虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

文字の大きさ
32 / 95
第二章 二回目の学園生活

19 マルセルク side

しおりを挟む

 マルセルクは突然、目の前が真っ暗になった。足元から地面が崩れて無くなっていく。

 マルセルクの有責で、知らぬ間に、リスティアから婚約破棄されていたのだ。
 違約金は少しでいいと言われたらしい。父は『そんな訳にはいかない』と多額の違約金を用意するよう指示しながら、失望の目をして自分を見ていた。

 それらの情報が、訳のわからない記号のように自分に入ってすり抜けて行く。一体、どういう、ことなのか?










 落ち着きのない側近に胸騒ぎを感じて問い詰め、慌てて王城へ駆けつけたマルセルク。
 まさか、愛するフィルと婚姻、などという。そのとんでもない誤解を解くため、フィルの扱いをリスティアに見せてやった。どれだけ愛がないかを一目で分かるだろうと思ったのに、むしろリスティアから拒絶される結果になってしまったのは誤算だった。リスティアはまだ経験もない清い身で、刺激が強すぎたのだ。

 忌々しいことに、フィルはあの後、父の配下によって保護され、マルセルクも知らない場所に隔離されることとなった。


(クソッ!あの場で殺しておけば良かった!)


 自ら進んで関係を持っていたことが致命的で、出産後子供が王族の血を引いていようがいまいが、一度は結婚しなくてはならない。

 避妊薬を口にしていたのだから、十中八九、子の父親はマルセルクでは無いはず。
 だからフィルは出産後、子供と共に実家に返すなり離縁なりすればいいが、一度婚姻歴があったことは、消せない。

 マルセルクの輝かしい経歴の、汚点。

 次の婚約も、フィルの赤子の血筋判定後でなければ打診も出来ない。その頃には学園を卒業し、多くの者が結婚しているだろう。そして王太子となる者の公的な妻は、処女でなければならない。

 激怒した父に、フィルの出産までに他の正妃候補を探して口説き落として来なければ、王太子には別の者を指名すると言い渡されてしまった。

 婚約を打診せず、匂わせるに留めながら、フィルという汚点付きの男が、リスティア以外の次期王太子妃に相応しい者を口説く?


 不可能だ。


(私が愛しているのはリスティアだけ。リスティアが、私の愛を素直に信じてくれなかったから……!クソッ、フィルのやつがいなければ!)












 リスティアは、あの公爵家から離脱し、別の家の養子に入るらしい。

 そうすれば、自分以外のアルファから、求婚され、婚約、婚姻をし……抱かれるのだろうか。


「で、殿下……」

「黙れ!だまれ……っ!出ていけ!その顔を見せるな!」

「は、ハヒィッ!」


 悪友だと思っていた、情けない顔の側近二人が出ていく。

 奴らは、フィルに肩入れし過ぎていた。マルセルクを愛しているリスティアならば、婚約を継続するために子供の存在を隠そうとする――――つまり、脅すネタが出来たと考えていたらしい。それを使って何を目論んでいたのか、知る由も無ければ興味もない。

(リスティアを失う、なんて……)

 ボキッ!

 手元には折れた万年筆。溢れたインクがマルセルクの手を汚していた。

 汚点。消せないシミ。


「!?」


 その途端、頭痛が走った。
 走馬灯のように流れる記憶。

 違う!

(これは……なんだ?)

 リスティアと結婚した後の記憶や感情、など……ある訳ないのに、妙なリアリティを持って脳に刻まれていく。














 ――――――――――――――

 結婚初夜。


 愛しいリスティアが可愛くて綺麗で、頭が破裂しそうになる。月の光にすら恥じらう花のように、俯くリスティアは、正しく妖精のような侵し難い神聖な身体に思えた。花紋はフェロモンと同じ桜桃の蕾で、フィルより余程大きく身体に入ったそれを目に焼き付ける。

(なんて美しい。まるで神の寵愛を受けた器のようだ……)

 壊さないよう、荒ぶる欲望を必死に我慢した。優しく、慎重にしなければ。

 すると……少し入れただけで、可哀想に、痛みをこらえていた。痛いという言葉を必死に出さないよう、唇に傷までつけて。

 そうだ、相手はフィルとは違う、深窓のオメガ。
 そういえばフィルは常に万端の状態で、もちろん初めてでは無いからいきなり入れても痛がったことなど一度もない。失念をしていた。

 十分に解したつもり・・・だったのに、まだまだ手加減をしなくてはいけなかったのだ。
 しかし気が昂って治らない。このままではリスティアに嫌われてしまう。
 仕方なく、手早く気を放つ。そそくさとリスティアから離れ、フィルを抱いて発散した。


 その後、めちゃくちゃに抱きたくなる欲求はフィルで解消した。リスティアにまた痛がられてはいけない。自分の技量にも不安が出てきたが、フィルを抱くと泣いて善がり、それを見て安心した。

 発情期ならば、と抱くと、やはり思った通り、リスティアはたっぷりと濡れて緩んでいた。それでもやはり狭すぎる内部に、慎重に押し開きながら、リスティアを愛でた。それでも痛みに顔を引き攣らせたリスティアに、一瞬脳裏に浮かんだ言葉。


(……面倒だな)


しおりを挟む
感想 184

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...