虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

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 館主の話から、人気男娼か娼婦、それも抱かれる方だけが、『色狂い』という状態になると分かった。そして末期には突然、死んでしまう。

 娼館の深淵を覗いてしまったようで、リスティアはゾクリと鳥肌が立った。

 なぜなら、娼館は問題視していない。むしろ娼館にとって、売り上げに貢献する従順な商品。
 それは確かにそうだとしても、リスティアの目には異常だらけに見えた。

 大錬金術師のレポートを思い出す。男爵Aと関係していた人気男娼が、『色狂い』の状態だったとしたら。
 その妻Bに、Aを介して何かが感染した。
 その可能性が濃くなる。

 そう仮定すると、フィルの相手をしていた令息達について調べなくてはいけない。令息達のためではなく、その未来の伴侶が、かつてのリスティアの受けた苦しみを受けてはいけないと、強く思ったからだった。










 リスティアは王城で働く、薬師団長と会う約束を取り付けた。

 次期王太子妃教育を受けていた時から、薬師団長には発情期の抑制剤を作ってもらっていたため面識はあった。あれこれと薬について興味津々に聞いていたおかげか、孫のように可愛がられていたのだ。

 勿論その場にはノエルとアルバートも来たがった。しかし、これから話すことは一回目の記憶の話にも触れてしまう。

 二人には、マルセルクと婚姻した後の事を話したくなかった。愛した男に受けた仕打ちを知られたくなかった。
 最期までみっともなくマルセルクに期待して、結局は惨めに死んだなど、恥部でしかなかった。

 二人は一緒には来たものの、聞かせないようちゃんと防音魔術をかけてから薬師団長と話すことにした。


「薬師団長様。気になる症例があるのですが……」


 リスティアは大錬金術師の未解決レポートの写しと、先日娼館で聞いたことを纏めたレポートを取り出し、薬師団長に説明する。


「……以上のことから、殿下の魔力の質が変質しているか、何らかの影響を受けている可能性が否定しきれないと考えております。あの男爵令息はかなりの人数を経験していますから」

「これは……っ、はぁ、なるほど……!ああっ、そういうことか……!リスティア様!これは大変な事ですよ!」

「えっ……あ、はい。ですがまだ、可能性の段階なので……」

「いやはや、これが……そうでもないのです」


 薬師団長は一層声を低く落とし、屈むように息を潜め、防音魔術がかかっているか念入りに確認した。


「もうリスティア様は婚約者では無くなったので言いますが……先日、殿下に呼ばれた男娼がいまして。以前も関係のあった者だったのに、行為の途中で嘔吐し倒れたのです。まさに、この大錬金術師様のレポートの通りではないですか!」

「えっ……それは、また」


(相変わらず、随分とお元気なことで……)

 聞けば聞くほど幻滅するマルセルクの行動に呆れてしまった。それも、娼館にお忍びで行った後泣きついてきたことも知ってしまった。『婚姻なされていたら、リスティア様も大変な目に遭われていたでしょうね……』と同情までされてしまった。


 本来、患者のプライベートの情報を話すのは御法度なのだが、薬師団長は『そもそもその本の持ち主ということは、リスティア様が大錬金術師になりうる器ということです。未来の大錬金術師様に、必要な情報は渡さなければ』と舌先なめらかに教えたのだった。


「早速王城薬師団長の名を使い、調査をすることにします。全ての娼館に対して、ですね。もし未知の病があったとすれば、大錬金術師様にいい報告も出来ましょう」

「えっ……団長は、大錬金術師様と面識が?」

「いいえ、残念ながら。しかしこういった情報があれば、あの方とお知り合いになるのにいい手土産になるかと。下心です」


 そう茶目っ気たっぷりに言う薬師団長が、若返って見えるほど生き生きしていたため、リスティアはこの件をお任せすることにした。

 今のリスティアでは、自分で調べるのに十分な権力を持たない。それに娼館側から抵抗を受ける可能性もあるため、任せた方が良い。きっとすぐに、フィルの相手をしていた令息達にも調査の手が回ることだろう。


 リスティアの手からチェチェが飛んで、薬師団長の手に頬擦りをするのを見れば、安心して任せられると確信した。












 王城から帰ろうとした時、リスティアは侍女たちに呼び止められた。その中には、アンナとサラシャもいた。代表してなのか、サラシャが進み出てくる。


「ヴィクトル伯爵令息様。この度はご心痛お察し致します。これは私どもから、少しでもお心を慰められればと思い、皆で作りました」


 サラシャ、と言いかけて止めた。まだこの時は名前を呼ぶほどの関係ではなかった。リスティアの次期王太子妃の教育中、たまに休憩で世話をしてくれる侍女のうちの一人。

 手渡されたものは、滑らかな茶色の皮のブックカバーだった。買ったと言っても良いほどの出来だ。
 栞は繊細な金と白のレース。レースの好きなリスティア好みだ。


「すごい……これを、作った、のですか?」

「は、はい。僭越ながら、手分けをしまして……」

「とっても素敵な贈り物です!ありがとう……!その、僕も貴女たちとの時間が終わってしまったのを、残念に思います」


 サラシャとアンナには、特に世話になった。心配も酷くかけたし、労わる言葉もたくさん貰った。それら全てが一回目の事で、今感謝を伝えても不自然になるのが口惜しくてたまらない。

 潤む瞳を堪えようとしているサラシャと、残念そうな拗ねた口をしているアンナに、しっかりと目を合わせる。それだけで何か伝わったのか、彼女たちは何度も頷いていた。


「ええ……一同皆、貴方様に仕えるのを楽しみにしておりました。しかし一方で、貴方様が幸せになれるのか不安にも思っていたので、安心しております。どうか、幸せになって下さいませ」

「本当に、ありがとう。僕はあなた達に何か出来た事もなくて、申し訳ないけれど、僕もあなた達が気持ち良く働けるように祈っているよ」


 胸に手を当てて感謝をすると、皆が顔を赤くして目を潤ませていた。良き人たちに恵まれていたのだなと、改めて思う。リスティアが得意な分野で、いつか恩に報いられればいい。


 一連を見ていたノエルとアルバートは、リスティアの人望に感嘆し、恋人を自慢するように胸を張っていた。そんな二人に微笑みかけて、一緒に城を去る。

 ノエルはリスティアの横顔を、何か言いたげにじっと眺めていた。



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