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元嫁ぎ先の現状
しおりを挟む嬉々として迎えに来た大使夫人に引きずられつつ、久しぶりに領事館へと足を運んだ。
「りのさんにはこのお色がいいと思いますのよ」
「……お任せ致します」
ドレスのことなぞ、全くもってわからない。結婚していた時、一度どこぞの領事館に連れて行かれた時に着せられたくらいだ。……あの時は苦しかった。
そして今回も苦しい。ドレス用下着はどうしてこうも苦しいのだと言いたくなる。
着替えも終わった後、りのは先日別荘近くで起きた出来事を話した。
「あら、だいぶ遠出なさっていたのね。少し離れたところに英国貴族であるイーストン子爵様が所有している別荘とビーチがございますの。日英同盟のこともあり、仲良くしていただいておりますわ」
「……軍に所属なさっていらっしゃると」
「ですとご子息様ね。確かお二人とも陸軍にいらっしゃるという話ですもの」
その方に向かって日傘で攻撃とは、と楽し気に大使夫人が笑いながらも、「別荘にいらしていると知っていれば、招待状を出しましたのに」と残念がっていた。
「さすが士族と言ったところですわね。……おひとりで渡航されて無事なあたりで大体想像がついておりましたけど」
大使夫妻は華族出身だ。武芸は嗜み程度なのかもしれない、そんなことをりのは思った。
当然ながら、りのは洋式の挨拶は苦手である。やはり着物がよかったと思ってしまうが、普段着用の着物しかない。こればかりは仕方ないのだが。
一つ分かったことがある。
りのは大使夫妻の娘、もしくは孫娘だと思われているらしい。同じ日本人で領事館勤めでない者に至っては「嫁ぎ先を追い出されてきた」とすら思いこんでいる者すらいた。りのが元「烏谷商会」縁の者だと分かると、態度は一変した。それどころか、先代店主の嫁だと分かると、同情すらされた。
「……そこまで酷いと思いませんでしたわ」
一人になり、ぽつりと呟いた。
烏谷商会自体が、かなり危ないというのが露骨に伝わってきた。一体何をした、姑と義弟。夫が生きていたらと思ってしまう。
後日、姑と義弟が独断で夫を無縁仏として扱ったという事実を知ることになる。それは周囲に爪はじきにされる、何せあの店は夫の両親の名前があってこその商会なのだ。
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