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第二章 王城
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貴族が大広間に揃い、夜会が開会される。
前室へと通されたリオネルは、久しぶりに王太子以外の王族の顔を見た。
ここにいる王族は、王と王妃。王弟夫婦、王太子夫婦と第二王子だ。
第二王子のエイブラムの妃は今妊娠中のため欠席らしい。
王族の中で一番リオネルを嫌う王妃マルティナは、こちらを睨む視線が冷たい。
王妃は自分から王の寵愛を奪ったリオネルの母親が許せないのだ。
それでもリオネルは彼女に命を狙われることなく、公式行事にも出席させてもらえるのだから、私情ではなく王妃としての自分を前面に出しているので、リオネルはある意味で尊敬していた。
リオネルの母親の養子先の伯爵家は、王へハニートラップをかけたとして二度と王都には入って来れない措置を取られている。
最も、ディクソンの王太子としての地位の安泰とリオネル自身がリオネルを担ごうとしている勢力から距離を取っているから、王妃にはリオネルを邪険にする必要がないというのもある。
「ちょっと顔つきが変わったか?」
リオネルに声をかけてきたのは王弟ガリウスだ。
彼はいつもリオネルのことを気にかけて声をかけてくれる。
リオネルが幼少の頃には幾度か剣の稽古をつけてくれ、リオネルにとって一番親しくしてくれる王族だ。
ガリウスの影響を受け、リオネルは騎士の道に進もうと思ったのか。
「なんにせよ、お前がやる気になったのは良い事だ」
「頑張って精進します」
「一端の口をきくようになって…まあ…」
和やかに話すガリウスとリオネルだが、やはり二人を見る王妃の注ぐ視線は冷たい。
王族面をしているのはやはりお気に召さないらしい。
「さあ、入場しますか」
王妃の視線を切るようにガリウスが前へと進み、リオネルを促す。
成人して出席するようになって3回目の夏の夜会だが、憂鬱でしかない。
それでも、今日はユクシーがいるのだと思うと、少しでも格好いい姿を見て欲しいと思ってしまう。
会場にいる人間達よりも少し高い場所に立ち、王と王妃の入場を待つ。
会場の貴族は頭を下げているので、ユクシーがどこにいるかはわからない。
開会したらすぐにユクシーの所に行くつもりだ。
王妃と王妃が入場し、ようやく会場を見渡せる。
王が開会の口上を述べている間にユクシーを探す。
侯爵家だから前の方にいるはずだ。
ケイセルを見つけることができ、その側にひっそりとユクシーが立っている。
色とりどりの華やかなドレスを纏った令嬢なんか目に入らない。
リオネルが見つめていたのがわかったのか、ユクシーと目線が合ったように思う。
自然とリオネルの口元が綻ぶ。
ようやく王の話が終わり、王と王妃のファーストダンスへと移るようだ。
リオネルは壇上から下り、ユクシーの元へと足を向けた。
リオネルが歩くと視線が絡みつく。
エトワール公爵家の人間だ。
いつもはホールに下りて人に混じることのないリオネルの動向が気になるのだろう。
エトワール公爵家は王妃の生家だ。
今この国の貴族の中で一番の力と権力を持っている。
リオネルがこの先生き続けられるかどうかは、彼らの機嫌次第だ。
「ケイセル殿」
ファーストダンスが始まる。
ホールの視線が中央の王達に集まっている間にリオネルはユクシーの側まで来ることに成功し、ケイセルが歓迎してくれる。
目線を合わせたユクシーは、照れくさそうに笑ってくれる。
「リオネル殿下、紹介させて下さい。こちらが私の両親になります」
「初めまして、ファンダー侯爵」
ケイセルの横にいたファンダー侯爵夫婦がリオネルに挨拶する。
「ユクシーを側に置いて頂き、大変光栄に思っております」
ファンダー侯爵は財務大臣をしているこの国の金庫番だ。
金庫番という名に相応しい堅物という評価だ。
その横に寄り添う夫人のクリスタは優しそうに微笑む。
「そして、こちらが私の妻のソフィアになります」
「お初にお目にかかります、殿下」
ケイセルに寄り添うソフィアは華やかな女性だ。
「もしよろしければ、後で私の妻と一曲踊ってやって下さい」
「喜んで」
事前に打ち合わせした通りの流れをケイセルが持っていく。
今日の夜会でリオネルがすることは、ファンダー侯爵家と懇意にしていることを示すこと。
軍幹部数人に挨拶することだ。
「ユクシー、殿下に付いて行きなさい」
「頑張ってね、ユクシー。後で私と踊ってよ、絶対に」
