悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

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 美しく配置された花弁や、各個の好みを反映した茶菓子、それから季節の新鮮な果物、香り高い紅茶、全てはレオナルドのため。
 それなのに、レオナルドはまるで茶会の主のようにあれこれをユリアナにとってやり、教えてやるのだ。

(実践形式で教えるはずなのに、これでは……、レオナルド様、教えるのが下手なのね……、そんなところも可愛いけれど)


 甲斐甲斐しく世話をするレオナルドを前に、ダリアローズは閉口するしかなかった。そして、レオナルドの後ろに立つ、良く出来た彫像のようなトリスタンを、意味もなく眺める。


(本当に無表情よね……ユリアナさんと話す時だけ柔らかいって言うけれど、わたしには違いがわからないわ)


 ユリアナの護衛聖騎士ルドルフは、ダリアローズの背後だ。魔術師団長令息のエイドリアンもまた側近のはずだが、彼はあまり職務に忠実でないのか、姿はない。

 ユリアナはきゃっきゃとはしゃいだ。華奢な両手の手先を合わせて、にこにこと笑顔を振りまく。体ごとレオナルドに向けて、会話の合間合間にはレオナルドの腕にちょこんと触れた。


(わたしって……何?レオナルド様と、ユリアナさんのために、無駄に素敵なセッティングをして……何の意味が、あったの?)


 ダリアローズはもう、ここにいる意味も分からなかった。二人にとっては、ダリアローズもティーセットと同じ、背景に見えているのか。

 ぼうっとしていると時間の流れが遅々として苦痛だった。ダリアローズは茶会の時間中、執務やさまざまなものの段取りを考えることにして、殆ど会話をすることも無く終わらせた。

 惨めとは思いたくない。レオナルドのため、レオナルドの望み通りにするのがダリアローズの望み。そう言い聞かせて。






 ***





 卒業が見えてくると、レオナルドはより露骨にユリアナを贔屓するようになった。

 ダリアローズの茶会に来る前に、ユリアナを迎えに行き、そしてどこかで話に花を咲かせすぎたのか、開始時間になっても現れないことが増えていった。

 それだけではない。ユリアナに勉強を教えるためと言って、授業に出ず図書室に篭るようになったのだ。

 ダリアローズと同じSクラスのレオナルドは、確かに授業内容は頭に入っているだろう。だが、他の生徒の模範ともなるべき王子の行動として、褒められない行為。それも、Dクラス、最下位クラスのユリアナのために。

 クラスメイトがそわそわと目配せしてくる気配。レオナルドの空席と、ダリアローズを見比べているのだ。

 さすがに見過ごせない。ダリアローズは意を決して、レオナルドを問い詰めた。



「どうしてそれほどまでに、入れ込むのですか。ユリアナさんに。もうすぐ卒業ですのよ。レオナルド様。わたしは、貴方の評判が落ちていくのを、見たく無いのです」

「……?彼女には、私しか頼れないのだから。当然のことだろう。私はもう授業にほとんど出なくとも影響はないのだし」

「いいえ。教師や神官、たくさんのかたが、ユリアナさんにはいらっしゃいます。それより、レオナルド様の評価の方が大事ですわ」

「だが、彼女は学園の授業について行けていないし、そんなユリアナを、皆見下しているらしいんだ。可哀想だろう?ダリアは優しいから、分かってくれるよね?」

「…………それでは、わたしがユリアナさんに教えて差し上げましょうか。ええ、わたしの友人にも教えたことはありまして。なかなか好評だと思いますの」


 それは一種の賭けだった。本当は貴重な時間をユリアナの勉強のためなどにきたくはない。だが、レオナルドの時間を取られる方が、もっとずっと嫌だからだ。

 レオナルドは少し考えた後、慎重に言葉を選ぶようにしていた。


「……ユリアナは、まだダリアに慣れていないみたいだから……その申し出は助かるけれど、もう少し二人が仲良くなってから、がいいかもしれない」


(レオナルド様は、彼女を妾にでもするつもりなのかしら。いいえ……仮にも聖女をそんな地位におくことは許されない。わたし……断罪、されないわよね?)


 ユリアナとこのように気軽に会話を出来るのは、この学生時分だけ。ダリアローズとは、卒業後も毎日のように顔を合わせることとなるのだから、今だけは譲るべきなのかもしれない。


 それなのに、どうして、胸がざわめくのだろう。


 レオナルドとユリアナとの仲は、まるで兄妹のように見えた。実際にレオナルドには妹王女はいたが、ユリアナのようなタイプでは無い。可愛らしい気弱そうな妹が欲しかったのかもしれない。




 そうして自分の胸に巣喰う不安と向き合わないまま、ある日。



 突然のことだった。


 既成事実を作らされた。レオナルドから婚約破棄をされて――――正気を失ってしまったのかもしれない。


 あの人の結婚式までの記憶は、朧げだった。





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