悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

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 結局ヒヨコを見つけられないまま屋敷へ帰ると、すっきりと人員整理されていた。


 残された者たちへ、ダリアローズは気前良く褒美を渡した。金貨でもいいのだが、ダリアローズからしか得られないものの方が、レアリティが増す。


「これは、シャルドネで作っているハンドクリームよ。美肌の効果抜群で、保湿効果もあるの。しっかり乾燥を防ぐから、試してみてちょうだい」


 使用人たちは素直に喜ぶ者と訝し気な者とで別れた。その気持ちも分かるので、ダリアローズは使用を強制しない。

 ダリアローズが影の女帝と評されていることは薄々勘付いている。自分からの贈り物を警戒する気持ちは、否定できないのだ。


(まぁ、一度使っちゃえば常連になるわ……支店、こちらにも作ろうかしら)


 ダリアローズは、転生者特典を生かして化粧品の店を持っていた。

 普通の薬草でも、ダリアローズの闇魔法で生み出した暗黒の水(見た目は汚水のようだが)で育てれば、良質のものとなる。“鎮静”“安らぎ”の効果が付与されるのだ。仄かにワインのような香りがするのも特徴。

 ダリアローズもまた、この自分で作ったハンドクリームの愛用者である。特に手仕事もしていないということもあり、自分の手を見て、手モデルのようだと自画自賛することすらあった。

 もちろん麻薬じみた常習性はなく、使わなくなればそれまで。ただしなめらかな触り心地と癒しを求めて、やはり買うようになる。ダリアローズは悪役顔でほくそ笑んだ。











 使用人の懐柔を済ませたダリアローズは、執事にどう処理をしたのかを聞いた。


「メイド長一派は長年尽くしてくれましたので、それぞれ紹介状を持たせて実家へ帰らせました。それから、新しいメイド長には――――」

「待って、紹介状を?持たせたの?彼女に?」

「え、ええ。いけませんでしたか……?」

「いえ、実家と比べると随分生ぬるいと思っただけですわ。それがこちらのやり方なのであれば、口は出しません」


 あの、不遜な態度をとった彼女がどこかの屋敷で大きな顔をしていることを思い浮かべて辟易としたが、トリスタンの意向もあるかもしれない。何か異議があれば言ってくるだろうと考えた時、外が騒つく。


「なにかしら」

「席を外しますね」

「シドは行かないで。ここにいなさい」



 執事が足早に外へ飛び出していって、数分。

 シドを盾のように扉側へ立たせていると、バン!と扉が開け放たれた。


「ダリアローズ様!ここにいたのですか!ずいぶんと心配を……っ、!?」

「……」


 自身に当たりそうになった侵入者を、食い止めたシド。背はシドの方が少し、高いようだ。


「……あら?よく見れば、トリスタン様じゃない」


 シドの背中側で、ダリアローズは呑気な声を出した。シドとトリスタンが睨み合っているとは、気づく訳も無く。


「……王都にいるはずでしょう。なぜ、こちらに?」







 ダリアローズは、目の前の男が何を考えているのか全く分からなかったし、理解しようとする意味も見出せなかったが、なぜ、『自分を追いかけるようにして領地にまで来たのか』には興味があった。


(レオナルド様に、命じられて来た?公妾になるように説得を?……だとしたら、上手く追い返さないと。もしそうでないなら、味方に引き込めるかしら)



 ティーセットを挟み向こう側に、月夜を司る男神が如く美麗な青年が座っている。まるで紅茶が奉納品のように見えてくるのは、彼の動きが最小限だからか。

 ただしその目元は隈で真っ黒だ。疲弊が顔に現れているというのに美しいなんて、嫌味ですらあった。

 ダリアローズはできるだけ正面の造形美を見ないように、小さなマカロンをつまみ、頬を綻ばせる。その背中側に、暗黒騎士のようなシドが静かに鎮座し、圧迫感を与えていた。


「ええと、トリスタン様。側近のお仕事は?放ってきて良かったんですの?」

「……まずは、この場に付き合って頂き、ありがとうございます」

「ええ。そうね。ふふふ」


 今日のダリアローズは、戦闘体制。つまり、吊り目に細眉、はっきりくっきりとした真っ赤な口紅を引き、色の濃いドレスである。

 夜会の時とはまるで別人の妻だが、トリスタンは動じていない。


「側近の仕事は、休ませて頂きました。書面上のこととはいえ、新婚ということで」

「あら?そう?妃殿下にはかなり引き留められたのでは?」

「……妃殿下については、殿下がいますので、俺はお呼びではないと判断しました。というか、どうでも良いです」

「?」


 ダリアローズは小首を傾げた。トリスタンは、今、ユリアナを『どうでもいい』と言ったのか?気のせいだろうか。


「……とにかく、領地に来るのに問題は無かったということですわね。では、どうして来たのです?なにか理由が?」

「貴女を追って来たに決まっています。ダリアローズ」

「……ふふ、説得しに?まぁ、何をどう説得するのか、見ものね」


 ダリアローズがそう挑発的に言うと、トリスタンはげっそりと疲れたように息を吐いた。


「違います。しばらくここに滞在し、その間、貴女とじっくり話し合いたいのです」

「奇遇ね。わたしも話したいと思っておりましたの。例えば、殿下に側妃へと請われた件ですとか」

「っ!」

「ねぇ、トリスタン様もご存知のはず。勿体ぶらずにお話下さいませ。承諾するかは別として」


 ダリアローズをどうするかは、この夫が鍵となる。それを見極め、出来れば味方に引き込まなければならない。とんとん、と自分の顎を指先で叩いた。

 はぁ、とため息をつく。どう調理してやろう?ダリアローズのため息の色香に当てられた花々が、恥じらうように小さく揺れた。それをじっと見つめながら、トリスタンは諦めたように目を伏せる。


「……ええ。初めから、レオナルド殿下の策略です。易々諾々と乗じた訳ではなかったのですが、今では後悔しています……」

「なぜ?」

「もっと他にやり方はあったのではないかということ。それに俺は、殿下が、もっと……」



 そう聞こえた時、またしても屋敷が騒がしくなる。

 一体何度、前触れのない客に対応しなくてはならないのか、執事のストレス負荷が心配になったダリアローズが腰を浮かせた時、茶室の扉が開き、シドが警戒体制を取った。











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