真面目に指示を出すケイセルの隣で、ソフィアは拳を握る。
可愛らしいリアクションをするソフィアに、ユクシーは苦笑する。
「仲が良いのだな」
ソフィアはユクシーの義理の姉であるはずだが、実の姉弟と言われても違和感がない。
「僕が本宅に引き取られた時に、ソフィア姉様が親身にしてくれたんです」
本宅での暮らしに気後れしていたユクシーの遠慮を取り除いてくれたのがソフィアだった。
義理の母親であるクリスタにどう接していいかわからなかったユクシーと家族との間を取り持ってくれていた。
「ソフィア姉様のためにも、今は立派に挨拶を済まさなきゃ…」
「そうだな」
二人が向かうのは軍の重鎮達のいる所だ。
リオネルが学園を卒業したら世話になるだろう方々だ。
「お、リオネル」
手招きしてくれるのはガリウスだ。
彼の側にはリオネルが挨拶刷る予定の人達が集まっていた。
「こちらがブルトン中将とムリア大佐だ」
ガリウスに紹介してもらい、難なく挨拶が終わる。
「よし、俺の妻と踊ってこい!」
そう言ってガリウスは近くで談笑していた自分の妃を手招きする。
「マーナ、リオネルと踊ってやってくれ」
「まあ、私でよろしいの?」
「ぜひお願いします、伯母上」
軽いやり取りの後、リオネルが王弟妃をエスコートしてダンスエリアへと向かっていく。
ユクシーはただ、その後ろ姿を見送るしかできない。
「ファンダー君にはリオネルが随分と懐いているな」
リオネルがユクシーのことをチラチラと気にしていたのをガリウスに気付かれたらしい。
「大変光栄に思っております」
「そんな硬くなるな。取って食いやしない」
豪快な笑みを見せるガリウスは、不安そうなユクシーを元気付けてくれようとしているのだろう。
「何分、あまり社交をしてこなくて、私自身が不慣れでして…」
「兄のあの強かさを持っていない方が俺は好感高いぞ」
王太子の片腕として頭角を現しているケイセル。
挨拶の場も王弟妃とのダンスもすべてケイセルが仕掛けたものだ。
「お前にも期待しているが、それよりもリオネルのことを頼む」
ガリウスのそれは不遇の甥を思う気持ちなのだろう。
今まで人を側に寄せ付けなかったリオネルを心配していたガリウスは、ユクシーを側に置いたことだけでも嬉しかった。
リオネルが学園を卒業すれば、否応なしに権力闘争に巻き込まれる。
騎士の道を選んだリオネルを守る傘になれればいい。
ガリウスは自分の妻と踊るリオネルを見つめた。
前室へと通されたリオネルは、久しぶりに王太子以外の王族の顔を見た。
ここにいる王族は、王と王妃。王弟夫婦、王太子夫婦と第二王子だ。
第二王子のエイブラムの妃は今妊娠中のため欠席らしい。
王族の中で一番リオネルを嫌う王妃マルティナは、こちらを睨む視線が冷たい。
王妃は自分から王の寵愛を奪ったリオネルの母親が許せないのだ。
それでもリオネルは彼女に命を狙われることなく、公式行事にも出席させてもらえるのだから、私情ではなく王妃としての自分を前面に出しているので、リオネルはある意味で尊敬していた。
リオネルの母親の養子先の伯爵家は、王へハニートラップをかけたとして二度と王都には入って来れない措置を取られている。
最も、ディクソンの王太子としての地位の安泰とリオネル自身がリオネルを担ごうとしている勢力から距離を取っているから、王妃にはリオネルを邪険にする必要がないというのもある。
「ちょっと顔つきが変わったか?」
リオネルに声をかけてきたのは王弟ガリウスだ。
彼はいつもリオネルのことを気にかけて声をかけてくれる。
リオネルが幼少の頃には幾度か剣の稽古をつけてくれ、リオネルにとって一番親しくしてくれる王族だ。
ガリウスの影響を受け、リオネルは騎士の道に進もうと思ったのか。
「なんにせよ、お前がやる気になったのは良い事だ」
「頑張って精進します」
「一端の口をきくようになって…まあ…」
和やかに話すガリウスとリオネルだが、やはり二人を見る王妃の注ぐ視線は冷たい。
王族面をしているのはやはりお気に召さないらしい。
「さあ、入場しますか」
王妃の視線を切るようにガリウスが前へと進み、リオネルを促す。
成人して出席するようになって3回目の夏の夜会だが、憂鬱でしかない。
それでも、今日はユクシーがいるのだと思うと、少しでも格好いい姿を見て欲しいと思ってしまう。
会場にいる人間達よりも少し高い場所に立ち、王と王妃の入場を待つ。
会場の貴族は頭を下げているので、ユクシーがどこにいるかはわからない。
開会したらすぐにユクシーの所に行くつもりだ。
王妃と王妃が入場し、ようやく会場を見渡せる。
