら、全部ぶっ潰す」
俺がそうぼそっと呟いた言葉がスタート合図だったように、男たちが全員動き出した。
耳もちが生まれたら国が繁栄する、というような迷信もあるから、全員が全員そう思っているわけではないが、こいつらは間違いなく、その過激派団体の関係者だろう。こんなところまでどうやって忍び込んだのか、というのは後で王宮のそういうのに詳しい人たちに検討してもらうとして。
一斉に飛び掛かってきたのを、一番近いやつから蹴り上げる。
一人目は顎を下から上へ、二人目は首を左から右へ、最後の男は股間を思い切り。
でかい音を立てて三者三様に転がったが、股間を蹴られた男以外は意外にもすぐに立ち上がった。いずれも目が据わっている。
薬でもキメているのだろうか。
「伴侶がいた」
「伴侶も殺せ」
「誰がお前たちなんぞに殺されてやるか」
本心からそう返す。とはいえ、いまの俺は丸腰だ。夫婦の寝室に武器などあるわけがないし、武器がなくてもそれなりに戦えるが、相手が刃物を持っている以上、不利ではある。ましてや誰かを守りながら、というのは…。
とりあえず、フィズ様を逃さないと。
背中にかくまったまま、小さく囁く。
「フィズ様、合図をしたら出口まで走れますか」
「⁉︎ リュカはどうするんだ」
「時間を稼ぎます。その間に助けを呼んできてください」
「でも…っ」
お前は、と続きそうなフィズ様の手を、そちらは見ずに小さく握った。
「寝室、めちゃくちゃにしていい許可だけください」
フィズ様が小さく息を吸う。
「許可する。……死ぬなよ。絶対に」
「勿論です」
手を離して、目の前の男たちに集中する。
いつの間にか股間蹴り上げたやつも立ち上がっている。倒れているのは一人目だけだ。ということは、あの程度のダメージをぶつければとりあえず動きを止められるということだろうか。
正直、思い蹴りを打ち込んだあの男が、生きているかどうかは、定かではないけれど。
ゆら、ゆらと体が揺れる男たち。
「今っす」
俺の言葉でフィズ様が走る。
一番近くにいた男がフィズ様を捕まえようとするが、そいつの手をその辺にあった椅子を引っ掴んで手を弾き飛ばす。
男達が一瞬怯んだ隙に男たちと出口側のフィズ様の間に入り込んで、今度は男たちのほうへ机を蹴り飛ばした。これは全員に避けられたが、その間にフィズ様は無事寝室から脱出したから、問題ない。
後ろ手に扉を閉めた。
「さてと。お前ら、誰に傷つけたかわかってんのか」
「当然だ」
「異形の王子」
「耳持ちの王子」
「生きていてないけない存在」
「死ぬべき運命の存在」
「化け物だ」
フィズ様は、ずっとこんな悪意と戦ってきたのだろうか。
産んでくれと頼んだわけでもないのに、この世に『人とは違う姿』で生まれ、生きなければならなかった。
聞き齧った話だが、フィズ様の母親は、『耳持ち』を産んだことで心を病んだと聞いている。俺にはわからない。自分達と姿が違うというだけで、そんなに怖がり憎む理由が。
フィズ様にはわかるのだろうか。だから、ああやって自分を貶めるような発言をするんだろうか。
いや、違うな。
理解できなくても、その現実を受け入れるほかなかったんだ。自分がその悪意をぶつけられる存在であることを。
なんだか、ひどく腹立たしい。
自分にこんな感情があったのか、と思うくらいに、腹の中が熱くて、ぎりぎりと痛む。
「お前ら、全部ぶっ潰す」
俺がそうぼそっと呟いた言葉がスタート合図だったように、男たちが全員動き出した。
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