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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟むミカの言う『婚約が無くなって困っている』友人は複数人いた。
何をどう聞いたのか、ノエルやアルバートと親睦を深めたい生徒たちが、二人に誘いをかけるようになった。
婚約者もいないオメガ令息たちのため、普通にアピールすることに問題はない。ないのだが、オメガというだけで縁談は舞い込むはずなので、どこかしらに問題のある令息たちだと明白だった。
例えば、理想が高い。我儘を無理やり通そうとする、など。
「今日は私がついていますから。アルバートは……」
「はい。お誘いがある、のだよね……」
放課後、迎えにきたノエルは少し申し訳なさそうに眉を下げていた。ミカの"相談"を受けた日から続く、怒涛のお誘い。二人がどれだけ隠そうとしていても、リスティアは気付いている。
二人は極上のアルファだ。嫡男でなくとも。
婚約していない令息で学園に残っているのは、皆フィルと一線を越えた者ばかり。あとは学園の外に目を向けるしかないが、身近にこんな素敵なアルファがいれば、二人に気に入られる為に必死にもなる。
マルセルクも残っているというのに誰も近寄らない。今なら低位貴族出身でも妃候補になれるかもしれないのに。
皆、マルセルクが未だリスティアに心を残していることを知っている。それを差し引いても、王太子妃になるには厳しい教育を受けなくてはならない。愛してもいない、厄介な愛妾もいる男のために、頑張れるかどうか。
(それは分かる。けれど……皆、思ったより現実的なんだな)
リスティアがマルセルクの隣にいた時は、群がるように慕われていたのに。今や、どう転ぶか分からない球を避けるかのように散り散りだ。
(今度はノエルとアルが良く見えるって事……?全く、嘆かわしい)
渡り廊下を歩いていると、視界の端にアルバートが見えた。ミカが何か言って頬を赤らめていて、アルバートの微動だにしない背中だけしか分からない。
「アル……」
「リスティア、ちょっと聞いてみましょうか」
「えっ?」
「大丈夫ですよ」
秘密ね、と言うように唇に指を当てて、ノエルは風の魔術を起動する。ふわりと風に運ばれた二人の会話が聞こえてきた。
『で、ですから、一度だけでもいいので劇に行ってあげて欲しいのです。でなければお互いの事、分かりませんよね?リスティア様だけに決めるのは、まだ早いと思いませんか?いろんな子がいるのですから、まずは色々と知ってください』
『……』
『ほんの少し、遠出するだけです。リスティア様にはキールズ様も、殿下にも慕われているじゃないですか。あの子には、誰もいないんですよ……?』
『……』
『……で、では、次の休日、お昼前に待ち合わせということにしましょう。チケットはこちらでおさえていますから』
アルバートの声が全く拾えないのは、そもそも言葉を発していないのだろう。動かない背中は、作りもののように見えてきた。
と思ったところで、ようやくあの、低い声が聞こえてくる。
『……もう、気は済みましたか』
『はい?』
『私の時間の使い方は私が決めます。こうして一度話してみてもやはり時間を無駄にしたと思いました。貴方も私に構っている時間はすべて無駄になります。では』
『えっ』
アルバートは素早く身を翻した。焦ったミカは手を伸ばしたが、アルバートは既に寮の方へ走り出していた。瞬発力の無駄遣いをしている。
「すごい……早い」
「ね?アルバート、珍しく早口でしたね。あれは心底早く話を終わらせたいとしか思っていないでしょう」
「そっか……」
「彼は何がしたいのでしょう。異常なお節介ですね……」
後に残されたミカは、困ったように眉を下げて立ち去っていく。お膳立てが上手くいかなかったことを報告するのだろうか。
(ミカ様には悪いけれど、本当にやめて欲しい……)
リスティアたちは、この国では婚約者になれない。恋人の証は指輪で示していても、貴族社会では地味な指輪というだけ。いつでもこの関係は破綻する。
ノエルやアルバートは、可憐な彼らに迫られて、何も思わないのだろうか。それこそ、リスティアを独り占め出来ないのならば、愛想を尽かして去っていく可能性もあるのだ。
「ね、ノエル……ぐらっ、と来ないの?その……」
「はい?」
「僕は、結構大きい方だし、その、面倒くさいところもあるし……」
「んん……、リスティア?」
ノエルに指を絡められ、立ち止まった。渡り廊下はしんと静まり返り、二人だけ。顔を見ようにも、リスティアは見上げられなかった。どんな顔をしたらいいのか分からないのだ。
「優柔不断な僕より、彼らは……」
「ストップ。リスティア。まさか、諦めてなんて言わないですよね?無理ですよ?リスティア、私を貰ってくれるのでしょう?返品不可です、ほら、その証拠に指輪だって肌身離さずつけています。もうこれ返しませんからね、指だけになっても」
「なんて物騒な。もう、そんな気はないよ!僕の方はノエルも、アルも、す、好きなんだ。だけどやっぱり……罪悪感があるから、不安になってしまうんだよ」
ぎゅ、と抱きしめられる。ノエルの身体にすっぽり収まったリスティアは、とてつもない安堵を覚える。不安など、溶けて流れ出てしまうようだ。
「大丈夫です、リスティア。ほら、私とあなたはこんなにぴったりじゃないですか。彼らへの断りも一巡すれば、次からは容赦なく脅……関わらせないようにしますからね」
その言葉通り、次の週には彼らの熱心な誘いは鎮火した。
何があったのか、リスティアは詳しくは知らない。
ほっとする一方、ただ、ほんの少し気にかかるのは――――ミカが遠くから、温度のない目で見つめてくること、だった。
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