王が開会の口上を述べている間にユクシーを探す。
侯爵家だから前の方にいるはずだ。
ケイセルを見つけることができ、その側にひっそりとユクシーが立っている。
色とりどりの華やかなドレスを纏った令嬢なんか目に入らない。
リオネルが見つめていたのがわかったのか、ユクシーと目線が合ったように思う。
自然とリオネルの口元が綻ぶ。
ようやく王の話が終わり、王と王妃のファーストダンスへと移るようだ。
リオネルは壇上から下り、ユクシーの元へと足を向けた。
リオネルが歩くと視線が絡みつく。
エトワール公爵家の人間だ。
いつもはホールに下りて人に混じることのないリオネルの動向が気になるのだろう。
エトワール公爵家は王妃の生家だ。
今この国の貴族の中で一番の力と権力を持っている。
リオネルがこの先生き続けられるかどうかは、彼らの機嫌次第だ。
「ケイセル殿」
ファーストダンスが始まる。
ホールの視線が中央の王達に集まっている間にリオネルはユクシーの側まで来ることに成功し、ケイセルが歓迎してくれる。
目線を合わせたユクシーは、照れくさそうに笑ってくれる。
「リオネル殿下、紹介させて下さい。こちらが私の両親になります」
「初めまして、ファンダー侯爵」
ケイセルの横にいたファンダー侯爵夫婦がリオネルに挨拶する。
「ユクシーを側に置いて頂き、大変光栄に思っております」
ファンダー侯爵は財務大臣をしているこの国の金庫番だ。
金庫番という名に相応しい堅物という評価だ。
その横に寄り添う夫人のクリスタは優しそうに微笑む。
「そして、こちらが私の妻のソフィアになります」
「お初にお目にかかります、殿下」
ケイセルに寄り添うソフィアは華やかな女性だ。
「もしよろしければ、後で私の妻と一曲踊ってやって下さい」
「喜んで」
事前に打ち合わせした通りの流れをケイセルが持っていく。
今日の夜会でリオネルがすることは、ファンダー侯爵家と懇意にしていることを示すこと。
軍幹部数人に挨拶することだ。
「ユクシー、殿下に付いて行きなさい」
「頑張ってね、ユクシー。後で私と踊ってよ、絶対に」
真面目に指示を出すケイセルの隣で、ソフィアは拳を握る。
可愛らしいリアクションをするソフィアに、ユクシーは苦笑する。
「仲が良いのだな」
ソフィアはユクシーの義理の姉であるはずだが、実の姉弟と言われても違和感がない。
「僕が本宅に引き取られた時に、ソフィア姉様が親身にしてくれたんです」
本宅での暮らしに気後れしていたユクシーの遠慮を取り除いてくれたのがソフィアだった。
義理の母親であるクリスタにどう接していいかわからなかったユクシーと家族との間を取り持ってくれていた。
「ソフィア姉様のためにも、今は立派に挨拶を済まさなきゃ…」
「そうだな」
二人が向かうのは軍の重鎮達のいる所だ。
リオネルが学園を卒業したら世話になるだろう方々だ。
「お、リオネル」
手招きしてくれるのはガリウスだ。
彼の側にはリオネルが挨拶刷る予定の人達が集まっていた。
「こちらがブルトン中将とムリア大佐だ」
ガリウスに紹介してもらい、難なく挨拶が終わる。
「よし、俺の妻と踊ってこい!」
そう言ってガリウスは近くで談笑していた自分の妃を手招きする。
「マーナ、リオネルと踊ってやってくれ」
「まあ、私でよろしいの?」
「ぜひお願いします、伯母上」
軽いやり取りの後、リオネルが王弟妃をエスコートしてダンスエリアへと向かっていく。
ユクシーはただ、その後ろ姿を見送るしかできない。
「ファンダー君にはリオネルが随分と懐いているな」
リオネルがユクシーのことをチラチラと気にしていたのをガリウスに気付かれたらしい。
「大変光栄に思っております」
「そんな硬くなるな。取って食いやしない」
豪快な笑みを見せるガリウスは、不安そうなユクシーを元気付けてくれようとしているのだろう。
「何分、あまり社交をしてこなくて、私自身が不慣れでして…」
「兄のあの強かさを持っていない方が俺は好感高いぞ」
王太子の片腕として頭角を現しているケイセル。
挨拶の場も王弟妃とのダンスもすべてケイセルが仕掛けたものだ。
「お前にも期待しているが、それよりもリオネルのことを頼む」
ガリウスのそれは不遇の甥を思う気持ちなのだろう。
今まで人を側に寄せ付けなかったリオネルを心配していたガリウスは、ユクシーを側に置いたことだけでも嬉しかった。
リオネルが学園を卒業すれば、否応なしに権力闘争に巻き込まれる。
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