虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

30

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 接触した少しの指先から、ノエルの魔力がリスティアに送り込まれてくる。

 優しい、温かなミルクのような。

 微睡みたくなる心地良さ。
 好き。これは、とても、安心する。

 背中は甘美にゾクゾクしだし、お尻の中がキュッと反応した。マズいと頭の片隅で考えながら、リスティアの方からも、微弱で繊細な魔力を返す。


「あっ……」


 ノエルがなまめかしい声を上げ、ぶるりと大きく震えた。
(な、何?まさか、ダメだった……?)


「の、ノエル……?」

「あっ、これは、ああ、はぁ、……失礼っ!」


 ガタッ!
 バタバタと立ち上がったノエルは、そのまま洗面室へ駆け込んで行った。チラリと見えた顔は、見事に真っ赤に茹だっていたと、思う。


「……え?」


 ぽつんと残されたリスティア。熱い身体を持て余して、もぞもぞしているうちに、だんだん落ち着いてきた。
 体液を介していないためか、魔力が抜けるのも速い。それでもしっかりと、魔力の相性はとても良いということが分かった。


 陽だまり、ふわふわの雲。


(……全然、違う……)

 そんなノエルの優しい魔力を、リスティアはとても気に入ってしまった。

 思い返して感動に浸っていると、ようやくノエルが帰ってきた。

 その顔はすっかり元通り。……いや、艶々しているような気もする。少し赤みの差した頬をしており、ほうっ、と色っぽいため息をついていた。


「それで、その……ノエル。何も言われないと僕、不安なのだけど」

「これは……っ!すみません。その、あまりに良すぎて、余韻に浸ってしまいました」

「よ、良過ぎた?」

「はい。うっかりそのまま襲いかねなかったので、離れて不安にさせてしまって申し訳ないです。とても……甘美で清らかな、それでいて本能を刺激してくる感覚を味わいました」

「そ、それは、僕の感覚とは違うね。ノエルのは優しくて温かくて、安心するようなものだった。あ、その……全身が、気持ち良くなるような」

「す、ストップして下さい!ああ、ああっ!もう、どうしてまだ……!!」


 珍しいことに、ノエルは大層狼狽え、髪をくしゃくしゃにかき乱していた。何かと闘っている形相だ。
 とはいえ、多分自分が原因なのだと思うと、可愛い。

 ホッとした。マルセルクの時のように、吐き気がするなんてことになったら、本当に辛い。

(そう思ったら、マルセルク様はあの時ショックを受けたのだろうか……それは、確かに可哀想だったかもしれない)

 切なさを感じながらも、もうリスティアは前に進みたい気持ちでいっぱいだった。

 次こそは、失敗したくない。


「その、ノエル……、そしたら、僕、アルバートとも、お試しをして、いいのかな……?」

「あ……そう、なりますよね」


 リスティアがそう言うと、ノエルはスッと素面に戻った。少し落ち着いたようで、お茶もテキパキと淹れ直してくれる。ノエルのお茶はとても美味しい。彼の丁寧な性格が出ている。

 沈黙が気まずさを増幅させる。やっぱり、二人とも試してみたいなんて、おかしいことだ。
 そう思い、恐々と様子を窺う。


「その、嫌じゃない……?ノエルともしたのに、アルバートとも、だなんて」

「嫌……?嫌というより、なんでしょう、むしろして欲しいです」


 そんなものなのだろうか。
 腑に落ちなくて首を傾げていると、ノエルは穏やかな表情だった。


「アルバートもそうだと思いますが、私とアルバートの全てを知って判断して欲しいのです。アルバートの良い所を、私は知っているので……リスティアにも知って欲しい。ああ、ただ、アルバートはあまり魔力操作は巧みではないので、工夫は必要ですが」

「全てって……難しいな。二人は幼馴染だから、長年一緒にいたのでしょう?」

「はい、ですが、その年数分濃密な時間を過ごせばいいことです。それでアルバートが選ばれても………………選ばれたら…………………………」


 ノエルが胸を抑えて苦しみ出す。淡い黄緑の瞳に涙が浮かんでいる!
 背中を摩ると、見た目よりよほどゴツゴツした背中に、胸の高鳴りを自覚する。
 リスティアが背中の筋肉を確認している事など気付いていないノエルは、懸命に言葉を絞り出した。


「第二の夫として名乗りを上げます。アルバートにも認めさせます。二人がどこへ逃げようとも絶対に探し出して貴方を口説く。……諦めろというならリスティアの手で死にたい」

「……病んでないかな?ノエル。心配……」

「優しい……だから、やはり、好きです。リスティア」


 頬に軽く口付けを落とされた。リスティアは頬を紅薔薇色に染めつつ、ノエルをぼうと見つめていた。


(ノエルは、少し過激な一面もあるのだなぁ……そんな、重ための愛は、嫌いじゃない……)




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