悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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 ダリアローズを貶めようとし、金色のカナリアから嫌われてしまったユリアナと、それを目の当たりにしたレオナルド。

 そんな打ちひしがれた新婚夫妻は、突如騎士を連れて襲撃してきたマーガレット王女によって、回収されていった。


「わたくしが立太子しますから、兄さんは継承権剥奪ですわ。この新婚旅行もお姉様たちに迷惑かけ続けて……そんな横暴はもう終わりですわよ、終・わ・り!」

「ハァ!?聞いてないぞ、そんな……」

「決定事項ですのよ。兄さんたちが城を出てから不信任決議が出されて、すーぐ決まりました。ハイ、大人しく聖女の夫として頑張ってくださいねぇ~」

「なんだとっ!?どういうこ……ふガッ……」


 これまでふわふわとしたドレスを好んでいたマーガレット王女は、キリリとしたパンツスタイルに身を包み、威厳を醸し出していた。


 ダリアローズがかつて見舞いに来たマーガレット王女に頼んだのは、立太子し女王となることだ。了承さえ取れれば、後はダリアローズの父がコツコツと打ち合わせをし、王子の不信任決議を纏めた。それを出されれば立太子は出来なくなるというもの。


 いくらレオナルドの執務の出来が杜撰になっていたとはいえ、これほど早く提出され、実行されるとは思っていなかった。まだ彼らが結婚してから数ヶ月しか経っていない。


「ありがとうございます、マーガレット様。色々あって疲れておりました。……それにしても、お早かったですわね?」

「ふふ。シャルドネ侯爵とパールブレス侯爵を敵に回したらこうなると、思い知らされましたわ。さ、行かないと!わたくし忙しいのです、この兄夫婦を城から放り出さなくちゃいけないし、王配を決めるグランプリも開催しないといけないし……」


 王配を決めるのに、マーガレット王女はとんでもないことを考えているようだが、それより気になる言葉がある。


「まさか、お義父様たちも?」

「ええ、そちらの侯爵も味方になって頂いたからすんなり決まったんです。どうやら御両家、息が合うようですわね?そうだわ。お姉様にはわたくしの相談役で定期的に来てもらいたいし、トリスタン様にはまだ見ぬ王配の側近をお願いしたいのですけど」

「まぁ!わたしでよければ喜んで。トリスタン様は……」

「異論ありません。謹んで拝命賜ります」

「決まりね。じゃあ兄さんたちは連れて行くわ。お姉様たちも、……いつの間にか、良い雰囲気じゃありませんか。ごゆっくり楽しんで下さいね?」


 そう言われてトリスタンを見上げると、なんとも甘やかな微笑みを浮かべていて、ダリアローズは真っ赤になった顔を見られないよう、ぷいと逸らしたのだった。





 マーガレット王女は、去り際にダリアローズの魔封じの腕輪を掻っ払って行った。ダリアローズにとってはもう不要のものだ。機能が無くとも、レオナルドの色をふんだんにあしらった腕輪は、もう付けられない。

 その腕輪は改造がなされた後、ユリアナに嵌められることとなった。ユリアナの魔力は少ないが、警戒するに越した事は無い。表向きは夫であるレオナルドの色を纏っているかのようだが、囚人と変わらない。

 もうひよこカナリアはユリアナに力を与える事はない。聖女ではいられない。そのユリアナが次期侯爵に害を為したので、ただの平民どころか、犯罪者である。


 しかし、聖女として活動したくないダリアローズが許したこともあり、権力を持たない“小聖女“として、慈善活動を行うだけのハリボテとして生きていくこととなった。ユリアナにひよこカナリアを同行させて、その先で聖歌を振る舞う必要があれば、ひよこカナリアを起点に影移動をし、サクッと帰ってこれる。


 またダリアローズを貶めようとする可能性があるため、ユリアナは特別な手法で喉を焼かれ、声は出せなくなった。

 聖歌を歌えなくなった聖女である。犯罪者であることは上層部だけに知らされて、公にはならない。どうやら、教会はユリアナをまだまだ使い潰すつもりらしい。




 レオナルド第一王子は継承権を放棄し、教会へ入ることなった。元々、王族の数代に一人、神官として入る慣習がある。本来マーガレット王女の予定だったのを、レオナルドが替わることとなった。妻が小聖女のため、彼女の世話役として。


