悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

文字の大きさ
11 / 42
本編

11

しおりを挟む


 包帯が外れてすぐに、王城で開かれる夜会に行くことになってしまった。

 その相談がしたいというユリアナからの手紙はのらりくらりと躱したが、夜会は回避出来ない。

 トリスタンはよほど多忙なのか全く帰ってこないため、ダリアローズは勝手にドレスを仕立てた。

 もう次期王妃とはならないのだ。これまでやってきた気遣いも献身も意味はなく、やる気もほぼゼロ、気楽なものだ。そのため、懇意にしているデザイナーに全てを任せた。いつになく鼻息を荒くし興奮するデザイナーにかかれば、きっと間違いはないのだから。




 夜会当日。仕度を整えたダリアローズは、予想通り帰ってこないトリスタンを待つことなく、王城へと向かった。

 本来ダリアローズをエスコートして入場するべきトリスタンは、もう既に入っているらしい。そんなことは予想内のため、ダリアローズは代役を立てていた。


「まさかまたこんな格好をするとは……」

「素敵よ、シド。わたしに見劣りしていないわ」

「……精々『エスコート専用腕』としての役割はこなしますが、ダンスは無理です、恥ずか死ぬ」

「分かっているわ」


 大きな体格をしているくせに、情けなく眉を下げるのは、ダリアローズを長年護衛しているシドである。切れ長の眉が美しくも迫力のある精悍な青年だ。帯剣出来ない夜会という場所が恐ろしいのか、かなり身構えているらしい。背後にぷるぷると震える子犬の幻影が見えた。


「大丈夫。とっても素敵だもの」

「……お嬢も。妖精姫のようです」

「ありがとう」


 シドの太く逞しい腕にエスコートされ、入場する。その途端、しんっ……と静まり、次いでざわざわと囁きが止まらない。


「どなたかと思えば、あの緋色のお髪は、まさかダリア様……!?」

「なんて可憐なの」

「いつもと全く違うテイストだわ。素敵……!」


 今日のダリアローズは、素顔を多少整えただけの化粧だ。

 ふんわりとした淡いパステルカラーの、透ける生地を幾重にも重ねたドレス。薔薇色の頬はいつもの鋭利さはなく、愛らしい猫目はやや垂れ気味。別人のように柔らかな印象を与えた。


(……ちょっと胸元がキツイわ。視線も気になるし、煩わしいわね)


 ダリアローズの胸元は豊満だ。多少露出した方がスッキリ見えるのだが、今日は全面をレースで覆っているためか、ぽってりとボリュームが増して見える。男性からのいやらしい視線が刺さるようで、気色悪いとさえ感じてしまう。

 王妃を目指していたダリアローズなら、しない格好だ。かつては会場のどこにいても目立つような、そして手の届かない高貴さを演出するため、目元を吊り上げパキッとしたカラーを好んでいたが……もう、主役ではない。

 ホストとして、レオナルドとユリアナは既に入場していた。その側には、トリスタンの姿もあった。


 ダリアローズを見つめて唖然としたような顔のレオナルドに、敵意丸出しのユリアナ。そしてトリスタンはじっと見つめてくるばかりで、表情は崩れない。
 レオナルドはかつての婚約者に何を思っているのか、かつてないほど熱烈な視線だ。

(今更見られても、嬉しく無いわ。婚約していた時は、ユリアナばかり見つめていたくせに)


 ぷいと顔を背け、見なかったことにする。友人たちがわあっとやってきて話しているうちに、王妃と国王が最後に入場し、夜会が始まった。


 主催者の挨拶が終われば、シャンパンでの乾杯。無数に灯されたキャンドルの灯りが、それぞれのグラスをきらきらと光を反射させた。光の粒が舞い、会場を彩る。


 ダリアローズの挨拶の番になった。国王陛下や王子夫妻もいる前で、見事なカーテシーを決める。ふわふわと裾が広がり、感嘆のため息が聞こえてくた。

 随分と年季の入ったカーテシーは、一体誰のためだったのか……今は、自分のためだと言い聞かせて。


「やはり其方は素晴らしいのう……本当に、娘になってくれればどれほど幸福なことじゃったか」

「まぁ陛下、身に余る光栄ですわ。これからは素敵なが、両陛下を支えてくださいますから、心強いですわね」

「……………………………………………………ああ」


(ユリアナさんが何か一つでも出来るとは、思えないけれど)

 それは、陛下の長い沈黙に現れていた。それだけでも、ダリアローズの献身した意味はあるだろう。







 次にレオナルド王子夫妻の前で挨拶をすると、ユリアナはギラギラとした目を隠しもしない。もう気弱なキャラを演じるのは辞めたのだろうか。ダリアローズに向かって、大声で言い放つ。


「ダリアローズ様……、とってもお変わりになられましたね……?心境の変化ですか?あ……っ、もしかして、何か心を痛める出来事でも……?」

「まぁ、ご冗談を。妃殿下もわたしも、新婚じゃありませんか」

「……うふふっ、あたしと、ダリアローズ様はぁ……、ちょっとぉ……違うと思いますけど……」


 うふふ、おほほと、形だけの微笑み合い。ちらりとトリスタンを見ると、さすがの鉄仮面。鉄壁の無表情だ。しかしダリアローズの隣を守るシドを、ちらちらと観察しているようにも見えた。

 すると視界に、レオナルドがずいと入り込む。


「ダリア……綺麗だ。今日はいつもと随分、違うな……?」

「まぁ、無理をしてお世辞を仰って頂く必要はありませんわ。それに、わたしのことは『次期パールブレス侯爵夫人』と」

「儚げでいて可憐だ。まるで花畑に現れた妖精のようだな」

「……光栄ですわ」


 それは先ほどシドにも言われた。二番煎じである。ダリアローズはさらりと笑って流し、その場を後にした。不思議なことに、レオナルドに歯の浮くような台詞を言われても、全く心に響かなかった。

 一度推しから卒業すると、随分と割り切れてしまうものらしい。そう自分でも驚くほど、過去のものになっていた。


(前世でも、推しが結婚したら活動を辞めるという人は多かったものね。そう考えたら、ひとときの夢を見させて頂いただけで、感謝してもいいのかもしれないわね)


 
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...