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デスゲーム
しおりを挟む「さあ、皆さんには投票してもらいます」
モニターに映ったピエロの格好をした男は、狂気を孕んだ声でそう言った。
「処刑されるものを決める投票を・・ね。ククク」
真っ白い部屋。通気口の音が絶望感を掻き立てていた。
そこには、最低限の生活する施設、トイレ、冷蔵庫、あとは個別の部屋へとつながる扉しかない。
外に出る扉は、厳重に固定されているようだ。
「そ、そんな・・!これが巷で噂のデスゲームっていう奴なのか?!
「もうおしまいだぁ・・!!」
「何で俺たちなんだよ!!」
その部屋には、十人程度の参加者が不安げに顔をゆがめている。
参加者と言っても、自ら志願したわけではない。
彼らは、無作為に強制的に拉致されて連れられてきた。
そしてこれらの動画を裏サイトにアップロードする。権力者がそれを賭けに使う。完全なる闇組織。
それはニュースになったほどだった。
それなのに、そのデスゲームが止められないのは、この主催者が警察とのコネがあるからである。
「ククク・・では、ゲームを始めましょう」
だが、、彼らが予測していないことがあった。
その参加者の中に、メンタル強の者がいたことである。
「・・あの、質問いいですか?」
「・・・?なんですか?何なりとどうぞ」
慇懃無礼にその進行役のピエロは小ばかにしたように言うが、しかしその内心、若干の違和感を覚えていた。
どの参加者も、その表情には絶望感漂う雰囲気が漂っているというのに、そのものだけは全くの平静に、まるで午後のティータイムかのようにいたから。
彼は言った。
「その処刑されるものは、自ら立候補してもよいものですか?」
「・・え?」
普通、自分が死ぬからそれは損にしかならないことだった。
だが、偶然、過去に、他人を生かすためにそう提案したものがいた。
なので、それ以降は、立候補はありとルールに付け加えた。何ら問題ない。
「ええ・・別にいいですが・・」
ピエロは、そう答える。すると、相手はほっとしたような顔をして、何事もないかのようにこういったのだ。
「あ、じゃあ僕、立候補します」
「!?」
何を言っているんだという顔に、進行役だけでなく、参加者までもが彼を見つめた。
それはすなわち、自ら死をえらぶということだった。
親切な人が彼の型を掴んで説得する。
「おい、いいのか?!おまえ、死ぬってことなんぞ?!」
「ええ、知っていますよ」
それでも平然としている相手に対し、彼は察する。
「!まさかお前・・自殺願望があるのか?」
それに対し、首を振って否定した。
「いえ、そんなものはありませんよ。せっかく得た命、何の理由もなく手放すことはしたくありません。ですが・・」
彼は参加者を見て言う。
「みなさん、知っている方は知っているかもしれませんが、、このデスゲームは、生き残った最後の一人は生きて出られるとか、そういうルールはありません。
一応、そう説明されるかと思いますが、裏サイトで出回っている動画のラストは、生き残った一人も最後の最後に処刑されることになります。
つまり、この部屋から生きて出られるものは一人もいません。
加えて、このデスゲームは半ば国が主導で行っているものといううわさがあります。
ですから、助けが来る確率もほぼゼロ」
つまり・・
この状況の最適解を、彼は言う。
「つまり、早く死んだほうが有利なんです。
早く死んだ分だけ、醜い争いに巻き込まれずに済みますから。
ですから、最初の処刑対象は私が立候補します」
「・・・!!」
異様な雰囲気。
死と生の瀬戸際という、危機的状況の中、彼が冷静に導き出した結論は、正論だということを否応に感じていた。
加えて、この彼のカリスマ。
集団は、危機的状況に陥っている状態では、藁にも縋り付きたいように強いリーダーを求めるという。
あらゆる戦争において、それは歴史が証明しているだろう。
故に、、納得する。心の弱いものだけではない。周囲の雰囲気に流されて、生存本能の高いものでさえ、彼のもつ雰囲気にのまれてしまった。
「では、、私はこれで失礼します」
そうして彼は処刑された。
そうして、異様な雰囲気、かつ無言の静寂の中、それを破ったのは
「あ、あの・・」
おずおずと声を上げた。
「次は私が立候補します・・」
「!!」
そうして、次々と、彼らは自分から死を選んだ。
そう、最後の一人になるまで。
このデスゲームは類を見ない、醜い争いのない、静かなものとなった。
それを、裏サイトから見ていたものは、動揺した。
いや、それだけならばよかっただろう。
次のデスゲームも、そのまた次のデスゲームも、自ら死を選ぶことしか参加者はしなくなっていった。
醜い争いを望んでいたものは、その吐け口をあらゆるところにぶつけた。
そして、それに看過されたデスゲーム組織の一人、二人が、組織を抜けようとし、排除されるか、もしくは自殺を選んだ。
どんなに異常な世界に身を置いたとしても、人の心というものは捨てきれないものらしい。
自らがやってきたことを悔い、自殺、あるいは幹部を殺害しようと反対勢力を作るものもあらわれた。
もはやデスゲーム組織は、幹部以外敵しかいなくなってしまった。
その過程で、幹部たちは自らの精神を崩壊させていった。
自らの攻撃欲求を満たさんとするために、無意識に仲間割れをしていく。
「お前がいけないんだ!!」「いやお前だ!!」「お前が犠牲になれ!!」「死ぬのは俺じゃない!お前だ!!」
互いに争いを始める。
それはまさしく、彼らが今まで作ってきたデスゲームそのものだった。
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