 ダリアローズに何か如何わしい薬を盛ろうとしたことは、マーガレット王女の知るところとなり、『種の管理よ』と性欲減退剤を投与されることとなった。まだスペアとしての役割は残っているので断種まではされていない。


 あの夜返り討ちにされて以来、ダリアローズの闇魔法を恐れて、悪夢に魘されているらしい。あれだけ熱心だったユリアナとの仲も最悪らしいが、離縁は許されず、愛人を作ることも許されない。教会では魔除けも制作しているため、彼にとっても最高の環境のはずだと、マーガレット王女は笑った。










 一方、港町に取り残されたダリアローズとトリスタンは……。


「俺もこの領地で育ったので、負けていられません」


 予想より早く仕事が無くなったため、ダリアローズの個人所有をしているコテージへ招かれたトリスタン。ダリアローズが若い漁師たちと仲良くなったと聞き対抗意識を燃やしたのか、海へ潜ると言う。


「きゃっ……す、すごい身体だわ……」

「……オレの方が凄いと思うのだが、お嬢」

「そ、そう?でもほら、シドは見た目通りだから……。トリスタン様は、なんというか……」

「ギャップですよね?不肖ミミ、分かりますよぉ。あの綺麗なお顔と男らしい身体が意外すぎて、たまらないんですよねぇ」

「……ミミ、もう!恥ずかしいからやめて!」


 小声でこそこそ言い合う間にも、トリスタンは潜っては仕留め、潜っては仕留めている。やはり氷魔法の威力が桁違いだからか、本職の漁師が慄いているほどだ。

 半刻も立たずに生簀をいっぱいにしたトリスタンに、あることに気付いたダリアローズが近付く。


「……トリスタン様。もしかして貴方、わざわざ潜らなくても獲れるのではなくって?」

「ふふ、バレましたか。でも、この方が、貴女の視線を貰える気がしまして」


 水の滴るトリスタンは、ダリアローズの手を取り、自身の濡れた胸へと触らせた。思わず生唾を飲む。あざとい。あざといが、ダリアローズは釣れた。

 硬く、しかし、弾力のある胸の筋肉。それから、すぐ上にある美貌。匂い立つような色気のせいか、てりつく太陽のせいか、くらくらと頭が茹ってくる。


「……ねぇ。わたし以外の女に見せないで。それから、貴方は余所見してはいけないわよ?」


 それは、ダリアローズの精一杯の愛の言葉だった。素直でないその言葉は、トリスタンにとってはご褒美。にやりと笑うと、さらに距離を詰めていく。


「俺の獲ったものは、全てロゼに捧げましょう。いえ、捧げさせて下さい。……改めて、式も挙げなくてはいけませんね。貴女の花嫁姿を見なければ」

「……わたしが、トリスタン様に尽くすとは限らなくってよ。尽くしてくれるのは構わないけれど」

「はい。貴女は俺の妻で、貴女に尽くす権利を持つのは、俺だけ。他の誰にも譲りません。それで十分です」


 身体を引き寄せられて、額へ、ちゅ、と口付けを落とされた。薄い柔らかな唇の感触だ。

 ダリアローズは未だかつて、口説かれたことがない。女帝の貫禄を醸し出すダリアローズに、レオナルドはもとより、他の令息たちは恐れ慄き、平伏し、あるいは、こそこそと逃げる。

 そのため、トリスタンに真正面から色仕掛けをされて、敵うわけがなかった。それも、かつての自分――――推しを推していた時の熱量をひしひしと感じて、狼狽える程。陥落しきっているのに、目を合わさないよう顔を背けるしか出来ない。


(トリスタン様の胸も、ドキドキしているのね……、わたしに、負けないくらい……ああ、こんなに近くては上手く息が吸えないわ)


 ふと影が出来て、顔を上げた。トリスタンの顔が間近にあるのに気付く。は、と息を止めた瞬間、唇にふに、と柔らかいものが当たった。

 ダリアローズを覗き込むトリスタンの瞳には、焦げ付くほどの熱がちらちらと浮かんでいた。


 食われる。


「ロゼは、どこもかしこも甘いですね」

「…………塩、っぽいわ……」


 ダリアローズはぷっつりと意識を手放した。あまりにも、刺激が強過ぎた。

 だが今度こそ、トリスタンは彼女の体をしっかり抱き抱え、怪我一つ負わせることはない。


(かーわいい…………、ロゼはこんなに可愛いのだと叫びたいような、知られたくないような……うーん、やっぱり知られたくないです)

 なんて、トリスタンに思われているとは知らない。












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