満たされぬ願いとエーゲ海の淑女

神月 一乃

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リチャードの驚き

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 休暇をのんびりと別荘で暮らす、リチャードのもとへ友人が訪れた。この男、現在ギリシャ駐在武官として赴任しているため、クレタ島にリチャードがいると分かれば、毎度のことながらやって来る。
『いやはや、楽しいことがあったよ』
 そう笑って教えてくれたのは、日本領事館での出来事だった。
『大使夫妻のお嬢さんかと思いきや、未亡人だよ!』
 それを聞いたリチャードは、先日見かけた少女を思い出したが、未亡人ということは、違うと即座に否定した。
『驚いたよ、日本人は若く見えると聞いていたけど、彼女は噂以上だよ! しかも日本人同士の話を繋ぎ合わせると、とんでもない家に嫁いだようだ』
『……継子を疎んじて己が子に家督を継がせようとするというのは、我がイギリス貴族にもよくある話だろう』
『リッチならそう言うと思ったよ。ところがどっこい、彼女は嫁ぎ先の姦計で帰国できなくなって、足止めされていたというんだから驚きだよ』
 今は戻れないじゃなくて、戻らないだけどね。そこまで言うあたりで、大体のお家騒動を把握しているのだと悟った。
『だと、その方のお嬢さんかな? 僕も会ったよ』
『彼女、子供いないそうだ』
『ということは小間使いか』
『いや、供もつけてもらえず、追い出される形で一人渡航してきたという話だよ』
『?』
 とするならば、あの少女は一体誰についてきたというのか。

 夜這いではないという証言のため、友人を連れて日本大使夫妻が借りている別荘へ、向かうことにした。

 一応、非常識にならない時間に訪ねたものの、人の気配はない。
 周囲の様子から誰かが管理しているというのは分かるのだが。
『本当にいるのかい?』
『いる。僕は会った』
 念のためと思いノックを鳴らすが、もちろん返事はない。
『出直すか』
 一応訪れた人間がいると分かるようにだけはして、別荘へ戻ることにした。

 ……のだが。大使夫人と顔を合わせるとは思いもしなかった。

『ようこそ。こちらにいらしていると知っていれば、招待状を出したのですけれど』
『知っていたのはイギリス領事館勤務でも限られた人間だけですし』
『そうでしたの。りのさんから聞いて、わたくし共も驚いておりましたわ』
『ミセス・リノ?』
 リチャードは思わず食らいついた。あの少女に「ミセス」という言葉を使うということは、だ。
『既婚者なのかい!?』
 日本とは恐ろしい国だ。あんな幼い子が……。
『ミセス・リノは未亡人ですわ。それから、本人は訂正しないでしょうから、あえて申し上げますが、二十歳です』
『はぁぁぁ!?』
 友人と二人、声が被った。

 つまり、少女=りの=未亡人。そしてれっきとした成人女性。因みに友人は話を繋ぎ合わせて十八歳くらいだと想像しており(聞かなければ十二、三だと思っていたらしい)、リチャードも十歳か、いっても十二歳くらいだと思っていたというのが、相手に知られた。
 一つだけ、言い訳をさせてもらえるのなら。りのはあまりにも小柄だ。それもあったとだけ付け加えておく。

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りのの設定身長は百四十センチです。もう少し小柄にするか迷ったのですが、そのあとのことを考えると、あまり小さいのもねぇ? となりまして。
余談ですが、大使夫人は百五十一センチ、大使は百六十三センチ、リチャードは百七十八センチです。

因みに、身長があまりにも小さいと出産も大変なのだそうですよ(曾祖母の実話より)
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