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木森林木林

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ぼーいみーつがーる

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 しまった・・!

 貴族を殴ってしまった。

「そいつをひっとらえろー!!」

 時は数分前にさかのぼる。

 俺はある貴族に代々奉公する家計に生まれていた。

 だから、この首都に着て大きなお屋敷で住み込みで働いていたのである。

 そしてある日、そうこの日、お使いを頼まれて市場に来ていたのである。

 その帰りにそれを目撃してしまった。

「ほら!こっちにこい!!」

「いやっ・・!!」

 首輪をつけた耳の長い種族。話にしか聞いたことが無かったが、あれはエルフという種族らしい。それが見すぼらしい服を着て首輪を丸々と太ったデブに引っ張られていたのである。
 
 あのデブが来ている服はだれがどう見ても一級品であり貴族にしかつけることが許されないものだった。

「こんなところで何を・・・?」

 そこは人通りの多い大通りから少し離れた薄暗い路地である。だがそこは大通りとは違い、全くと言っていいほど人通りが少ない。たまにホームレスが寝転がっているだけだ。

 そこにデブとその従者数名、そしてエルフの娘が何やら言い争いをしていたのである。

「こら!!いう通りにしないか!!」

「・・いや、いい。」

「しかし、親方さま」

「こうしよう。無理やり服を脱がす方がそそるとは思わないか」

「・・・わかりました」

 にやりと従者たちは邪悪な笑みを浮かべる。そして無理やりエルフ娘の服を脱がそうとしたのだ。

「いやっ!やめてっ!!」

「ぐへへ、いくら泣いても奴らが助けるわけないだろう?人通りが少ない上に、わしは貴族。
 貴族に逆らうものは全員死刑なのだからな!!がーっはっはっは!!」

「っ・・!!」

 自然に体が動いていた。

 昔からかけっこには自信があったのである。

 風のように突進し、その勢いを利用して・・

「ん?」

 振り向いたときには遅かった。そのまま俺は拳を振りぬいてその顔を叩きのめしたのである。

「がっ・・・!!!」

「なんだ貴様!!?」

 突然の事態にようやく気が付いたみたいだった。体つきから従者は相当鍛えているのだろう。

 しかし数コンマの動揺を利用して、俺は女の子の手を取るとひったくりのように乱暴に引っ張ってその場から逃走する。

「キャッ!!」

「おいマテ!!

 一瞬遅れて従者たちが物凄い形相で追いかけてくる。お姫様抱っこをして大通りに出ると人ごみに紛れて無我夢中で走った。

「どうやら巻いたみたいだ」

「あの・・っ」

「ん?」

 お姫様抱っこしていた奴隷が顔を真っ赤にしていた。

「大丈夫ですから、おろしてください」

「あ、ああ・・」

 改めて見てみるとその奴隷はとてもかわいかった。

「あの、、ありがとうございました・・」

「え?ああ、うん、いいよ」

 彼女は目を逸らしつつ顔を真っ赤にしていた。もしかして僕に気があるのかな・・?と期待したりもしたが、しかし、早まってはいけない。俺には幼馴染の反応を早まってしまい、逆にびんたされたこともあるのだ。

 その経験が功を奏したのかわからないが、彼女は目を潤ませていった。

「あの、、でも、、大丈夫なんですか? あのデブ・・いえご主人様はこの町でもかなりの大金持ちです。
 奴を敵に回したらどうなることか・・やっぱり私・・戻ったほうが・・でも、あんなデブの相手をするなんて・・ぐすっ」

「いや、そのことだけど・・」

 そう、これは僕の問題だ。仮に彼女が責任をかぶる必要なんてない。

「実は、僕は今まで、何のために生きてきたのかわからない節があったんだけど、でも、今分かった。君を助けることが僕の生きる道、、いや違うな。君を助けることによって自身がつけられたのなら、今やっている仕事を首になってもいいって、思うんだ」

「え・・でも、私のせいで・・」

「いや、だから違うんだ 君を出しにして自分をヒーローみたいな、おとぎ話の英雄みたいに生きてみたいんだ。
 だから、君はただ助けられるだけでいい。」

「それって・・おとぎ話のお姫様みたいに?」

 そういって彼女はくすりと笑った。

 その表情に一瞬心を奪われる。

「ふふ、面白い。でも、一つだけ勘違いしていることがあるわよ」

「え?それって」

「あなたはおとぎ話の英雄なんかじゃない。本物の私にとってのヒーローなんだからね。私のナイト様」

 そう言って手を取ったのだ。

「さあ、行きましょう!!私をエスコートして!!」

「え、ああ、うん。イクゾッ!!」

 こうして僕たちの冒険が始まったのだった。
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