悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

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 聖女は、聖歌を歌い、土地を富ませたり、人々を治癒することが出来る。

 聖女の喉には金色のカナリアが住み、その聖鳥と同調することで、聖歌を歌えるようになるらしい。


 ダリアローズとレオナルド、両陛下も観衆も皆静まり返って見守る中、ユリアナが立ち、聖歌を歌い始めた。


 華やかな歌声が発せられるのは、ユリアナのように見えて、違う。良く見ると、正しくは彼女の肩に止まる、小さな小さな金色のカナリア。声を張り上げるように懸命に歌うちんまりした身体に、思わず応援したくなってしまう。

 歌声は、その広場へ集まった皆を癒した。彼らの頭上へ、何かがひらひらと舞っている。金色の羽だ。それは怪我や病人の体へ吸い込まれ、消えていった。


「素晴らしいわね……」


 ダリアローズは思わず感嘆の声を上げていた。敵に塩を送ってしまったとしても、金色のカナリアは素晴らしかったのだ。


「ああ、とても……美しい……」


  隣のレオナルドも同様に、ほう、と息を吐いている。両陛下も、美しい光景に満足気で、ダリアローズは内心、焦る。


(あれは……たしかに美しかったけれど……)


 ぼうっ、とレオナルドがユリアナへ熱心な視線を送っているように見えたのは、気のせいだろうか。

 ユリアナが歌ったのは、『癒しの歌』だった。人々は頭を地へ擦り付けるようにして、ユリアナへ感謝を示す。聖騎士のルドルフがエスコートをして、ユリアナは教会へと戻っていった。






 翌日、ユリアナはレオナルドに絶賛されていた。


「まるで神の楽園にでも行ってしまったのかと思うほど、神々しかった。あれは、やはり大変なのか?」

「けほっ、けほっ……ええ、はい、一度聖歌を歌うのも、とっても体力と喉を使うのです」

「そうなのか……神の御技を使うのだから、それもそうか。ユリアナ、また次も期待している」

「あり、がとう、ございます……、っこほ、」


(そうだったかしら?)

 喉を痛そうに抑えるユリアナを見て、ダリアローズは首を傾げた。

 乙女ゲームの設定では、実際に聖歌を歌っているのはカナリアのため、聖女本人は祈りの気持ちを込めて歌うだけで、喉を酷使するほどではない。そんなスパルタ要素はなかったはずだ。

 ただしその旋律が複雑なものほど、効果が高くなる。それは訓練しないと歌えないため、音ゲーになっていた。


 ここでも現実との差異があるのか、と首を傾げながら、ユリアナの喉をいたわるレオナルドをぼーっと見ていた。

 レオナルドはあのオペラのチケットのことも、何事もなかったかのように振る舞っている。険悪になるよりはまだ良いが、全くの普段通り。彼の中で、気に留めるほどのことではないと言うことなのだろうか。

 あの時のダリアローズの嘆きも、レオナルドにとっては取るに足らないことなのだろうか。


 







 レオナルドがユリアナへ優しさを見せる度に、ダリアローズの胸はちくちく傷んだ。

 レオナルドは、基本的に誰にでも優しい。博愛主義と言えばいいのか、八方美人と言ってもいいのか。

 特にユリアナには特別優しいように見えるが、それは聖女であるから。そうダリアローズは自分に言い聞かせた。


 正式な婚約者はダリアローズなのにと、ダリアローズの友人は、ユリアナに対して怒りを抱くようになるが、絶対に手を出さないように言い含めていた。それは、教会を敵に回し、レオナルドから軽蔑されることだと、知っていたから。

 制御できない者は茶会のメンバーから外し、ダリアローズがユリアナに敵意を抱いていないことをアピールもしたおかげで、レオナルドは何を勘違いしたのか。


「さっ、ダリアはこちらに。ユリアナはこっちだよ」

「わあ…………!可愛い……っ!嬉しいです、レオさまっ!」

「ダリアにも言ってね?セットしてくれたのは、ダリアなんだから」

「はぁい。……ダリアローズサマ、アリガトウゴザイマスー」


 婚約者の交流としての茶会に、ユリアナも招待するようされたのだ。

 目的としては、ユリアナの茶会でのマナーを向上させるということ。男爵や子爵令嬢が聖女をもてなすのは荷が勝ちすぎるのと、何か下手なことを吹き込み、聖女を取り込もうとする家が現れてもおかしくはないから。

 高位貴族令嬢の殆どはダリアローズの味方であり、ユリアナを良く思っていない。何かしでかされてダリアローズのせいにされるくらいならば、自分が引き受けた方がまだマシである。

 そう考えたダリアローズは、レオナルドとの交流の茶会とは別に、ユリアナだけを呼ぶ茶会を開こうとしたのだが。


「ユリアナが、ダリアだけだと緊張するみたいだから」


 と言う。普通は王子の方が緊張してしかるべきだとは思うが、ダリアローズは何も言わなかった。レオナルドが望むのなら、受け入れるしか選択肢はない。

 そして、月に二度も茶会を開くのは大変だろうというレオナルドの下手な気遣いにより、婚約者としての交流会、兼、ユリアナの淑女教育という名目の茶会が開かれるようになった。





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