達観した紫の上と、年上旦那様

神月 一乃

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天高く陰謀巡る秋

麻帆佳からの選択肢ですが

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 それにしても不思議なのですが、私ですら知っている厳原グループ。偉い人が退任するくらいの収賄って一体なんでしょうね。よほどのことがない限りトカゲの尻尾切りで終わるような気がするのですよ。
「……色々重なってね。一番大きかったのは、某品物に対する関税撤廃を阻止するための収賄と、それに付随する色々」
 最近は以前にもまして、旦那様は私の考えていることが分かるようになったみたいです。
素晴らしい。……私は旦那様の考えていることなんて、さっぱり分かりませんけど。
「それだけじゃ、引責しませんよね。まさかと思いますけど、今回みたいに・・・・・・脅したのも含むんですか?」
「それだけで理解して欲しくない。関税撤廃促進派への嫌がらせと脅迫。中には人質を取ったのもあるって父からは聞いたけど」
 よく、グループが崩壊しなかったこと。思わず呆れてしまいますよ。
「うん。園田とか、古くからいる人たちが頑張ったからね。園田が指示したとして、厳原グループを懲戒解雇、その責任を取ってこの人が引退したって筋書き」
 うん。最低です。この人が「自称」高貴な人なら、私は下賤でいいですよ。同類になりたくないです。
「今の、わざと口に出した?」
「もちろんですよ」
 どこまでもこういう輩にはダメージを与えたいんですっ!
「この下賤の身で儂に逆らうのかぁぁぁ!!」
 あーあ。これ以上血圧上がったらまずいんじゃないですか? 御年召されているようですし。

 仕方ないです。さっさと帰りましょうか。
「旦那様。私からの選択肢です。その一、この方の望むように私と離婚して、気に入られる方と再婚なさる。……ここにいる皆様がそれを望んでいるようですね。
 その二、とりあえずこの方を締めて、今回の話し合い自体をなかったことにして、園田さんを連れて帰る。……これが理想だと思いますけど、締めても懲りなさそうなんですよね」
「……ま、麻帆佳」
「選択肢はまだ終わってませんよ? その三、会社を辞めて他社へ就職。私と離婚するか否かは旦那様にお任せいたします。……厳原にかかわりがあるからと、色々大変でしょうけど。おそらく私は扶養でのんびりなんてできないでしょうね。
 その四、同じく会社を辞めて独立。これも離婚するか否かは旦那様次第です。
 その五、……これが一番難しいと思いますが、仕事辞めて海外で別の仕事を見つける」
 うん、我ながらいい選択肢を旦那様に叩きつけれましたよ。

 えーっと、旦那様? どうしてそんなに固まってるんですか?おーい。


「どの選択肢を選ぶにしても、麻帆佳とは離婚しない。それは決定事項だから、その一は却下」
 やっと復活したと思ったら、いきなりそれですか。
「で、その二。麻帆佳が手を汚す必要はないから却……」
「旦那様、『締める』の意味が違います。とりあえず二度とこんな馬鹿げたことができないように『お話合い』をするだけです」
 明日さんとかも巻き込むことになりそうなので、ちょっと大変ですが。
「……うん。言いたいことは分かるけど、面倒。なのでとりあえず却下。で、その三だけど、基本難しいと思うんだ。多分この人が圧力かけるだろうし、厳原と関係のないところに行こうとすると、先ほど言った収賄の件で色々マスコミにも他社さんが突っ込みを入れられる可能性もあるからね」
 まるで私じゃなく、あちらの老爺に話しかけているみたいですよ。
「だから私としては、その四とその五の折衷案がいいな。麻帆佳が高校卒業するまでは日本にいて、卒業したら海外に一緒に行く。起業したのを半年で軌道に乗せて、海外で展開」
 それは思いつきませんでした。ってか、離婚しないというのは決定事項なんですね。
「とするならば、善は急げだ。明日にでも退職届だそう!」
 え? もう決定ですか?
「だって、この連中集めたのって、麻帆佳を凌辱するためってのもあるみたいだからね。そんな事、許さない」
「戯けがっ!! 能無しが厳原を出て何が出来ると思っておるのだ!? 最低限の人脈すら……」
「旦那様っ!!」
 やっぱり、旦那様もこの人に幼いころから怒鳴られていたんでしょうね。顔色が変わっています。
「旦那様は、慕われているじゃないですか! 明日さんにも高部さんにも、藤城さんにもっ!!」
「ま……ほか?」
「それに克人さんだって! 克人さんが仕事の悩みとかをぶちまけるって凄いんですよ!」
 私は事実しか言ってません。克人さんにも言われたのですよ。「あの人、麻帆佳ちゃん以外の周囲はよく見ている」と。
 私だけよく見れないのは何故なのか、口を割ろうとしませんでしたけど。
「それは旦那様の人柄と能力ですっ」
 ……というか、どうして私がこんな慰めをしなきゃいけないんでしょうか。

 この老爺のせいですね。
まったく、怒鳴ることしかできない人が口出ししないでください!

 とりあえず帰りましょう。そして、今後の解決策を模索しましょう。


 こんなことがあった翌日。
この話が厳原の方々にも伝わっているわ、明日さんから撫でて褒めてもらえるわ、忙しい日でした。

 旦那様が仕事を辞めて独立起業するのは、それから数日後。従業員は明日さんと藤城さん、そして克人さんというメンバーでした。
 そして、このマンションの同じフロアに、千夏一家と花音一家もお引越ししてきました。

 私への脅迫として、二家族が危険なのだそうです。どこまで下種なんでしょうかね。


 で、何故か旦那様が風吹さんから説教食らっておりました。……フロア廊下で正座って……と思ったのは内緒にしておきます。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

本当は、龍雅さんが到着するのは、凌辱されるギリギリのところという設定でした。あまりにもドアマットヒロインっぽくて悩んでいたのですが、近況にも書いた通り、龍雅が動くのが早かったため阻止されました。
千夏の両親は早期退職することに。「貯蓄もあるし、家も売ればこれ終わった後田舎でスローライフ出来るよね」という考えのもと。そのころには千夏は大学生だろうし、問題ないなーというお人。花音宅は岡さんにお店を託しております。同じように田舎に引っ込んで葬儀屋か結婚式場で花束でも作ろうかと考え中。
貴重品持っての避難です。生活費は龍雅持ちです。
個人資産はなりに持っておりますので、痛くも痒くもなかった模様……
もちろん、そのことをあの老爺は知りません。「無能」という烙印を押したため、その辺りは無関心。あとでそのことを知ってまたしても怒り狂いますが、厳原に関係のない銀行で預金をしていたため、こちらも問題なしですww

明日さんも、藤城さんも龍雅のいない会社に意味はないと退職。高部さんも同じことを思ったのですが、家族を優先しました。で、秘書課で後身を育てる羽目に。残ったために苦労することになります。
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