王子様に重めに愛されてます

朔月ひろむ

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第二章 王城

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王城でリオネルとユクシーを迎えてくれたのは、使者としてやってきた男だった。
もしかして、リオネルのことを担当しているのかもしれない。
彼の後を付いて行きながら、ユクシーは廊下をキョロキョロと視線を彷徨わせている。
リオネルにとってはいつもの降車場から続く廊下だが、ユクシーは初めて入る場所だ。
「うぅ……場違い……」
そんなつぶやきが隣から聞こえてくる。
そこで、リオネルは初めてここが王族など貴賓のための降車場でユクシーのような王城に縁がない人間は入ることが無いエリアだと気づく。

「ここでしばしお寛ぎ下さい」
通された部屋で夜会まで待機しておけということだろう。
特段、王族や国賓に挨拶する必要のないリオネルはいつものことだが、やはりユクシーは落ち着かないようだ。
「夜会になったらろくなものは食べれないからな。今の内に食べておこう」
目の前に置かれている軽食をユクシーに取り分けてやる。
「ありがとうございます。でも緊張していて…」
「でも、食べておかないともたないぞ」
「そうなんですけどね…」
そんな会話をしながら、ユクシーとテーブルに用意されている物を摘む。
しかし、先程から控えている侍女の視線がうるさい。
侍女なのだから気配を殺しておけばいいのに、リオネルとユクシーを見ている。
ユクシーを見ることが不快で、侍女を軽く睨めばようやく視線を外す。
王城でリオネルの好きにできないから我慢するが、できれば人払いしてユクシーと二人きりでいたい。
次に二人きりでいられるのはいつになるのだろうか。
リオネルは早くも離宮に帰りたくなっていた。

食事も終わり、テーブルの上を片付けられた頃、部屋のドアをノックされる。
入室してきたのは、ユクシーの兄ケイセルだった。
「お久しぶりでございます、リオネル殿下。私の弟は何か粗相はなさいませんでしたか?」
リオネルの兄にして、この国の王太子ディクソンの腹心。
たまにリオネルがディクソンと話す時に背後に控えているが、こうして話すことはあまりない。
ユクシーよりも10歳上のケイセルは、柔かな雰囲気を持つ弟とは違い厳しい空気を纏っている。
「いや、ユクシーの手を煩わせているのは私だからな。とても助かっている」
上辺だけのお互いの腹を見せない会話。
どうあっても好きにはなれない。
しかし、ケイセルの隣で顔を強張らせているユクシーのためにもここはきちんとしておかなければならないだろう。
「それは安心致しました。兄としても成績ばかり優秀な弟がきちんとお仕えできたようで嬉しく思います」
「兄上っ!もういいでしょう?」
真面目な物言いだが、何かを多分に含んだ言い方をするケイセルに、ユクシーが慌て出す。
「そうだな。ソフィアがそろそろ到着している頃だろう。ソフィアも君に会いたがっていた」
「あ、ソフィア様は兄の妻で……」
誰かという問いを含んだ視線にユクシーが説明してくれる。
「そう。ユクシーを育てた私の愛すべき妻だな」 「育てた…?」
「ちょうどソフィアが嫁いで来た頃にユクシーも家にやってきたからな。多忙な父や私よりもよほど懐いたのだ」
ユクシーの家にいた様子は聞いたことがなかった。
リオネルはユクシーが好きな食べ物や良く読む本は知っているが、一緒に過ごした時間以外の情報は知らなかった。
「さて、そろそろ私達は会場へ向かいます。今後のことは追ってディクソン様からお話があるでしょう」
ケイセルは無礼にならない程度に振る舞ってユクシーを連れて出て行ってしまった。
ユクシーが部屋を出るまでこちらをチラチラと見ていたが、リオネルにはかける言葉が見つからなかった。

リオネルはユクシーのことをほとんど知らない。
知っているのは、貴族名鑑に乗っているような情報だけだ。
ユクシーがリオネルの側にいたのは、ケイセルの計らいがあったこそだ。
もしケイセルとディクソンがリオネルの側にユクシーを置くことはできないと判断すれば、もう二度と会うこともできないのかもしれない。
昨夜も馬車の中でも、そして今部屋を去る時も、何とも言えない哀しみを湛えたユクシーの瞳。
リオネルは気づいてやれなかった。
もしかしたらユクシーとはこの時が今生の別れになる可能性だってある。
今までそこまでの可能性に思い至らなかった自分に腹ただしい。
そして、自分がどうしようもなくコドモだと認識せざるを得ない。
「ユクシー…」
リオネルは拳を握りしめた。



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