悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

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 包帯が外れてすぐに、王城で開かれる夜会に行くことになってしまった。

 その相談がしたいというユリアナからの手紙はのらりくらりと躱したが、夜会は回避出来ない。

 トリスタンはよほど多忙なのか全く帰ってこないため、ダリアローズは勝手にドレスを仕立てた。

 もう次期王妃とはならないのだ。これまでやってきた気遣いも献身も意味はなく、やる気もほぼゼロ、気楽なものだ。そのため、懇意にしているデザイナーに全てを任せた。いつになく鼻息を荒くし興奮するデザイナーにかかれば、きっと間違いはないのだから。




 夜会当日。仕度を整えたダリアローズは、予想通り帰ってこないトリスタンを待つことなく、王城へと向かった。

 本来ダリアローズをエスコートして入場するべきトリスタンは、もう既に入っているらしい。そんなことは予想内のため、ダリアローズは代役を立てていた。


「まさかまたこんな格好をするとは……」

「素敵よ、シド。わたしに見劣りしていないわ」

「……精々『エスコート専用腕』としての役割はこなしますが、ダンスは無理です、恥ずか死ぬ」

「分かっているわ」


 大きな体格をしているくせに、情けなく眉を下げるのは、ダリアローズを長年護衛しているシドである。切れ長の眉が美しくも迫力のある精悍な青年だ。帯剣出来ない夜会という場所が恐ろしいのか、かなり身構えているらしい。背後にぷるぷると震える子犬の幻影が見えた。


「大丈夫。とっても素敵だもの」

「……お嬢も。妖精姫のようです」

「ありがとう」


 シドの太く逞しい腕にエスコートされ、入場する。その途端、しんっ……と静まり、次いでざわざわと囁きが止まらない。


「どなたかと思えば、あの緋色のお髪は、まさかダリア様……!?」

「なんて可憐なの」

「いつもと全く違うテイストだわ。素敵……!」


 今日のダリアローズは、素顔を多少整えただけの化粧だ。

 ふんわりとした淡いパステルカラーの、透ける生地を幾重にも重ねたドレス。薔薇色の頬はいつもの鋭利さはなく、愛らしい猫目はやや垂れ気味。別人のように柔らかな印象を与えた。


(……ちょっと胸元がキツイわ。視線も気になるし、煩わしいわね)


 ダリアローズの胸元は豊満だ。多少露出した方がスッキリ見えるのだが、今日は全面をレースで覆っているためか、ぽってりとボリュームが増して見える。男性からのいやらしい視線が刺さるようで、気色悪いとさえ感じてしまう。

 王妃を目指していたダリアローズなら、しない格好だ。かつては会場のどこにいても目立つような、そして手の届かない高貴さを演出するため、目元を吊り上げパキッとしたカラーを好んでいたが……もう、主役ではない。

 ホストとして、レオナルドとユリアナは既に入場していた。その側には、トリスタンの姿もあった。


 ダリアローズを見つめて唖然としたような顔のレオナルドに、敵意丸出しのユリアナ。そしてトリスタンはじっと見つめてくるばかりで、表情は崩れない。
 レオナルドはかつての婚約者に何を思っているのか、かつてないほど熱烈な視線だ。

(今更見られても、嬉しく無いわ。婚約していた時は、ユリアナばかり見つめていたくせに)


 ぷいと顔を背け、見なかったことにする。友人たちがわあっとやってきて話しているうちに、王妃と国王が最後に入場し、夜会が始まった。


 主催者の挨拶が終われば、シャンパンでの乾杯。無数に灯されたキャンドルの灯りが、それぞれのグラスをきらきらと光を反射させた。光の粒が舞い、会場を彩る。


 ダリアローズの挨拶の番になった。国王陛下や王子夫妻もいる前で、見事なカーテシーを決める。ふわふわと裾が広がり、感嘆のため息が聞こえてくた。

 随分と年季の入ったカーテシーは、一体誰のためだったのか……今は、自分のためだと言い聞かせて。


「やはり其方は素晴らしいのう……本当に、娘になってくれればどれほど幸福なことじゃったか」

「まぁ陛下、身に余る光栄ですわ。これからは素敵なが、両陛下を支えてくださいますから、心強いですわね」

「……………………………………………………ああ」


(ユリアナさんが何か一つでも出来るとは、思えないけれど)

 それは、陛下の長い沈黙に現れていた。それだけでも、ダリアローズの献身した意味はあるだろう。







 次にレオナルド王子夫妻の前で挨拶をすると、ユリアナはギラギラとした目を隠しもしない。もう気弱なキャラを演じるのは辞めたのだろうか。ダリアローズに向かって、大声で言い放つ。


「ダリアローズ様……、とってもお変わりになられましたね……?心境の変化ですか?あ……っ、もしかして、何か心を痛める出来事でも……?」

「まぁ、ご冗談を。妃殿下もわたしも、新婚じゃありませんか」

「……うふふっ、あたしと、ダリアローズ様はぁ……、ちょっとぉ……違うと思いますけど……」


 うふふ、おほほと、形だけの微笑み合い。ちらりとトリスタンを見ると、さすがの鉄仮面。鉄壁の無表情だ。しかしダリアローズの隣を守るシドを、ちらちらと観察しているようにも見えた。

 すると視界に、レオナルドがずいと入り込む。


「ダリア……綺麗だ。今日はいつもと随分、違うな……?」

「まぁ、無理をしてお世辞を仰って頂く必要はありませんわ。それに、わたしのことは『次期パールブレス侯爵夫人』と」

「儚げでいて可憐だ。まるで花畑に現れた妖精のようだな」

「……光栄ですわ」


 それは先ほどシドにも言われた。二番煎じである。ダリアローズはさらりと笑って流し、その場を後にした。不思議なことに、レオナルドに歯の浮くような台詞を言われても、全く心に響かなかった。

 一度推しから卒業すると、随分と割り切れてしまうものらしい。そう自分でも驚くほど、過去のものになっていた。


(前世でも、推しが結婚したら活動を辞めるという人は多かったものね。そう考えたら、ひとときの夢を見させて頂いただけで、感謝してもいいのかもしれないわね)


 
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